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外国人労働受け入れは送出国にも恩恵をもたらすのか [外国人労働者]

2004年9月に月刊誌「正論」に投稿したものです。案の定ボツにされましたが、今の日本の外国人労働者受け入れの議論が日本側の事情が先行していて、途上国側の国内事情があまり考えられていないのではないかと疑問に思い、書いてみることにしました。

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「外国人労働受け入れは送出国にも恩恵をもたらすのか」

 外国人労働の受け入れの是非を巡っては、少子高齢化がもたらす我が国の経済社会の変化をその受け入れによってどう食い止めるか、そして受け入れ自体が私たちの社会にどのような影響を及ぼすのかを予想して行なわれている議論が圧倒的に多いように思うが、本稿ではやや視点を変えて、外国人労働者の受け入れが送出国の開発に対して与える影響の検討を通じて、受け入れの是非について考えてみたい。

 世界銀行が今年4月に発表した『世界開発金融2004』によると、出稼ぎ労働者の海外送金による途上国への資金流入は2003年に930億ドルに達しており、ODAによる資金流入280億ドルを大きく上回ったとされる。出稼ぎ送金がODAをはるかに上回る現状に、出稼ぎ送金が経済開発に与える効果にも注目が集まっている。世銀の発表と同じ時期、米国シンクタンクである世界開発センター(CGD)は、「開発コミットメント指数(CDI)」の2004年版を発表した。CDIは先進国の開発への総合的取組みを示す分野として七つを挙げているが、平和構築やODA、貿易開放度、環境対策等と並び、「移動人口の受け入れ」も指標に取り上げられた。

 民間レベルで先進国から途上国に向けて行なわれるこのような所得移転は、確かに途上国の開発プロセスに必要な資源動員のチャンネルとして重要ではあろう。しかし、それが途上国の貧困削減に貢献するものなのか、明確な結論は出ていない。

 外国送金は短期的には途上国の所得格差を拡大させる方向に向かうと考えられる。第一に、途上国の労働者が海外に出稼ぎに出るためには、仲介者に対して相当巨額な手数料を納めなければならない。自己資金に乏しい場合は借金をして渡航するのであるが、それには資金を集められるだけの信用力が当該労働者になければならない。海外渡航可能な労働力は、当該送出国における最貧困層に属しているわけではないと考えられる。第二に、渡航が実現して海外送金を母国に向けて始めたとしても、元々最貧困層に属さない出稼ぎ労働者が行なう母国の家族向け送金は、最貧困層に属さない家族の中での資源の移転に過ぎないため、所得階層的には中下位以上に相当する層の生活向上には繋がるが、最貧困層との生活格差はかえって拡大する恐れがある。民間レベルでの所得移転が送出国国内に乗数効果をもたらし、国内経済全体が成長することでその恩恵は最貧困層にも波及するかもしれない。しかし、出稼ぎ送金は少なくとも送出国の最貧困層への直接所得移転ではない。

 我が国の外国人労働受け入れ容認論で想定されている看護・介護分野の労働者の送出国はフィリピンであるが、現在日本政府側が主張している日本の資格取得という条件には、それを取得するのに必要な費用が当然かかることを考慮すべきである。資格を取得するのに必要な人的投資が可能な可処分所得を持つ階層は中下位よりもさらに上の所得階層と考えられるため、こうした条件を付けることはフィリピン国内の所得格差を何も条件を付けない時以上に拡大させるのではないかと懸念する。

 さらに、フィリピン国内の空洞化の懸念もある。フィリピンの看護・介護分野の最も優れた人材が比較的恵まれた他国の賃金に惹かれて海外流出すると、残るのは渡航機会に恵まれない質がやや劣る人材であり、渡航した労働者が以前勤めていた職場を直ちに国内の残留労働力で代替することは難しく、生産能力の低下を免れないのではないか。実際、フィリピン看護師の海外流出の原因は国内外の賃金格差に加え、自国内の劣悪な就労環境にあるといわれている。看護師1人が世話をする患者数は1シフト当り100人以上で、理想とされる15人を大きく上回っている。フィリピンから看護師として出稼ぎに出る労働者数は約1万3500人で国内での就業は数百人程度であり、この職種は専ら海外での就業機会狙いであることは明らかであるが、その中で最も劣悪な労働力がフィリピンに残留するとしたら、我が国のフィリピン人労働受け入れは同国の看護サービスの劣化を助長するのではないか。

 こうして見てくると、送出に積極的な政府の姿勢とは裏腹に、フィリピンの社会構造を勘案しても我が国の受け入れは慎重に行なう必要があるように思う。経済学では、資本や労働力といった生産要素の完全可動性は生産要素の価格を世界的に均等化する方向に機能すると言われているが、要素価格の均等化は、貿易が完全に自由に行なわれることでも実現可能である。自由貿易によっても途上国の賃金上昇と雇用機会創出が得られるのである。そもそも、労働移動が増える理由は途上国国内での投資不足や雇用不安といった問題にある。投資増と雇用促進を促すために我が国にできることは、輸出産品に対する市場開放やではないか。


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