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『エチオピアからの手紙』 [南木佳士]

エチオピアからの手紙 (文春文庫)

エチオピアからの手紙 (文春文庫)

  • 作者: 南木 佳士
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2000/03
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
死にゆく患者たちを前に医者として、人としてとるべき誠実な態度とは…。文学界新人賞を受賞した「破水」をはじめ、人間の生と死を日常的に受け止めざるを得ない若き医師たちの苦悩と現実を、濃密に描ききった短篇五篇をおさめた、記念碑的デビュー作品集。著者自身が当時を振り返った、あとがきを新たに収録。
10日(水)夕方から11日(木)にかけてもう1つウッタルプラデシュ州ラクノウに駆け足で出かける出張があったので、書棚にあった文庫本等を3冊ほど適当にカバンにぶち込んだ。この際だから南木佳士さんの作品をまとめ読みしようと、書棚最前列にあった文庫2冊を選んだ。うち1冊が本作品である。

実は、『エチオピアからの手紙』はこれまでに何度か読もうとして最初の収録短編「破水」で挫け、先に進めないで途中撤退を余儀なくされた苦い経験がある。なぜ読み進められないのかというと、文中挿入されている登場人物の会話から情景をイメージすることができない作品だからだ。これまで読んできた大抵の小説では、会話の部分だけを拾い読みしてもストーリーをある程度追いかけていくことができた。しかし、南木作品は、セリフにはあまり重きがおかれておらず、その前後に描かれている情景をしっかり読んで押さえないと、ストーリーについて行けなくなることがある。それを痛感させられたのが「破水」における主人公の女医のセリフだったのだ。

「破水」で散々な経験をしただけに、今回はアプローチを変えた。最後の収録短編「エチオピアからの手紙」から読むことにしたのだ。元々本書を購入した動機はこの作品のタイトルにあったわけだから、メインディッシュを先に賞味しようということだ。結果はそれで良かったと思う。ある程度まではセリフでストーリーを追いかけられたので。そこである程度の達成感を味わった上で「破水」に挑戦したが、そちらの方もなんとかクリアできた。

慣れてくるとどの作品もその静かさが心地よい。映画やテレビドラマを見ていて、よく「こういう立ち位置でこんなセリフは絶対言わんよな」と自分の日常生活との比較して突っ込みを入れたくなることがある。小説を読んでいても時々そう感じることがある。ドラマなんかよりも感じる頻度は少ないけれど。多分それは、普通の人が普通に会話している分にはそれでいいのだろうが、実は僕は意外と無口(「むっつりスケベ」とも言う)で、普段は必要以上のことを喋らない。自分が喋るとしたら南木作品の登場人物のセリフの数ぐらいになるのだろうと思う。その分周辺の状況には目が行く。それを描く感性は僕にはないけど。それに今は職場でも僕の机の前には大きな柱があって視界を遮っており、広い視野をもって全体を把握することができない。脳を働かせる機会が少ないわけで、今の席に座ってから急に自分が歳をとったような気がしてしまっている。

歳をとるといえば、南木作品で頻繁に登場するのがお年寄りの死、癌による死である。重松清はそれを死にゆく本人やその家族の視点から描くことが多いのだが、南木作品は逆に、病院で死を看取る医師や看護師の側の視点から描かれている。著者自身が現役の医師で癌でゆっくりと亡くなっていく方を多く見てきた経験からもこういう作品が多くなるのは想像がつく。死というものに立ち合う際、或いは死に至るまでの患者や家族とのやりとり、見送った後の心の動きといったものを自分の中だけで消化しきれないために、それを文章にして吐き出す作業が必要になったというようなことを、著者はどこかの対談で述べている。死ばかり見ていると若くして歳をとったように見えるという。

もう1つ。南木作品に見られる特徴は、タイのカンボジア難民キャンプでの医療活動を取り上げた作品が多いことだ。これは実際に1981年に著者がこうした国際医療チームに参加して現地に入って活動されていた経験に基づくもので、本作品の他に芥川賞受賞作品も収録された短編集『ダイヤモンドダスト』の中にも、この国際医療チームをモチーフにした作品が2つほどある。ろくな医療環境にもない中で、多くの死を見続けてきた経験の消化のために描かれているものだろう。佐久のような地方の病院から何故国際医療チームに参加したのかの経緯から始まり、実際の現地での活動、元の職場の戻ってからの気持ちの切り替え、時間がある程度経過してからの現地での活動の振り返りといったことが扱われている。

今でも国際緊急援助チームは度々編成され、登録医師が多く参加しているが、そうした表立って僕らが目にしたり耳にしたりする彼らの活躍の裏で、当事者の人々がどのような気持ちで業務に取り組んでいるのかまではあまり考えたことがなかった。国際緊急援助だけではなく、通常の国際協力活動の中でも、当事者として現地に入っておられる日本の人々がどのように感じながら日々の活動に取り組んでおられるのか、もっと知る術があってもいいのになとふと思った。そう考えると、南木作品と言うのは結構貴重です。
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