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『デフレの正体』 [読書日記]

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

  • 作者: 藻谷 浩介
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 新書
内容紹介
「生産性の上昇で成長維持」というマクロ論者の掛け声ほど愚かに聞こえるものはない。現実は内需にマイナスに働いているからだ。「現役世代人口の減少」、日本の問題はここにある!誤った常識を事実で徹底的に排す!!
順番が前後したが、これは先週には読み終わっていた本である。コメント書こう書こうと思っていたが、遅くなってしまった。理由は簡単で、本書は僕にしては珍しく書店で購入して読んだからである。図書館等に返却を迫られて読んでいる本に比べたら後回しになってしまうし、本書に書かれている内容なら多少時間が経過していても割と鮮明に思い出せると判断した。

僕が今まで読んだ本の中では、日本の「人口オーナス」を最も的確に表した本だろう。日本で盛んに言われている「成長戦略」なるものが、まあそれはいいにせよ、今のこの日本の経済社会の閉塞感は、単に景気循環の問題でもないというのはずっと気になっていた点だ。本書ははっきり言っている。生産年齢人口は既に1995年頃から減少に転じている。史上最大勢力の団塊世代は2005~2010年の間に一次退職が始まっており、生産年齢人口の落ち込みはさらに加速している。いちばん消費もしてくれそうな年齢層がどんどん減っているのだから、どのみち深刻な内需不振に陥るのは避けられなかったと。そして、2010~2015年の5年間のうちに、団塊世代は最終的には全員が無職になっていくので、著者はこの5年間に日本経済は史上最大の「人口オーナス」を経験すると述べている。(pp.136-137)

言い換えると、次のようなシナリオだ。

生産年齢人口=消費者人口の減少⇒供給能力過剰
 ⇒在庫積み上がりと価格競争激化⇒在庫の時価の低下(在庫が腐る)

そして、その結果発生する消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環しなくなる(p.168)。こうした状況下では短期の景気対策では効果が薄いと著者は指摘している。少し前に僕は「第2の人口ボーナス」という新概念があるという話にブログで言及したことがある。これは、高齢者が貯蓄した資金が投資に回って総需要を創出する効果について述べているものと僕は理解しているが、投資先は必ずしも国内ではないかもしれないので、「第2の人口ボーナス」が国内では効いて来ない可能性はあると思う。投資資金の行先は米国債や新興国だったりするわけだ。

著者は再三にわたって「『率』ではなく『絶対数』で見ろ」と強調している。この点も、人口高齢化の勉強をしているとよく釘を刺されるところである。「高齢化」というのは「高齢化率の上昇」のことではなく、「高齢者の絶対数の激増」のことを指す(p.110)。そして、時間経過とともに高齢者の絶対数が激増するということは、少子化傾向ともあいまって、生産年齢人口が激減するということを指しているのだ。

多少脱線するが、前回ご紹介した『あゝ野麦峠』は初版刊行が昭和43年(1968年)だったが、その4年後の昭和47年(1972年)にはなんと第35刷まで行っている。そのため紙型が摩滅して再版困難となり、新版刊行されたが、昭和55年(1980年)までに第26刷を数えている。発行販売部数は250万部を超えたらしい。なんでこんなに読まれたか、勿論面白かったというのはあるにせよ、購買層人口がそれだけいたということだろう。現在だったら相当の販促をかけても水嶋ヒロの『KAGEROU』は100万部、村上春樹の『1Q84』でも100万部らしい。頑張っても250万部には届かないのではないかと思う。出版不況とはよく言われるし、雑誌の休刊も頻繁に起きている。でもそれは単に景気が悪いからだというのではなく、そもそもの購買層の人口が減っているのが原因なのではないだろうか。

多少人口高齢化の勉強をしてみて思うのは、日本の危機感の欠如である。企業内でもなんとなく景気がよくなれば売上は伸びると思っているし、景気はいずれは良くなると漠然とした期待感がある。政府でも同じだろう。でも、消費者人口が減っているのだからそんなに国内消費が景気を牽引するなんてことは起きないのではないかと思う。プラントでも農産品でも、需要が旺盛な新興国に輸出できることは重要だと思う。ただ、そうした輸出に従事できるセクターと国内需要に依存するセクターでは、業況の差が今後もっと拡がっていくのだろう。

これぐらいの危機感は煽っていいと思っている。ただ、だからといって何か斬新な解決策でも提案されているのかと思って期待して読むと、ちょっとがっかりさせられる。著者は日本経済が今後何を目標とすべきかについて、「個人消費が生産年齢人口減少によって下ぶれしてしまい、企業業績が悪化してさらに勤労者の所得が減って個人消費が減るという悪循環を、何とか断ち切ろう」として、①生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める、②生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し、増やす、③(生産年齢人口+高齢者による)個人消費の総額を維持し増やすという方向性を示し(pp.177-178)、具体的に以下の政策を提言している。
【ではどうしたらいいのか】
①高齢富裕層から若者への所得移転
②女性の就労と経営参加を当たり前に
③労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入
でも、これって、僕らでも思い付いて考えていたことで、あまり目新しさはない。逆に、この著者をしてこの政策提言ということは、本当に有効な対応策はないのだなと落胆させられる。

結局、生産年齢人口減少と高齢者人口急増という日本の人口動態上の課題に、僕らは正面から向き合い、出来る限りの取組みをしていかなければならないということなのだろうと思う。
我々は日本を見限って脱出すべきなのではない。日本のこの状況に耐えて、対応する方策を見出して、遅れて人口成熟する中国やインドに応用していくべきなのです。アジアに低価格大量生産品を売り続けるのではなく、日本で売れる商品を生み出し、日本で儲けられる企業を育てることで、高齢化するアジアに将来を示す。これが日本企業の使命であり、大いなる可能性なのです。(p.201)
日本企業の使命なだけではなく、僕ら国民ひとりひとりの使命だと僕は思います。

最後に少しだけ本書にケチをつけたい。本書は著者が国内各所でこれまでに行なってきた講演会の講演録を整理して纏めたものである。そのためかどうかわからないが、講演で言及したと思われる話の脱線が所々に見られる。これははっきり言って蛇足で、話があっちに行ったりこっちに行ったりで読みにくさも感じた。論点は極めて明確でそれでも僕は本書はお薦めしたいと思うが、読みにくさはある程度覚悟しておかなければならない。
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コメント 1

ZENKO

訪問ありがとうございます。やはり対策については、目新しいことはなかったですね。やっぱり、少子高齢化(と一緒に言うなと書いてありましたが)対策には王道はないとのことでしょうか。ただ女性の就労ということでは、昔に比べるとだいぶ増えていますね。保育所の待機児童増加もその影響だと思っています。
by ZENKO (2011-03-09 01:27) 

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