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『南国港町おばちゃん信金』 [インド]

南国港町おばちゃん信金: 「支援」って何?“おまけ組”共生コミュニティの創り方

南国港町おばちゃん信金: 「支援」って何?“おまけ組”共生コミュニティの創り方

  • 作者: 原 康子
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
経済第一主義が作り出す、ほんの一握りの「勝ち組」と大多数の「負け組」―超格差社会。しかしここに、勝ち組でも、負け組でもない、“おまけ組”とも呼ぶべきもう一つの道を選んだおばちゃんたちがいる。南国のある港町。彼女らの小さな取り組みが私たちに教えてくれるものとは。国際協力NGOの一員として活動を共にした著者が、自らの「思い出すのも恥ずかしい」数々の失敗話を俎上にのせて、共生、支え合い、支援のありうべき姿を、ユーモア溢れる筆致で鋭く描き出す。

「南国港町」だけでは想像できないと思うが、この本はインドのスラムでそこに住むおばちゃんたちが信用金庫を設立し、自律的な経営を実現させていくまでを見守った1人の日本人女性の活動記録が、岐阜弁で書かれている。著者の所属するNGOの現場へのアプローチは他の日本のNGOと比べてもとてもユニークであり、国際協力に関心のある人には薦めたいと思う。

僕がインド駐在していた頃から親交のある原さんが書かれたこの本、本音を言うと僕の本を扱ってくれた出版社の地球選書シリーズから出したかった。実のところ僕の本が出された2012年2月当時、僕はこの協力についても本で取り上げられないかと出版社にかけあったことがあるのだが、僕の本に続いてインドものが続くのは営業上あり得ない、他の国の話を取り上げたいと却下された経緯がある。この間に原さんご自身が別の出版社に働きかけられ、こうして日の目を見たわけで、取りあえずは嬉しいが、ちょっと心境は複雑。

僕が自分の本を書く際、編集者から口を酸っぱく言われたことが2つある。1つは、事実を淡々と、かつ数字も絡めて具体的に述べよということ、もう1つは、現場の風景、そこに暮らす人々の日常が読んでいてイメージできる描写を加えよということだった。僕はその言葉を胸に、3週間南インドの農村で養蚕農家の聞き取りを行ったが、3週間程度の調査で描き切るのは結構大変だった。その点からすると、原さんのように現場のおばちゃんたちとの関わりが10年以上に及ぶ人の書いたものはそもそも違う。この本はとてもわかりやすい。4コマ漫画や写真だけではなく、ふだんのおばちゃんたちの会話がそのまま出てくる。なるほど岐阜弁に通訳した方が現場の風景に近いと思う。

2010年頃の僕のブログの記事を探してみていただけると確認できると思うが、この頃アンドラプラデシュ州ではマイクロファイナンス金融機関(MFI)による貸し込みが問題化していた。あるMFIから借りた人が別のMFIからも借りるということが行われ、多重債務者が続出。多くのMFIが経営悪化し、取り立てが進んで自殺者も出ていた。マイクロファイナンス金融危機とすら言われた時期だ。多くのMFIが競って自助グループ(SHG)向け貸出を増やしたものだから、信用審査も甘くなりがち、各SHGの信用情報もMFI間で共有される制度も整っていなかったために、借り手の身の丈を越えた安易な融資が行われた。結果がこうした金融危機につながったのだと思う。

こうしたMFIが経営危機に陥る一方、本書の舞台となったスラムのおばちゃんたちが作った信用金庫VVKは、この金融危機の時期をちゃんと乗り切った。それは、外部からの貸付資金に安易に頼らず、スラムの女性信金会員から預かった預金を貸付金として運用していたからであるし、このおばちゃんたち自身が融資審査について訓練を受けて能力を高めていたからでもある。VVKの融資のやり方は、インドで一般的なSHG金融とは違い、個人向け融資である。しかも、このやり方は受益者でもあるおばちゃんたちが自分たちで決めたルールである。また、一般にマイクロファイナンスというと、女性が起業や事業拡大するのに借りるものだとおもわれがちであるが、僕自身も現場で女性グループにヒアリングしてみた印象を言うと、事業資金として借りるというよりも、日常生活の中での資金繰りの調整に使われているケースの方が圧倒的に多かった。家計をやり繰りしていると、収入がある時期と支出の時期とがうまく合わず、一時的に資金不足が生じることも多いし、収支トントンでやり繰りしていても、冠婚葬祭が突然入ってきて、資金の持ち出しが必要になることも多い。そういう時に一時的に資金を融通してくれる仕組みが欲しいというおばちゃんたちの要望に基づいて、VVKは設立された。

アンドラ・プラデシュ州全体が金融危機に陥っていた時期をちゃんと乗り越えたVVKは、僕はマイクロファイナンスの成功例の1つだと思っている。日本でマイクロファイナンスの専門家だという人に言わせると、これは「小規模でチマチマやってるに過ぎない」(まま)ので、大規模にマイクロファイナンスを普及させるモデルにはならないと一蹴されてしまうのかもしれないが、ではそういう専門家が関わったマイクロファイナンス普及で、大規模にやってうまくいった事例というのが本当に存在するのか、そちらの方が僕にはよくわからない。

