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『赤ヘル1975』 [重松清]

赤ヘル1975

赤ヘル1975

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
1975年――昭和50年。広島カープの帽子が紺から赤に変わり、原爆投下から30年が経った年、一人の少年が東京から引っ越してきた。やんちゃな野球少年・ヤス、新聞記者志望のユキオ、そして頼りない父親に連れられてきた東京の少年・マナブ。カープは開幕10試合を終えて4勝6敗。まだ誰も奇跡のはじまりに気づいていない頃、子供たちの物語は幕を開ける。
『ファミレス』を読んで、いい加減重松ファンを辞めようかとも思った僕であったが、前言を撤回する。同じ広島を舞台にしていても、『ファミレス』よりも本書はずっと良い。シゲマツさんの新境地を開いたかなとも思える。むしろ、中国地方出身のシゲマツさんが、作品の中で広島カープや原爆を取り上げてこなかったことが不思議でならない。(勿論、最近東日本大震災を絡めた作品の中で福島第一原発の事故の話にも言及し始めている重松作品の傾向の中で、昨年の広島カープの躍進があって、こんな作品が生まれてきたのかもしれないが。)

昭和50年(1975年)というのは、広島に原爆が投下されてからちょうど30年、そして、広島カープがチームカラーを赤に変更した最初の年であり、古葉監督の下で球団創設史上初のリーグ優勝を成し遂げた記念すべき年である。主人公のヤス、ユキオ、マナブの3人は中学1年生だが、僕はこの年小学6年生で、前年にリーグ優勝を果たした中日ドラゴンズを翌年も応援しつつ、赤ヘル軍団とのデッドヒートの末に敗れた1975年のことは、覚えていないわけがない。とりわけ、ドラゴンズは池谷投手にはやられまくったからなぁ。

本書は、この中1生三人を核としてストーリーが展開していくが、それはカープのリーグ戦の展開ともシンクロし、今のカープを応援するファンの皆さまにとっても、赤ヘル軍団の初優勝がどんな様子だったのかを思い起こすという意味で貴重な読み物とも言えるだろう。当時の広島市民の雰囲気が非常によく描かれているし、また山本浩二のそっくりさんが現れたり、初優勝が決まる試合が平日のデーゲームだったりして、職場の人々だけでなく、学校で学んでいる生徒の中にも、仮病を使ったり、親類の不幸などをでっち上げて、優勝決定のシーンを見守ったりしていたらしい。昨年の東北楽天イーグルスのパリーグ優勝、CS優勝、日本シリーズ優勝決定時の東北って、それに近い様子だったのかなと想像してみたくなる。

もう1つの柱はやはり原爆。投下されてから30年が経過する原爆に対する広島市民の見方、外部者の見方、そしてその各々についても、原爆を直接的に経験した人、間接的に聞いたに過ぎない若い世代の人、様々な角度から取り上げられているように思う。

転校生マナブは、クラスメートや団地の住民の人々との交流の中から原爆についても耳にする機会があり、そして原爆資料館にも足を運んでいるが、マナブの父親や祖母に至っては、原爆のげの字にすら言及しない。マナブの父親は徹頭徹尾ダメおやじだが、広島市民を自分の扱う商品の買い手として見ていないし(実際のところは全然買ってもらえないし、しまいにはマルチ商法の餌食となって、東京の本社と広島の被害者の間に立たされてしまう)、マナブが劇中上京して東京で再会する祖母や母に至っては、孫(息子)の暮らしについては心配しつつも、広島という土地については特段の心遣いもしていない。

また、同じ広島でも、原爆で被災して親類の誰かを失った経験のある人々と、市外から離れた別の町に住んでいて原爆よりもむしろ米軍の通常空爆で被害を受けた人々との間にも、原爆の受け止め方に違いがあることを感じられた。僕たちは、1945年8月6日は広島に原爆投下された日、8月9日は長崎に原爆投下された日だということはよく知っている。でも、その間は何もなかったのかというと、8日には広島市から比較的近い福山に爆撃が加えられており、そこで多くの人々が犠牲になっている。恥ずかしながら、そういう事実を僕は本書を読むまで知らなかった。そして、原爆の被災者や放射性物質の影響を受けた人々に対する医療保障には配慮がなされている一方で、通常爆撃に遭ってやけどやけがを負った人々への補償はなされていなかったという事情も、知らなかった。

そういう、「そうだったのか」という気付きが、この超長編の中には随所にちりばめられている。

僕は昨年秋、二度にわたって広島を訪れる機会があった。仕事の合間を見て、原爆ドームや平和記念公園、原爆資料館にも足を運んだ。このため、小説の舞台となった相生橋と相生中学周辺に関する土地勘がある程度できていたので、情景をイメージしながら読むことができた。重松作品にはがっかりさせられることが続いていたが、本書は久し振りにいい作品を読んだ気がする。大部だが是非一読をお薦めしたい。

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コメント 1

いっぷく

赤ヘル初優勝ですか。懐かしいですね
前年に古葉さんが広島に戻ってきたり
安仁屋とか大石弥太郎や白石がトレードされたり
ルーツ監督が辞めたりと、激動の末の
優勝でしたね。こういってはなんですが
戦後補償の話だと重そうな気がしますが
赤ヘルと絡めているところが読み物のとしての
興趣を深めているわけですね
by いっぷく (2014-01-25 03:14) 

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