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『戦国鬼譚 惨』『峠越え』 [伊東潤]

戦国鬼譚 惨

戦国鬼譚 惨

  • 作者: 伊東 潤
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/05/21
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
だまし合いには勝たねばならぬ!生き抜くため、守るため、心に巣くう鬼は殺し、裏の顔は見せるまい。衝撃作『戦国奇譚 首』の作者が、信玄以後の甲信の武将たちの進退を描く。

先月末に初めて伊東潤の『天地雷動』を読んでから、武田勝頼絡みの作品を立て続けに読んできた。僕はこれを勝手に「武田勝頼サーガ」と命名している。最初に読んだ『天地雷動』と『武田家滅亡』は、何人かの人物の目線で事の推移を描いているが、その中でも中心にあるのは勝頼自身で、言わば勝頼が主人公と言ってもよかった。両作品は、勝頼は自分が置かれた状況の中でやれるだけのことはやったけれど、どうしようもない側近や彼を信玄亡き後の棟梁と認めない古くからの武将たち、それに、内陸国の貴重な財源として信玄の時代を支えていた金山の枯渇による財政悪化とか、そうした勝頼本人の努力だけではどうにもならない外部要因に翻弄され、武田家は滅びの途を辿ったのだという描かれ方だった。いわば、そこには「滅びの美学」のようなものがあった。

一方、今回ご紹介する作品は、そんな勝頼に離反して武田家の滅亡を加速させる結果を招いた各地の諸将の葛藤を描いた連作短編集である。木曾氏は、織田軍が武田領内に侵攻開始すると真っ先に攻略の対象となる木曾谷の守将だった。下條氏は、織田・徳川連合軍の伊那谷攻略の最初のポイントとなる吉岡城の城主だった。武田逍遙軒信綱は信玄の弟だったが、当主勝頼に遠ざけられ、伊那谷の攻略ポイントの1つ大嶋城を守っていた。仁科盛信の守る高遠城は、伊那谷における武田側の最後の砦だった。それぞれの抱えた特殊な事情があるものの、共通するのは、辺境の木曾谷や伊那谷の守備を任され、甲斐国の武田本陣からの後詰が期待できない中、押し寄せる織田・徳川連合軍の圧力に抗しなければいけない苦しさで、何の支援もしてくれない甲斐の武田勝頼に対する恨みや反発、或は対抗心だったかと思う。

こうして木曾、伊那が攻略され、織田・徳川連合軍はあっという間に甲斐国への侵攻を果たす。『武田家滅亡』では、勝頼が韮崎に新たな城を作り、ここを本拠として対織田・徳川軍に対抗しようとしていたことがわかるが、新府が完成する前に、勝頼は城を捨てて後退を余儀なくされる。その理由は、勝頼の親類衆の筆頭でもあった穴山梅雪信君の離反。長篠合戦の頃から既に不審な動きを見せていた信君が徳川家康の調略に応じて寝返りを鮮明にしたことにより、武田家は滅亡へと加速した。

結果として生き残った家もあるが、どこも長い目で見るとハッピーエンドになっていないところに戦国の世の無常さを感じざるを得ない。特に、徳川に寝返って織田信長にも謁見した穴山信君が、本能寺の変の後、家康の堺から三河への退避行に同道する途中、伊賀国の山中で討たれてしまう話は、本書で扱われた登場人物の中でも最もうまく難局をやり過ごした奴でもこの結末かよというので、まさに「惨め」という言葉で表現できるだろう。

ただでも描かれることが稀な長篠合戦以降の武田家滅亡過程におけるサイドストーリーを扱っており、面白い作品。

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峠越え

峠越え

  • 作者: 伊東 潤
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/01/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
信長でも秀吉でもなく、家康こそが天下人たりえた理由とは―。幼き頃、師より凡庸の烙印を押された男は、いかにして戦国の世を生き抜き、のちに天下を覆すことになったのか?本能寺の変、信長死す―。家康の人生最悪の危機は、最大の転機でもあった。大胆不敵の大仕掛け、当代無双の本格歴史長編。

次の作品は、今度は主体が完全に入れ替わり、徳川家康の目線から長篠合戦、甲斐攻略、安土城見学、本能寺の変、堺からの逃避行あたりまでを捉えたものだ。当時の家康が武田勝頼や織田信長、穴山信君をどう見ていたのかがわかって面白い。家康が自身の目線で登場する場面は『天地雷動』でもあったが、伊東作品での家康は、自分が凡庸であることを若い頃から自覚して、転機の見極めとそこでの振る舞い方だけを意識して生きてきたように描かれている。信長との間の緊張関係もユニークな視点で、読んでいてなるほどそういう見方もあるかと感心することも多い。本能寺の変の裏側をこういう解釈で描いた本は初めてだ。但し、ちょっと苦しい理屈だけど。

『戦国鬼譚 惨』では、穴山信君が徳川家康に帯同して安土で織田信長に謁見するシーンがある。信君が討たれる前までの話は、本日紹介した2作品に共通して登場するが、片や信君の視点、片や家康の視点で、同じ出来事が描かれていて、不思議な感覚。同じ作家が1つの時代を描いた複数の作品を集中的に読むことで、有効に記憶できるに違いない。

単純に歴史上の出来事を見ているだけなら家康は嫌な奴としか感じられないが、こうしてその出来事の行間を埋める作品があると、歴史の味わい方が大きく変わってくる。家康の印象も大きく変わる。

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先週末、武田勝頼終焉の地である山梨県甲州市で開かれた「甲州フルーツマラソン」のハーフの部を走ってまいりました。アップダウンがきつくて、はなからタイムが狙える大会ではありませんので、風景を眺めながら、沿道の地元の皆さんの応援にも応えながら、楽しく走りました。

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走りながら、時折甲府盆地を眺めたりして折れそうな気持ちを紛らわしてましたが、武田勝頼一行が逃避行の最後に見た甲府盆地もこんな遠景だったのかもしれません。甲州市といったらぶどうとワインでしょうが、来年もし同じマラソンに出ることがあれば、もう少し史跡巡りもしてみようかなと思いました。

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