持続可能なMFIを、そのサービスがあったらいいと思っていた受益者のおばちゃんたちが自ら設立し、その規模を徐々に拡大してきているというのが、僕が出版社にこの話を売り込んでみた1つの理由だった。そしてもう1つの理由は、この本が和田信明・中田豊一著『途上国の人々との話し方』(みずのわ出版、2010年)の実践応用編と位置づけられるからである。和田・中田は結構分厚く、しかも難解かつ高価なので買うには勇気も必要だが、『南国港町おばちゃん信金』の方は著者の試行錯誤の歴史も交えて、和田・中田の提唱する「対話型ファシリテーション」(メタファシリテーション)を現場で実践しようとして、どのあたりが難しいか、それをどう克服していけるのかが描かれているように思う。

僕自身も自分にできるところで和田・中田の著書を紹介させていただいている。そこで自分が整理して多くの人に伝えようと努めているのは、途上国に限らず自分の属するコミュニティではない新たなコミュニティを訪れてそこに暮らす人々と話す我々は外部者(オジャマ虫とでも言おうか)であるということ、そうした外部者としての作法、求められる要件として、①現場での高い対話スキル(気づきをうながす質問、ホンネを引き出す質問、やる気やコミットメントを引き出す質問)、②対話の中から本質を見出す洞察力、到達点に対話を誘導するシナリオ力、③村人から要請されたものを迅速に提供できるコーディネート力(豊富な経験、外部専門家やグッドプラクティスとの繋がり)などが挙げられるということだ。原さんの経験は、そうした外部者の作法・要件というものをまさに裏付けるような内容だった。

一方、前述の通り、「事実」を詳述しているという点では原則には忠実な本だと思うが、その著者が見た「事実」から、和田・中田の著書の中でも触れられていた「思い込み」というのが完全に排除されていたかどうか、その点はちょっと気になるところだ。本書では著者とスラムのおばちゃんたちとのやり取りが中心で描かれているが、その周辺で登場している人や組織についての描かれ方は、大事な部分が端折られているようにも感じる。例えば、初期に一緒に活動していた現地のNGOの代表のマダム、著者の所属していた日本のNGOの現地事務所のスタッフ、草の根技術協力事業による資金提供で著者の団体とも協力していたJICAの現地事務所とそこで働いていたスタッフ等、なぜ彼らは著者とその団体に対してそうした接し方をしたのか、そのような制度措置を設けていたのか、そこには著者が直接見たり聞いたりした以上の相手の事情もあったのではないかと推測する。

著者とその団体が南インドのコミュニティとそういう接し方ができた背景には、本書で登場するような「親方」のような人が著者の身近にいたというアドバンテージや、スラムでの信金づくり以前から形成していた現地との接点の多さ、日本国内のサポート体制等、様々な要因があったわけで、誰でも同じようにできるというわけではない。そういう条件の下であったからこの団体がそれだけできたということであって、団体としてのミッションも異なり、人材面、組織面、財政面等様々な制約を抱えた他の団体が、社会経済条件がヴィシャカパトナムとは全く異なる別の地域で別の事業をやろうとして、本書で書かれたようなやり方をそのまま適用できるかどうかはわからない。言葉はいったん活字になってしまうとそれが独り歩きを始める。本書で書かれたことは正論だと思うが、他の団体が他の地域でやっていることの否定につながりかねないというリスクを少し危惧する。(実際、同じヴィシャカパトナム郊外で日本人老夫婦が支援されている養護施設があるが、このご夫妻には熱意や使命感は強いものがあるものの、コミュニケーション力やコミュニティ開発における専門性という点では本書の著者の足元にも及ばない。いろいろな人がいろいろな動機に基づいていろいろなやり方で活動を行っているというのが国際協力NGOの姿なのではないだろうか。)

ところで、本書の舞台である南インド・ヴィシャカパトナム市が、巨大サイクロン(台風)の直撃を受けていることについても述べておく。ヴィシャカパトナム空港は暴風雨と高波により施設の損害が大きく現在閉鎖中(下写真)、インド気象庁の情報センターも連絡が絶たれ、海岸沿いの高層アパートでは避難所の指定もされていないのに住民に退避命令が出され、取りあえず家屋から外に出されている由。道路は倒木や家屋損壊で通行が遮断されているらしい。日本でも巨大台風19号の影響が出始めているところで、今日以降関東地方も暴風雨圏内に入ってくることが予想される。気候変動の影響を受けるという点では、日本列島もインド東岸も共通するものがある。

VisakhapatnamAirport.jpg

それにしても、こういう巨大サイクロンの直撃を受けた場合、スラムのおばちゃんたちはどうなるんだろうか。生活環境としては、最初に高潮や暴風雨の影響を受けそうだ。僕も訪れたことがあるスラムなので、かなり心配している。そして、被災したコミュニティに対しては、「援助しない技術」よりも、先ずは「援助する技術」も必要になるのではないかと思う。勿論、そこはインド政府やアンドラ・プラデシュ州政府の災害復旧・復興事業があってのことなんだろうけど。


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