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『仇敵』 [池井戸潤]

仇敵 (講談社文庫)

仇敵 (講談社文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/01/13
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
幹部行員の裏金工作を追及した恋窪商太郎は、謂れなき罪を着せられメガバンクを辞職。エリートから地方銀行の庶務行員となるが、人生の豊かさを知る。だが、元ライバルからの電話が再び運命を揺るがす―。不正を知った男は謎の死を迎え、恋窪は“仇敵”への復讐を誓う。乱歩賞作家、渾身の連作ミステリー。
今やTBSテレビのドラマ『半沢直樹』で有名になってしまった池井戸潤の銀行ミステリー。実は池井戸潤は半沢直樹を主人公にした銀行員シリーズ3作の他に、銀行を舞台にした短編・長編を幾つか発表しているのはご存じだろうか。しかも、半沢直樹のようなエリート行員が主人公の話だけではなく、銀行業務に関連する様々な立場の人々を主人公にした作品も多い。

池井戸潤のデビュー作は『果つる底なき』で、その主人公は大手都市銀行の融資課長代理だったが、その後は、第4作『銀行総務特命』では総務部の調査役を主人公に仕立て、第6作となる『仇敵』では上記紹介にある通り店頭案内や駐車場の整理、段ボール箱の運搬、店内掲示ポスター類の張替などの雑務をこなす庶務行員、第8作『最終退行』では負け組の副支店長、第9作『株価暴落』では業績悪化企業を中心に担当する部署の調査役、第10作『金融探偵』では銀行を放逐された男、第11作『不祥事』では、銀行窓口の女性テラー、第13作『銀行仕置人』では、エリートコースから脱落して座敷牢といわれる場所で社員名簿の修正という不要不急の業務をさせられる窓際銀行員を扱っている。(『仇敵』文庫版の作品解説より)言わば銀行の中でも傍流の行員を扱った作品まであるのである。

そういうわけで、本日はこの傍流にいる庶務行員が主人公の勧善懲悪ものをご紹介する。

この作品は面白い構成になっている。基本短編でひとつひとつの作品の中では武蔵小杉にある某地方銀行の支店を舞台にして日々持ち上がる問題を若手の融資係・松木が庶務行員である恋窪の助言を得て解決していく。その一方で、地銀の一支店の庶務担当に過ぎない恋窪がなぜこうした的確な助言をできるのかというと、彼には大手都市銀行の企画部門で次長職まで務めたエリート行員だった過去があるからである。行内で私腹をこらしていると噂される某役員の裏金工作を暴こうと調査をしていたが、足元の企画部門内で起こった別の非違行為の罪を着せられる形で辞職、再就職の道も妨害に遭った結果、地銀の某支店の庶務行員として拾われることになったのである。

このため、並の融資係よりもよっぽど優れた知識と経験を持つ恋窪は若手の融資係・松木へも的確な助言ができるわけだ。だが、こうした日々の出来事の幾つかは恋窪の古巣の大手銀行とも関係しており、そこから過去に追い詰められなかった仇敵を追い落とせる道を見出す。庶務行員としての生活の気楽さに慣れはじめていた恋窪も、仇敵との因縁からは逃れられない。日々の出来事とは別に、本書は恋窪の復讐劇としての長編小説的意味合いもある。復讐がかなったからといって庶務行員の立場が変わるわけでもないので、「倍返し」というわけにもいかない。登場する何人かは命も落としているし、決して後味のよい爽快な終わり方でもない。

庶務行員が様々な会社の経理操作を暴いたりするのには制約もあり、そこで支店内には恋窪を辛抱する松木という若手がいたり、古巣の銀行にも企画部門の元部下である河野という協力者がいる。恋窪はこうした面々に依頼/指示する形で情報を集め、そして推理を働かせるのである。言うなれば、これは銀行を舞台にした「安楽椅子探偵小説(アームチェア・ディテクティブ小説)」なのである。

『半沢直樹』も佳境に入ってきた。原作となったエリート行員の物語だけではなく、傍流の銀行員を主人公にした様々な銀行ミステリーを読むと、巨大銀行の伏魔殿ぶり、巨額なカネが動く闇の部分がよく見えると思うし、その一方では顧客の困窮をどうやって切り抜けるか、あるいは顧客の不正操作をどうやって見抜くか、いろいろな事例を学ぶこともできそうだ。さすがに著者は大手都市銀行を退職した後コンサルタントをやっていただけのことはある。本書の中で描かれる顧客との日々のやり取りの中にも、元銀行員としての著者の知見を垣間見ることができる。


タグ:銀行
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