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『シャイロックの子供たち』 [池井戸潤]

シャイロックの子供たち (文春文庫)

シャイロックの子供たち (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/11/07
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
ある町の銀行の支店で起こった、現金紛失事件。女子行員に疑いがかかるが、別の男が失踪…!?“たたき上げ”の誇り、格差のある社内恋愛、家族への思い、上らない成績…事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤。銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮すことの幸福と困難さに迫った傑作群像劇。
最近、近所のコミセンがかなり気張って池井戸潤作品の拡充を図っている。元々単行本の書架には5冊ほどしかなく、あとは新刊が出るたびに高回転で回っていてよほど運が良くなければ借りられない最近の作品(『下町ロケット』、『ルーズヴェルト・ゲーム』、『ロスジェネの逆襲』、『七つの会議』)があるくらいだった。それが、文庫化された作品を中心に新着本の棚に何冊か並び始めたのだ。さすがに「バブル組」のシリーズは読む気にはならないが、それ以外に銀行を舞台にした作品の文庫版は何冊か入荷しており、これからも時々読んで紹介していきたいと思っている。

そういうわけで今回読んだのは『シャイロックの子供たち』。東京・五反田を発着する東急池上線の長原駅近くにある、東京第一銀行の支店を舞台にした連作短編集である。大田区の中小企業中心の顧客構成なので、大手都市銀行の一支店とはいえ、その日常業務は非常に親近感を感じる。(それでも、僕が働いていた地方銀行の大都市の支店と比べても規模は大きいなと感じたのだが(笑))


そんな一支店で起きる出来事を、毎回異なる行員の視点から描く連作である。登場人物の多くは重複する。だから、一人称の時に描かれるその行員の事情と、三人称で登場した時のその行員の見られ方に大きなギャップがあったりもする。最初に出てくる古川副支店長なんて、最初に一人称で出てきた時には高卒叩き上げで大卒行員と張り合ってきた矜持が感じられたりもして大卒の若手行員の反抗的な態度に思わず手を上げてしまった時には同情的な気持ちで読んだのだが、その後の展開を見ていると、行員を叱りつけて計数目標の達成ばかりを気にかける、絶対上司には持ちたくないタイプの人間だとして嫌悪感・憎悪感がどんどん増幅されてくる。同様に、最初はいい人っぽかった支店長も、読み進めていくうちに結構なワルだというのがわかってくる。

最初の数編を読んでいると、絶対に銀行員に対する嫌悪感が湧いてくると思う。テレビ『半沢直樹』を見て銀行員になりたいと思った人は少なからずいたのではないかと思うが、『シャイロックの子供たち』を読むと、銀行員も支店勤務ともなると結構きついなと思うに違いない。僕は某地方銀行の「バブル入行組」だったので、支店勤めだった頃にこれほどの計数目標を上からとやかく言われた記憶はないが、バブルがはじけた後の経済が収縮していく中での銀行勤めは、本書で描かれているような雰囲気があったのかもしれない。このために、本書を読んだ人は、銀行員への憧れは完膚なきまでに崩壊させられるだろう。

そんな計数目標にがんじがらめの支店で、現金紛失事件が起きる。1円や10円単位で「現金が合わない」という状況は、僕も支店勤務時代に経験したことがあるが、その時の店内のパニックぶりは凄かった。出納係や預金係だけではく、やがて副支店長が指揮を取り、融資係、外為係、得意先回りから戻ってきた外交係まで動員され、店内総がかりで現金探しをやった。どうしても合わない時は、出納係を除いて先ず女子行員を20時くらいで退行させるが、捜索はその後も続けられ、22時過ぎにようやく合った時には、出納係の女子行員が各行員のところを回って、上半身を90度曲げるような謝罪をしていた。(どうやって合わせたのかは、新人だった僕にはわかりませんでした。)それがこの作品では100万円の紛失だから、上を下への大騒ぎだったであろうことは容易に想像できる。

その事件をきっかけにして、いろいろなことが動き始める。濡れ衣を着せられた女子行員をかばった上司の係長が、真犯人を突き止めようとしているうちに失踪してしまう。その失踪によって空席ができてしまった相談係を一時的にケアするように言われた融資係の行員が、失踪した係長が直前にやっていたことに気付くが、運悪く転勤の辞令を受けてしまう。次にそれに気づいたのは、臨店検査に来た検査部の次長だったが、真相に迫ろうとしたその時、この次長が昔の支店勤務時代に起こしていた不正行為をネタにして支店長に揺さぶりをかけられ、真相に迫る前に矛を収めることを余儀なくされる。

その検査部次長が最後に残していった「手がかり」が、その後の展開につながり、真相は徐々に究明されていく。そして、現金紛失事件も係長失踪事件も、その発端となったのが厳し過ぎるノルマにあったことが明らかにされてくるのである。(実はこの作品にはさらにその先のオチがあるのだが、それは伏せておく。)

支店業務なんて地味でなかなか小説の舞台になどなりにくいと思っていたが、この連作短編はかなり面白い銀行ミステリーになっている。最初の3章ぐらいまではあまり面白くないが、その後の展開はスリリングで、読み応えのある作品に仕上がっていると思う。その一方で、銀行で働くことの空しさも十二分に感じさせられる。


最後までこの記事を読んで下さった方々へもう1つお知らせです―――。

この作品を読むと、男子行員にとって人事異動はかなり大きな関心事であることがわかると思います。同期の誰がどこに転勤になった、自分もそろそろ異動じゃないか、希望した部署に行かせてもらえるのか、行かせてもらうには今の業績をなんとかしなければ―――焦りとか、家族から課せられるプレッシャーとか、いろいろと複雑な感情がひとりひとりの行員の脳裏を去来するのがよく伝わってくる。いくら順調に実績を積み上げていっても、1つでも失点を犯すと思い描いていたレールを外れることすらある。部下の失策であっても、「管理不行き届き」という烙印が上司には押される。それが自身の失策なら、地方の支店どころか、関連企業への「出向」だってあり得る。(この辺になると、「半沢直樹」で見たお馴染みの世界ですね。)

でも、このことは銀行に限らない。どこの組織にいても、人事は大きな関心事である。

―――ということで、僕自身も昨日、人事異動の内示をいただきました。
11月1日付での異動で、行き先は今まで希望すらしたことがない部署です。多分今以上に忙しくなるので、このブログの更新頻度はますます下がることは間違いありません。多分、こういうタイプの本も読んでいられないと思うので、ブログのネタにできるようなインプットもあまりできないのではないかと思います。

この3年4ヵ月の間、ブログはもっぱら読書ブログとして活用してまいりましたが、今後はブログの性格自体も変わってくるかもしれませんね。

予想外の仕事内容にはなるでしょうが、50を迎えた私Sanchaiのキャリア上最大の難関を、なんとか乗り越えていきたいと思います。この1、2年間の修行をうまく乗り越えられたあかつきには、次の行き先について僕の希望をちゃんと聞き入れてもらえるであろうと期待しております。

タグ:銀行 人事
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