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ゴラクプールの怪奇熱病 [インド]

明日(4日)、インド駐在時代に面識のあったグプタ医師と東京でお目にかかることになっている。グプタ医師はウッタル・プラデシュ(UP)州東部クシナガルのインド福祉村病院、通称「アーナンダ病院」を実質1人で背負っておられる。釈迦の涅槃の地として日本人観光客もよく訪れるクシナガルだが、遺跡群の周辺は下層カースト農民が多く住む北インドでも有数の貧困地帯である。そんな農村地帯に立地するアーナンダ病院を切り盛りされているグプタ医師は、僕が最も尊敬するインド人の1人である。

クシナガルへの玄関口はゴラクプールという町で、デリーから夜行列車で行ける。ネパールとの国境にも意外に近く、ラジオではネパールのラジオ局の放送を聴くことも可能だ。そんなゴラクプールを中心とするUP州東部一帯で、最近問題になっていることがある。元々この地域は日本脳炎の症例が多かったのだが、ここ数年、日本脳炎の症状とは異なる別の熱病が蔓延し始めているのだ。しかも毎年モンスーンの時期に症例が集中し、今年も大変な事態となっているのだそうだ。

隔週刊誌Down To Earthの2011年11月1-15日号に「UPで熱病が蔓延(Fever stalks UP)」(Sonal Matharu記者)という記事が掲載されている。インド福祉村協会の招聘で来日中のグプタ医師と食事をご一緒する前に、予習のつもりでこの記事を読んでみた。以下はその記事のポイントである。

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DTE2011-11-15.jpg

1)ゴラクプールのババ・ラーガヴ・ダス医科大学(BRDMC)ではここ4ヵ月、子供の患者で溢れかえっている。そのほとんどが意識不明で、痩せた腕や脚から点滴を受けている。両親は病院の廊下に泊り、そこで食事を取ったり用を足したりしている。ベッドは2人以上の子供で占められている。UP州東部最大の脳炎症状のレファレル病院にある7つの病棟は、押し寄せる患者によって収容能力を既に超えている状況である。

2)この4ヵ月の間に、UP州東部では426人の子供が脳炎で命を落としている。東部には7つの県(ゴラクプール、クシナガル、マハラジガンジ、デオリア、バスティ、サント・カビル・ナガル、シッダルタナガル)があるが、いずれの県でもこれまで30年間にわたって脳炎との闘いを繰り広げてきた。2005年には1000人以上の子供が亡くなっており、政府はこれが日本脳炎だと特定し、2006年と2010年にワクチン接種プログラムを展開したが、これは脳炎を制御するのに失敗。政府高官は、プログラムは日本脳炎自体の抑制には成功しているが、ゴラクプール周辺の脳炎の原因は日本脳炎ではなくエンテロウィルスであると表明した。

3)エンテロウィルスは脳を攻撃し、脳細胞を恒久的に破壊する。多臓器障害によって患者を死に至らしめるか、体や精神に障害を残す。しかし、患者の脳炎が日本脳炎ウィルスによるものなのか、エンテロウィルスによるものなのかを判別するのは医師にとってかなり困難である。高熱や嘔吐、意識不明といった初期症状がよく似ているからである。症状の違いは、日本脳炎なら1週間程度で熱が下がり始めるが、エンテロウィルスの場合は15日程度高熱が続くという点にある。このため、医師は全ての脳炎を急性脳炎(AES)という同じカテゴリーで分類している。

4)しかし、エンテロウィルスは2006年以降日本脳炎に代わってこの地域に蔓延している。2005年まではUP州のサンプルの30%が日本脳炎ウィルスにポジティブな反応を示したが、ワクチン接種プログラムが実施されると6%にまで低下した。それでも国立ウィルス学研究所(NIV)はエンテロウィルスが日本脳炎に取って代わったことを認めるのには消極的である。実験結果に極端なばらつきがあるからである。食道で見つかったエンテロウィルスが脳を冒すメカニズムが特定できず、他のウィルスによって脳炎が引き起こされた可能性もあるという。

5)いずれにしても状況は厳しいもので、エンテロウィルスにはワクチンも治療法も確立されていない。研究開発には予算も時間もかかり、ワクチンのライセンス手続も厳格に行なわれることから、政府は研究開発にはほとんど投資を行なっていない。このため、唯一の対抗措置は予防しかないと関係者は言う。日本脳炎ウィルスは蚊が媒介するが、エンテロウィルスの場合は汚染水から体内に侵入する。ゴラクプールの小児科医であるシン医師がクシナガル県ホリヤ村で行なった取組みにより、衛生改善によって予防措置に優れた結果を残している。

有効な治療法がない中、BRDMCの医師達は、行政やNGOと協力し、脳炎の制御に取り組み始めている。ゴラクプール県のサンジェイ・クマール首席行政官は、最近日本脳炎制御会(Japanese Encephalitis Control Society.)を設立した。安全な飲み水や衛生環境の改善を、ドキュメンタリー映画の上映やストリート演劇を通じて住民に訴えていくことを活動目的としている。AESの後遺症で神経機能障害や動作障害に苦しんでいる回復者が暮らせるよう、行政ではゴラクプール市内19ヵ所に特別養護ホームを建設することを計画している。

*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.downtoearth.org.in/content/fever-stalks

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インド福祉村協会の現地での活動も、こういう他の医療機関や行政が現地NGOと連携して展開している活動とうまく連携していけたらいいんだけど…。当然明日の会食でも僕はこのネタを持ち出すと思う。現在、グプタ医師はゴラクプールに居を構えてそこから毎日クシナガルのアーナンダ病院に通勤するという勤務形態を取っておられるので、当然ながらゴラクプールを中心に展開しているという上記のような動きとは何らかの繋がりをお持ちであろうと思う。それにうまく乗れないのがアーナンダ病院の運営体制の弱さだ。実質グプタ医師1人で成り立っている診療所のようなもので、有能な看護師の確保ができていないというだけではなく、有能な事務長が配置されていないところがつらい。グプタ医師も、アーナンダ病院のことで精いっぱいというところだろう。

こうしたクシナガルの周辺地域で起っている事態に常にアンテナを張り、必要なら関係機関との連携を積極的に仕掛けて地域医療の大きな展開の中にアーナンダ病院を位置付けていくような取組みに、本当は僕も協力したいと思っているのだけれど…。そんなことも明日は話してみようかと思っている。


【11月5日(土)加筆分】
昨夜、グプタ医師と会って来ました。上の記事で紹介した内容については概ね肯定的で、記事の中に登場するBRDMCとは普段から交流もあり、登場する多くの人々とも個人的に面識があると仰っていました。熱病の予防には「教育」が重要なのだと強調されていました。日本からアーナンダ病院のサポートでいらっしゃるボランティアの方々は、その多くが看護師やその他のパラメディカルの方々で、1週間単位で来られているのだとか。それだと一時期に集中するので、大勢の方々がサポートで来られている時は人が余るぐらいなのに、ボランティアが一人も来られていない時は逆に患者対応で忙殺されるという事態に陥るのではないかと私が尋ねると、それはないとは言えないと仰っていました。逆に、医療の知識がない僕のような人間でも、周辺農家への普及啓発活動の展開というところではもっと活動できる余地があるのではないかとも尋ねてみると、その通りだと支持されていました。

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