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『ソルハ(平和)』 [帚木蓬生]

ソルハ

ソルハ

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: あかね書房
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
1996年9月27日、アフガン政権崩壊。タリバンが首都カブールを制圧―生まれたときから戦争が日常の風景だった少女ビビは、初めてタリバンの厳しい監視下に置かれた生活を送ることに。ビビは何を決意し、生きる支えを持ち続けたのか。若い人へ向け、遺言の意を込めて放つ、渾身の一冊。
「ソルハ」というのは、アフガニスタンのダリ語で「平和」という意味なのだそうだ。

そもそも本書は帚木蓬生の今年発売の近著ということで、僕は近所のコミセン図書室で借りた。返却期限が迫っていたのでここ2日ほどで慌てて読んだが、ある意味とても興味深い本だった。帚木作品もこれまで随分と読んだふぁ、このタイプの作品は珍しい。帚木といえば医療小説が多い、多少のサスペンス性を含んだとしても、ベースは医療だというイメージがあるが、本書は明らかに医療小説ではない。また、帚木作品がアフガニスタンを扱うというのも今回が初めてのことだ。

それ以上に大きな特徴は、本書は中高生読者を対象として書かれた作品であるという点だ。「です・ます」調を基調にしているのは、主人公ビビが女の子だからというのもあると思う。本書ではビビが9歳から15歳までの間にアフガニスタンで起きた様々な出来事が、ビビの家族の日常生活をいかに蝕んでいったかを述べた作品である。これを少女ビビの眼に映る風景として描こうとしている。女児の視点から描くことで、タリバン統治下の厳しい市民弾圧やアフガニスタンという国家ではなく部族間の抗争に矮小化して繰り広げられた血なまぐさい歴史も、柔らかさと温かさを多少はまといながら描かれている。勿論、すさんだ世の中、間違ったタリバン統治の下でもひたむきに勉強に取り組むビビの力強さと逞しさも垣間見ることはできる。

帚木作品に共通して見られる風景描写の柔らかさと美しさは、今回も荒涼としたアフガンの大地に生かされている。山頂に雪をいただくヒンドゥークシ山脈の美しさと優しさ、バーミヤン仏教遺跡の荘厳さ、マーケットの宝石店に展示されているアフガン原産の石「ラピスラビリ」の神秘性など、これらをアフガンの大地と比較することで非常にうまく強調されていると思う。

アフガン情勢については、1979年のソ連軍のアフガン侵攻、1980年の各国によるモスクワ五輪ボイコットから始まり、ソ連軍撤退の時期が僕が社会人になって新聞購読を始めた頃にちょうど合致するため、素人ながらにはなんとなくは報道で情報を仕入れていた。ソ連軍撤退後の諸派間の内紛の中でタリバンが台頭してきた頃には、『アエラ』ですらタリバンに好意的な記事を取り上げていたのをよく覚えている。タリバンがそんなに良い勢力ではないというのがわかってきたのはもっと後になってからのことである。

ところが本書を読んでいると、タリバンの台頭にカブール市民は得体の知れない不気味さを感じていたことがよくわかる。そもそもアフガニスタンの市民の目線でアフガン紛争を描いた作品などそれほど接したことがないので、この視点は非常に新鮮だった。

ただ、新鮮だったで終わるわけにはいかない。そもそも帚木氏がこの作品を中高生向けに書いたのは、戦争が起きる、内戦状態になるというのがどういうことなのか、そういう状態に不幸にも突入してしまった時、市民生活はどのような影響を受けるか、どのような制約に直面するのか、そしてどう行動したらいいのかということを、戦争を実体験したことのない世代の読者に知ってもらいたいという意図があったからだと考える。また、著者によると、主人公のビビにはモデルがいるらしく、日本に農業技術研修に来ていたアフガン女性への取材を通じて本書の構想が出来上がっていったらしい。戦時下でも、タリバン統治下で女子に勉強など不要と支配者側が公言していた中でも勉強を欠かさずやってきたこと、「1日3時間の勉強を10年続ければその人はその道の専門家」という言葉を実践してきたことが、紛争後の復興プロセスにおける人材のプールに繋がっている。今の中高生、受験勉強には熱心だが、もっと長いスパンを見越した勉強をしているだろうか。残念ながら、うちの子供を見ていてそういう感じは受けない。

だから、父親としては本書は我が子に是非読んでもらいたいと期待している。せめて、中学生になったら兄弟全員が一度読んでみて欲しい。

それにしても、本書が帚木作品の棚に収録されているのは、こう考えていくと多少の違和感がある。大人向けとしても十分楽しめるが、本書を読むべきなのはむしろ中高生であり、そういう棚の方に置かれるべきである。
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