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『団地が死んでいく』 [読書日記]

団地が死んでいく (平凡社新書 415)

団地が死んでいく (平凡社新書 415)

  • 作者: 大山 真人
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 新書
老朽化する建物。老いていく住民。そして深刻化する孤独死。
団地再生のカギはどこにある?
6月に一時帰国している間の僅かな時間の間に、十分なリサーチもせずに表紙だけをみてぱっと購入したのがこの1冊。第一印象としては高度成長期に都市に流入する若年労働者層人口に対して急ピッチで住宅供給を行なうために作られた団地が、それから30~40年経過して、建物の老朽化が進み、税収不足に悩む自治体がインフラや公共サービスを維持する予算も捻出できずに建物だけではなく制度としても老朽化が進んでいくという状況をレポートしたものだろうと思った。しかし、読んでみると、建物の老朽化を問題としているのではなく、むしろ高齢化した住民、取り分け独居住民という「人」の方により焦点を当て、住民の間で増える孤独死とそれをどのように防ぐのかを問題にしているということがわかってきた。

元々これら公営や公団の団地は「世帯の収入がどんどん増加して、次々に転居が繰り返されることが前提であり、このように建設した当初に入居した人々が20年以上も定住することは、全く想定されていなかった」(p.94)のだという。なんか、所得水準に合わせてマイカーのグレードを上げていくようなイメージで住宅供給政策が採られていたというのはちょっと驚きだった。また、郊外のニュータウンについても、当初のコンセプトは郊外を田園都市として、職住一体を基本理念としていたが、実際には郊外の安いと土地に住宅だけを設け、同じ地域に企業を誘致することができず、結局都心にある会社に通うだけのベッドタウンを造る結果になってしまったことも指摘されていた(p.101)。こうした、所期の目的と異なる結果となっている点では政府も罪作りの政策ミスをしたものだと思うが、当時の状況を考えるとこれ以外の政策を採り得たのかどうかというと疑問でもある。なにせ、本書でインタビューを受けた殆どの方が、当時を振り返って、何百倍という競争倍率を勝ち残って入居することができた喜びを率直に語っているのである。

著者の問題意識は次の通りである。
タイトルの「団地が死んでいく」にはふたつの意味がこめられている。ひとつは建物そのものの老朽化であり、もうひとつは、そこに住む住民の老齢化によって団地そのものの意地が不可能になることを指す。そこに孤独死が忍び寄ると考えた。だが、それは少しばかり違っていた。団地が死ぬか生きるかは「建て替えの仕方」に問題があった。(中略)団地が新しくなれば孤独死は減るのだろうか。答えは「否」である。常盤平団地の築47年の団地では孤独死が減った。その境目を分けたのは、孤独死を防ごうとする住民の積極的な参加、支援だった。
著者は「結(ゆい)の創造力」という言葉を使っているが、それは住民同士、お互いを助け合おうとする繋がりが持てるかどうかということで、住宅建築の発想としても、こうした繋がりを持たせるために設計に何が求められるかを考えることが必要だといわれる。

著者の結論自体には異存はない。だが、疑問も残った。団地は一般家屋に比べて本当に孤独死が多いのかという点である。これに関しては何ら統計データが示されていないが、僕の予想は両者に有意な差はないというものである。一応一戸建てのマイホームを持つ身としては、団地だけを特別扱いしないで欲しいなと苦笑するが、人と人との繋がりの希薄化というのは、何も団地というコミュニティだけに言えるのではなく、小規模な団地も含めた地域全体でも言えることだと思うのである。従い、著者が幾つかの新聞マスコミ報道や実際の取材の中から情報収集し、それを整理した「私的孤独死予防策」には、首肯させられるものが多い。

余談ではあるが、僕は今の会社を辞めるとしたら、地域内で誰でもが集まれる「サロン」を経営したいと思っていた。これは僕のオリジナルの発想ではなく、かなり前に故郷の父が言っていたものでもある。団地住民ではないが、地方都市のベッドタウンと位置付けられる故郷の小さな街でも、人と人の繋がりの重要性について、父は20年近く前からそれに気付いていたのである。そして、そういうサロンにおいて、行政の様々な高齢者福祉に関する情報、当然受けられるサービスに関する情報が入手できるようにしておく必要もあると思う。

20年以上前に僕が独身だった頃、僕は人づきあいがウザイと思っていたし、1人で何でもやれる、生きていけると本気で思っていた。今の会社に転職して入社したばかりの頃、豊島区南長崎のアパートに入居したところ、管理人さんが「歓迎会」と称して頻繁に飲み会を企画しておられた。お節介な管理人だと思い、嫌気がさして半年で転居してしまったが、一見構造的には何の工夫もない普通の集合住宅でも、住民の工夫によって繋がりを作る仕掛けができるのだという先進的なことやられていたのかなと今になってみると評価できる。当時の僕には思慮が足らなかったと反省させられる。

末筆を汚すようだが1つだけ著者に苦言がある。著者の問題意識が自分自身が今の団地住まいのなかで老いを迎えていずれは「孤独死」の当事者になる事態を避けたいというところにあるのであれば、他の団地の取材だけではなく、自分が住む団地での聴き取り調査をやられてはどうかとも思った。本書のあとがきの中で、著者が編集長との打ち合わせにおいて、「どうせ書くなら、大山さんの団地内にもセンターを作ってみるのも面白い」という述べられた編集長に対し、著者が「大それたこの計画がすぐに立ち上がるとも思えない」と弱音を吐いておられるのが引っかかったのである。著者は本書を発表した後、ここで述べた私的孤独死予防策の有効性を、自分の住む団地で実証する必要があると思う。その団地の社会経済状況から、どの方策は受け入れられやすかったか或いは受け容れられにくかったか、受け容れられにくいとしたらその理由は何か、それをもっと知りたい。

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kobakoba

日本でも団地では同じことが起きています 典型的な例が私の住まいのすぐ側にある 多摩ニュータウン住宅団地 老齢化と過疎化が急激に進み 事業の赤字が問題化? こんなに急速に少子高齢化が進むとは思っていなかったんでしょうね でも 20年以上前の失業中に 国会図書館で見た資料には 少子高齢化と人口減少が予言されていて 驚いたことを覚えています 何の対策をしてこなかった与党の責任だと思います もっともその当時読んだ資料では5000万年後には日本はロシア大陸にぶつかり吸収されて消滅する とも書かれていましたが・・・ その意味からすれば 領土問題を騒ぎ立てるのは意味が無いのかとも思ってしまいます
by kobakoba (2008-08-03 13:25) 

ettem

団地は、これから色々と問題になっていくでしょうね。

中京地区の団地だと、住民のほとんどが日系人のところもあるようです。このようなところは、今後の景気後退のあおりで、治安が悪化していくのでは?と危惧しています。

最近の団地の入居者は所得が低い層が多くなっており、住民に対して下層階級の人が住み、治安の悪い地域と思っている人もいます。

団地で育った私としては、悲しい話です。

また、団地の変遷を描いた『みなさん、さようなら』と言うファンタジー小説があります。久しぶりに面白い小説を読んだ気がしました。
(団地のノスタルジーを感じただけかもしれませんが)
by ettem (2008-08-09 10:15) 

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