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南インドの農村-柳沢悠著作集中読込み月間 [シルク・コットン]

10月はあっという間に終わってしまった。毎週末何らかのイベントが入り、11月1日の転勤の準備もあったことで、とても慌ただしく過ごした。

思い起こせば、10月最初の週末は、広島まで出かけて広島大学を会場にして開催された学会に初めて顔を出してみた。もう2ヶ月ぐらい前の話に思えるが、未だ1ヵ月も経っていないのだ。そこで、僕は千葉大学の柳沢悠先生のご報告を初めて聞いた。

柳沢先生のフィールドは南インド・タミルナドゥ州ティルチラッパリー県の農村が中心で、同じタミルナドゥ州でもエロード県の農村で養蚕農家しか訪ねていない僕とはフィールドも違うが、対象村で全世帯を調査し、他の研究者が行なった南インドでの農村調査の結果にも言及されているので、発表を聞いていて本当に勉強になった。僕が断片的にしか見てこなかった特定農村の今を、南インドの共通の現象として一般化し、さらに18、19世紀頃の英国植民地統治時代にまで遡って農村社会の歴史的変容を押さえておられる。

僕は2012年に自分の調査結果をもとにして本を書かせていただいたが、その前に柳沢先生の著作にもっと触れていれば、もう少し深い考察ができたのではないかと悔いている。逆に言えば、柳沢先生の著作とそこで引用されている幾つかの文献をしっかり読んでおけば、自分が南インドで見てきたことに、これからでも箔が付けられるような気がする。自分がやってきたことを発展させるためにも、少しずつでも勉強を続けていきたい。

そんなわけで、10月は、図書館で借りることができる柳沢先生の著作を集め、毎週末に「早勉」時間を使って少しずつ読んでいった。本日挙げる書籍はどれも1冊まるごと読んだわけではなく、柳沢先生の書かれた章を中心に、タミルナドゥ州やカルナタカ州の農村変容を扱っている他の論文も合わせて部分的に読んだものである。引きまくったマーカーをいちいちここで引用するのも大変なので、一部分のみ引用する形でご紹介してみたい。

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アジア・中東: 共同体・環境・現代の貧困 (双書 持続可能な福祉社会へ:公共性の視座から)

アジア・中東: 共同体・環境・現代の貧困 (双書 持続可能な福祉社会へ:公共性の視座から)

  • 編者: 柳澤悠・栗田禎子
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2012/07/27
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
急速なグローバリゼーションと市場化のもと、崩壊する地域環境や旧来の共同的関係、生み出される新たな貧困層。伝統主義とは異なる形でのセーフティネットの構築に向け、新タな形態の共生を追求するアジア・中東の実践を追う。
読んだのは「第4章 岐路に立つ南インドの地域共同資源-管理体制、肥料、農村経済の変容と村落共同利用地」(柳澤悠)のみで、その構成は以下の通りとなっている。

 第1節 村落共同利用地(コモンズ)の歴史的減少
 第2節 村落内階級構造の変容と有力村民主導型資源管理体制の崩壊
   1. 村落の有力者階層の「荒蕪地」の優先的利用権と非耕作地の減少――19世紀
   2. 下層民の自立性の増大と荒蕪地の占拠・耕地化
   3. インドの他の地域との比較
   (1) 農村下層民・土地なし層のエンパワーメントによる共同利用地占拠の例
   (2) 富裕層による土地獲得としての村落共同利用地の減少の例
   (3) 地域差の存在と下層民の自立性
   4. 土地なし層の零細地片入手と環境保全――村落有力者主導型から平等参加型の資源管理へ
 第3節 農業技術の変容と村落共同利用地の役割の変化
   1. 村落共同利用地の減少と集約的農業の発展
   2. 独立以降の生産性の上昇と共同利用地の必要性の低下と変化
 第4節 1980年以降の農村経済の変容と地域資源管理体制の問題
 第5節 岐路にある共同利用資源

 本稿は、南インドの村落共同利用地の歴史駅変動を、その経営・運営主体の変化、農業と共同利用資源との関係、および農業自体の農業経済における地位の変化との関係で考察したものである。そして、結論として、こうした変化が地域の共同利用資源の保全的利用にどのように影響するかは複雑で、正負どちらにも動きやすいというのが結論となっている。

第1に、村落共同利用地の減少は、村落社会の下層階級の自立化を反映して、村落有力者主導の運用主体の崩壊を伴ったものだった。かつての土地なし層がエンパワーメントされ、零細地片を入手したり荒蕪地への浸食的な耕作を始めたりしたことで、直接的には村落共同利用地の減少には繋がった。しかし、平等参加型の資源運用体制が成立する条件が整備されることも意味しており、長期的には地域資源の保全へと貢献する可能性があると本稿は指摘している。

