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『天地雷動』 [伊東潤]

天地雷動 (単行本)

天地雷動 (単行本)

  • 作者: 伊東 潤
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/04/22
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
最強武田軍vs信長・秀吉・家康連合軍!戦国の世の大転換点となった長篠の戦い。天下を狙う武将たちは何を思い、合戦へと突き進んだのか。熱き人間ドラマと壮絶な合戦を描く、待望の長編歴史小説!

前々回の記事で、僕が新刊書籍の情報をどのようにして得ているのかについて少しご紹介したが、その際に、新聞が主要情報源の1つであると述べた。今回ご紹介する伊東潤の歴史小説も、今からちょうど2週間前の日本経済新聞土曜版『NIKKEIプラス1』第1面に掲載されていた「何でもランキング」で、最近の歴史小説が取り上げられていたからである。元々伊東作品には興味はあったのだが、なかなかきっかけがつかめず、今回は新聞の特集に背中を押される形で初めて手に取った。

伊東潤が気になっていたのは、誰もが知っているが決してメインストリームではなくて詳細には知られていない歴史上の出来事や登場人物をフィーチャーしている作品を多く描いているからだ。織田(北畠)信雄とか、北条早雲(伊勢新九郎長氏)とか。本書の場合はそれが武田勝頼なのだが、武田信玄を主人公にした作品は結構多そうだが、信玄なき後の武田家の存亡を委ねられた勝頼については、あまり中心的に描かれた作品はない。史料も少ないだろうから、その分創造性を持って歴史小説を描き上げられる可能性はある。でも、それでも作品をなかなか読まなかったのは、この作家が長く外資系企業に勤めてきたビジネスマンという前歴があったからだ。脱サラして歴史小説家になったといえば真っ先に思い付くのは童門冬二だが、童門作品は例外で、ビジネスマンが書いた歴史小説は面白くないものが意外と多い。史料が少なくて想像で書ける余地が相当あるということが裏目に出て、ストーリーが面白くなかったり、逆に史実の解説がくどくなって小説としての面白さに影響を与えてしまうことも多い。要するに、今までは食わず嫌いだったというわけ。

でも、今回読んだ『天地雷動』は、予想していた以上に面白かった。

武田勝頼に関する僕の知識といったら、➀武田信玄が三方ヶ原の合戦で徳川家康を破った直後、陣中で死去するという出来事を受け、急遽武田家の家督を継いだ、②長篠の合戦で織田信長・徳川家康の連合軍が用いた足軽1組3人のローテーションで実現させた連続射撃戦法に対して武田軍自慢の騎馬隊で突っ込み、完膚なきまでに叩かれた、③その後は織田勢の厳しい追討により甲斐・天目山で自害し、武田家は滅亡した、といった程度の上っ面の知識しかない。学校では武田勝頼絡みでは長篠の合戦で織田・徳川に敗れた武将ぐらいでしか習わず、長篠の合戦もその結果だけでしか習っていない。でも、鉄砲伝来後の戦争の様相を一変させた象徴的な合戦に至るまでには、両軍ともに様々な内部の葛藤があり、そして周到な準備が進められていた筈で、そうしたことまで理解した上で合戦自体を振り返ると、いろいろ違う景色が見えてくる。

本書を読んで、なるほどと思わず膝を打ったエピソードといったら枚挙にいとまがないが、幾つか挙げてみるとこんな感じだ。

第1に、当時の飛騨国で鉄砲用の弾薬の原料が生産されていたこと。また、僕はちょっと前に信長が岐阜城を居城としていた当時の飛騨国は誰の勢力下にあったのかと知り合いから訊かれて「織田じゃないですかね」と無責任な回答をしていたが、本書を読むと、むしろ武田の勢力下にあったのだというのがわかった。

第2に、鉄砲という飛び道具を戦法にいち早く取り入れたのは織田信長で、それ以外の戦国武将は鉄砲よりも騎馬兵・足軽兵による接近戦に頼るところが多かったのだと勝手に思っていたが、長篠の当時は鉄砲も既に武田軍では使用されており、射撃兵というのがちゃんと存在した。つまり、鉄砲の戦地使用は既に多くの武将が取り入れていたのが実態で、織田信長のアドバンテージは、堺や長島等、外来の鉄砲を陸揚げする港を押さえていたこと、外来の鉄砲依存から国内製造にシフトできる商人、職人を押さえていたことなどにあったのではないかと思った。結局、武田勢のボトルネックは、弾薬がなかなか手に入らなかったことや、南蛮から輸入してきた質の悪い鉄砲に依存していたことなどにあり、徳川を攻めたくても攻めることができなかったという事情もあるのだとの解釈を著者はしている。

第3に、織田と徳川はかなり緊密な関係にあったと見られているが、本書を読む限りはここもかなり怪しく、徳川家康の再三の援軍要請にも織田信長は容易に了承せず、家康がイラつく場面が度々出てくるし、また信長にとっては徳川もコマの1つに過ぎないのではないかにおわせる記述がある。

第4には、徳川家康のキャラ。「鳴くまで待とうホトトギス」の有名な俳句のお陰で、家康は機が熟すのを気長に待てるキャラだと思われていると思うが、本書を読む限り家康も意外と短慮で、好機を待つというのも、そうせざるを得なかったのだというのが垣間見える。家康を割と小物扱いしている本作品の描き方は、意外と的を得ているかもと思わされた。

実際の対決前に織田、徳川、武田の各家の中で起きていたことや、戦の準備に相当な紙面を割き、なぜそういう展開になっていたのかをうまく描いている優れた作品で、家康や勝頼に対する見方が大きく変わった。伊東作品、かなり面白い。これからも、機会があればもっと読んでみたいと思う。これで戦国や安土桃山の時代の見方もさらに充実したものになりそうな気がする。

さて、では次に伊東作品の何を読むかであるが、流れからいっても次に読むべきは『武田家滅亡』だろうな。

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