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『アースダイバー』 [読書日記]

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思想家の中沢新一さんの近著である。2005年5月30日に第1刷が出ていて、既に6月16日に第2刷が出ているということは、この類の書籍としては比較的よく売れているということなのだろう。初版は比較的少なめの部数で刷ったところ、予想外の売れ行きで増刷を余儀なくされたということなのではないか。僕が読んだのは第2刷、ラインは異なるけれども職場の先輩から借りたものだ。

中沢新一『アースダイバー』講談社、2005年5月30日
縄文時代、東京は今よりもずっと海水が内陸に浸入してきていた。地質学では、洪積層という堅い土でできた地層と、沖積層という砂地の多い地層があるが、縄文時代に海水が奥まで浸入していた時代、洪積層をえぐって海水が浸入していた場所には沖積層の堆積物が見られる。従って、地表に表れている洪積層と沖積層の地層分布を見ていくと、東京は元々北欧のフィヨルドにも似た海岸地形を有していたことがわかり、それが町の形成に大きな影響を及ぼしているというのが大雑把な本書の趣旨である。

「沖積層がつくる低地と洪積世にできた台地状の土地と、東京は二つの違う土質でできた土地、二つの違う地形、二つの違う精神文化のせめぎあいとして、発展をとげてきた。」(p.218)

「沖積層の低地と洪積層の台地という、この二つの異なる地形が、都心部でとてもいりくんだ成り立ちをしていることは、すでにようく観察してきた。縄文海進期には、内陸部の奥深くまで海水が入り込んで、入り江が複雑な切れ込みをつくったからである。そのために高台と谷がつぎつぎと入れ替わっていく、アップダウンのはげしい地形を作った。そしてそれが、その上にできる商店街の性質や、そこに集まる人間の趣味まで決定している。」(同)

「台地と谷の交錯が都心部の地形をつくっている。そのために、台地の上から谷底へ向かうたくさんの坂ができることになる。坂は二つの性質の違う土地をつなぐ、移行の空間をつくっている。そして東京にはこの移行の空間である坂がやたらと多いのである。」(同)

東京の地形の特徴として、関東平野に位置するわりには非常に坂が多いということが挙げられる。濃尾平野の端っこで育った僕にしてみれば、平野というのは本当に平らな土地だという思い込みが当然あるのだが、それに比べると、関東平野は場所によってはかなりのアップダウンがあるように思う。取り分け、僕の職場がある市ヶ谷近辺は非常に坂が多い。だから、昔はどのような人が住んでいたのか、坂の上と下では住んでいた人の生活にどのような違いがあったのかとか、常々関心があった。

本書によれば、沖積層の土地がたまたま都心部に残されていると、そこは「エロス的なサブカルチャーの温床」(p.220)となっていくという。例えば、渋谷駅周辺や新宿歌舞伎町辺りは沖積地が洪積層の台地の中に入り組んで形成されたところに町として形成された。従って、新宿駅周辺と比較して、渋谷駅周辺や歌舞伎町界隈は町の雰囲気が全く異なるという。

「太田道灌が江戸城を築城した当時、その城は、関東に広がる巨大な洪積台地が海に向かって突き出した「ミサキ」の場所に建てられていた。その城はまだ小さなものだったが、眼前に広がる雄大な江戸前の海水は、城の足許をたえず洗っていて、自分の立ってるのが、ミサキの境界地帯だとすぐにわかった。中世の城は、よくそういう場所に建てられたのである。ところが、徳川氏が太田道灌の城のあった場所を居城としたとき、まっさきに考えたことは、(中略)城というものを都市のエッセンスを象徴する場所に改めようではないか、という近代的な思いつきだった。そのためには、自分の立っている場所がミサキでなくなればいい。こうして、今日の銀座や新橋の基礎をなす、江戸前の海の大規模な埋め立て計画が、進行していった。」(p.234)

主観的な観察事例を積み上げて結論に繋げようとしている点、実は本書の論旨は検証が難しい。東京はこういう地形だからそういう解釈ができるという特殊事例なのかもしれない。同じようなケースを日本国内で探すことができて、それで比較してみると、中沢氏の学説の説得性はもっと増すと思う。また、それが縄文期のようなフェーズを経験していない他の国においても説明可能な学説なら、さらに説得的かもしれない。いずれにせよ検証困難な間は、本書はファンタジーの一種としてしか取り上げてもらいにくい書物ではないかという気がしてならない。

最近、昼休みに職場を抜け出して周辺をウォーキングして歩数を稼ぐことに取り組んでいるのだが、市ヶ谷周辺――曙橋、牛込、神楽坂界隈は本当に坂が多い。街の雰囲気について坂の上と下とで大きな違いを感じることは未だそれほど多くはないが、なんとなくの印象として、高台の上には住宅地が多く、坂の下に行くと商業活動が集中しているような感じはする。本書を読む前には漠然と歩いていたに過ぎない町も、読み終えてから歩いてみると新たな発見も得られそうな予感がする。東京を歩く人に新たな視点を提供したという点で、本書はとても価値があると思う。

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