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西ベンガルの砒素汚染―問題解決の糸口 [インド]

会社でデスクワークをやっていると、実に様々な書類が回覧されてくる。ただの雑誌とかニューズレターとか、どこかの団体の事業紹介パンフレットだとか、よくもまあこんな紙の無駄遣いをやっているものだと感心することが多い。でも、何の気なしにパラパラと頁をめくっていくと、時として興味深い記事に出くわすことがある。

本日紹介するのもそんな記事の1つである。オランダのIRC International Water and Sanitation Centreという世界の水問題に取り組んでいる国際NGOが出しているニューズレター"Source Bulletin"の2008年5月版のトップページに掲載されていたもので、タイトルは「きれいな水は未来を拓く――西ベンガルの砒素除去(インド)(India: Arsenic Removal in West Bengal: clean water pays its way)」となっている。
記事のURLはこちらから[ひらめき]

初めに申し上げておきたいのは、バングラデシュでは深刻な問題となっている地下水の砒素汚染問題は、隣りのインド・西ベンガル州でも深刻であるということである。というか、バングラデシュの砒素問題が発覚する以前に、西ベンガル州の地下水から砒素は検出されており、学会でも報告がなされていたことには注意しておく必要がある。歴史としては西ベンガルの方が古いのだ。その上でこの記事を読んでいくと、地下水が砒素で汚染されるといったような逆境をビジネスチャンスに変える企業家の柔軟な発想を垣間見る思いがする。いや、誰もが問題だと感じているからこそ、その解決の糸口となりそうな技術革新があれば、それを利用したビジネスモデルは一挙にマーケットを形成できるのだともいえる。

今回のお話の前提となっている技術革新とは、ベンガル技術科学大学(Bengal Engineering and Science University)の水分野の専門家グループが開発した砒素除去フィルターである。このフィルターを用いた砒素除去装置によって、新たなビジネスチャンスが生まれたというのが今回の記事である。
Arsenic.jpg
例えばこの写真のディーパック・ダス(Dipak Das)さん、後ろが荷台になっている三輪式自転車を漕ぎながら運んでいるのは、密封された水差し20個である。彼は、この一種の「ペットボトル」を水源地から地域の家庭45世帯に配達している。水源には先ほどの砒素除去装置が設置されており、配達される水は砒素が除去された飲料水なのだ。

こうした目的のために開発された砒素除去装置は、①現地で入手可能な材料で製造でき、②電気を使わず操作が簡単で、③維持管理も簡単で、かつ④比較的廉価であるという条件を満たしている。この装置1基の製造価格は約8万7千ルピー(21万7千円)である。この装置は、高さ7フィート、直径12インチのステンレス製円筒に活性アルミナ層51インチと8インチの砂利を敷いた構造となっており、ここの水を通すことによって、300世帯の飲料水需要に応じることができ、しかも大きなメンテなしで10年から15年はもつと見られている。

この技術開発と装置の設置には、米国のWater for PeopleというNGOが大きく関わっている。彼らはベンガル科学技術大学との共同開発に加え、実際の装置110基の製造費用を負担し、設置にあたって設置場所や利用のルール、料金などを定める水利用者委員会の形成を働きかけた。

ディーパックさんは、この水源地から45世帯に飲料水を配達することで、月2800ルピーの現金収入を得ている。この現金収入はこの地域の村の所得水準からいってもかなり良い方である。彼は以前は道路脇でお茶屋を経営していたが、勤務時間はやたら長いのに儲けは大したことはなかった。飲料水配達事業は1日4時間の労働であり、残りの時間を他の経済活動に充てることができるという。

利用者のインパクトも大きい。砒素中毒症を患う住民の数は劇的に減り、元気でより生産的な生活が送れるようになったという。ある女性住民によれば、以前は毎月150ルピーを医薬品購入に使っていたが、今はその必要もなく、お金の節約ができるようになったという。

なんだか、この飲料水配達事業は、バングラデシュで爆発的に普及したグラミン・フォンとよく似たモデルであるように思える。この記事にはどのようにしてディーパックさんが地域住民の中から選ばれ、この事業に関わるようになったのかは描かれていないが、おそらく事業者選定においてグラミン・フォンのテレフォン・レディと同じような選定基準があったのではないかと想像する。

逆に砒素除去装置を設置することによって周辺住民が飲料水を買いにやって来るというケースも他にはあるという。そして、砒素除去装置によって、さらに派生的なビジネスも生まれる。飲料水配達業であれば、ついでに別の品物も売り歩くような抱き合わせ販売も行なわれるようになってきているし、飲料水販売店舗であれば、食品やスナック販売も併せて行なうというものである。8万7千ルピーという費用は個人がマイクロファイナンスを利用して事業を起こすとしてもちょっと割高なのではないかと気になるが、この記事にあるようなNGOかどこかが初期費用を負担する方法が取れれば、日常の運営自体はかなり持続性が高いのではないかという気がする。

10年ほど前、バングラデシュの地下水砒素汚染問題に少し関わっていた頃、某日系企業から聞いたのは、日系の企業で開発したフィルターを使えば、5年間交換不要で砒素を除去した水が飲めるというお話だったが、その時のフィルターの価格は約500万円だと言われていた。500万円もの交換費用を住民が負担できるわけがないじゃないですかとその時は当惑したものだが、もし今21万円程度で導入可能な技術になっているのであれば、10年間の技術革新はこうした途上国の問題に大きな解決の糸口を提供したと言えるだろう。

但し、この記事だけではよくわからない疑問点も幾つかある。例えば、ディーパックさんはこの飲料水配達事業で利用者から1ヶ月いくらの料金を徴収しているのだろうかという点である。前述の女性住民は医薬品購入に必要な150ルピーが節約できたと言っているのだから、高くても150ルピー以下だろうと推測できる。また、45世帯に配達して月2800ルピーの現金収入を得ているのなら1世帯当たり62~63ルピーとなるが、これに維持管理費を乗せて1ヶ月75ルピー程度なのだろうか。この程度のマージンでも15年間積み立てていけば、新しい装置を購入することもできることになる。そんなものなのかもしれない。その頃には今よりも技術が進歩しており、もっと安いフィルターが開発されているかもしれないし…。
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