第2に、過去1世紀の間農業を支ええ来た自然環境は劣化したが、農民はそれに対して、新たな農業技術や肥料投入の増大など集約的農業への技術の革新を行ない、結果として土地の生産性の顕著な低下を食い止め、多くの場合はむしろ生産性の上昇に成功した。農民は全体的には村落共同利用地など共同利用資源への依存を弱めたが、地下水やかんがい用水など一部の自然資源の重要性はむしろ増大した。つまり、未耕地の開墾・農地拡大など自然資源への圧力を緩和する一方で、地域の自然資源の意識的な保全の体制を作ってそれを維持する活動への参加の意欲を弱める可能性も考えられる。

第3に、農村社会の経済構造の変動が1980年代以降顕著になってきている。農村の住民にとっても、農業が占める重要性は低下し、結果村落共同利用地への耕作拡大への刺激も弱まり、バイオマスエネルギーの増大をもたらすなど、自然への圧力の低下につながる可能性がある。しかし、その一方で、村落居住者の中核的な構成員の主要な関心は、農業から非農業部門へと移動し、地域の自然資源の保全への無関心をもたらす可能性もある。

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暮らしと経済 (叢書 カースト制度と被差別民)

暮らしと経済 (叢書 カースト制度と被差別民)

  • 編者: 柳沢 悠
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 1995/01/15
  • メディア: 単行本

これも読んだのは一部だけ。「序章 経済生活とカースト」(柳沢悠)、「第三章 南インド水田地帯農村の経済構造とカースト-19~20世紀」(同)、「第四章 南インド乾地農村の変化と不可触民」(水島司)、いずれもタミルナードゥ州の農村社会の変化を、150年ぐらいの時間軸でとらえており、その間のカースト別土地所有の構成の変化を描いている。

編者によれば、18世紀のインド農村は、決して均質な農民層からなる社会ではなかった。特に水田地帯の農村の場合、19世紀の時点では土地のおおくは上位のカーストが所有していたという。南インドの場合、英国支配の早い時期から村落ごとに土地所有者の調査と確定作業が行なわれたため、村落の内部構造を示す史料が比較的豊富だった。

そうした史料をもとに、柳沢論文では、水田地帯の村落では19世紀には土地の大半がバラモンなど上位カーストによって支配され、「不可触民」など下位のカースト成員は、上位カーストによって雇用される隷属的な労働者か、小作人だったとする。この体制は、当時の農業に長期の農閑期があったことなど農業のあり方に関係していたが、この関係は19世紀以降変化していき、農業生産の集約化傾向、「不可触民」などの海外への移民、および土地持ち階層の都市雇用への傾斜と都市への移動によって、地主は自立性を強めた「不可触民」などを自由に労働者として雇用・使役することに困難を感じ始めた。下層カーストの中には零細な土地を所有する者も増えて、彼らの自立性が強まっていった。こうした傾向は独立以降も基本的には変わらず、バラモンの土地所有の減少や下層カーストの土地所有の増大が進んだ。指定カーストの間では、農業労働者組合の結成やかつての農閑期における日雇い労働需要の増大などを背景に、自立化の傾向がいっそう強まり、常雇労働者のなろうと希望する者が減少していった。一方で、後進カースト(OBC)のムッティリヤン・カーストの中では、富農化する者と労働者化する者への両極化の傾向も見られる。

こうして、この柳沢論文は、19世紀に見られたカーストと職業上の地位の対応関係がやがて崩れ、村落内の社会関係を規制するものとしてのカーストの力は明らかに弱まり、代わって経済的関係あより重要な役割を果たすようになってきていると指摘している。

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現代南アジア〈4〉開発と環境

現代南アジア〈4〉開発と環境

  • 編者: 柳沢悠
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
南アジアの生態環境、農業・森林・家畜などについて、歴史分析と現状研究とを結合して、環境との関連を多角的に究明。工業化と都市環境、人口・衛生・疫病・ジェンダーや住民運動・NGOと環境など、新たな議論を提示する。
編集責任者の柳沢悠先生が書かれているOverviewと、「第三章 村落共同利用地の減少と村落社会構造の変容」だけを読んだ。「村落最下層民の小土地の獲得やエンパワーメントは、労働市場のタイト化という経路を通じても、自然資源の保全にプラスに作用する」というのが学び。私有農地が森林化する傾向が1980年代後半には既に見られたというのは他の論文でも書かれているが、利用される樹種にユーカリがはっきり書かれている先生の論文は初めて見た。このユーカリ植樹が、僕の南インド農村調査で見てきたことと感覚的に合っている。

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長々と述べてきましたが、そろそろ本日はこれくらいで。
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