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『プノンペンの奇跡』 [読書日記]

プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道革命

プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道革命

  • 作者: 鈴木康次郎・桑島京子
  • 出版社/メーカー: 佐伯印刷
  • 発売日: 2015/03/31
  • メディア: 単行本
内容紹介
1993年、カンボジアの首都プノンペン。内戦とその後の政情不安により国土も人心も荒廃し、水道事業においても施設は老朽化し、漏水、盗水、組織的不正が常態化していた。それからわずか15年、上水道は見事に整備され、100万都市に発展したプノンペン市民は、安全・安価な水の安定供給を等しく享受している。世界の水道関係者に『プノンペンの奇跡』と言わしめた改革はどのように進んでいったのか。エク・ソンチャン総裁をはじめとする水道公社職員と、JICA専門家らによる熱き闘いと交流の日々の記録。

JICA研究所が出している「プロジェクト・ヒストリー」というシリーズは、僕自身も知らない長年にわたるJICAの取組みがわかって毎回楽しく読ませていただいている。一方で、僕自身も仕事の関係上先に読んでおきたい参考文献もかなりあったため、3月末に出たシリーズ最新刊を読むのも、ちょっと後回しになってしまっていた。それに、3月末に同時に2冊が刊行されており、自分も土地勘があるバングラデシュの方を優先させてしまったので、カンボジアの首都プノンペンの水道公社を取り上げたこちらの方は、さらに時間がかかってしまった。

2冊同時だった上に、くしくも2冊とも「水」をテーマに取り上げている。しかし、バングラデシュの方は村落給水、しかもこれに、農村にまつわる様々な問題もついてまわる。方やカンボジアの方は都市給水で、和平合意後の復興プロセスの中で、1日わずかな時間しか供給されず、しかも汚水も交じって水質が極めて悪い水道事業の経営改善と施設整備、施設維持管理のための人材育成等が問題となっている。安全な水がいつでも負担可能な料金で入手できれば、乳幼児の下痢症疾患は減るだろうし、長年の摂取による砒素中毒のような症状も回避できるだろう。その意味で、水は健康問題とも密接につながっている。

プノンペンの水は1日24時間供給され、しかも蛇口の水がそのまま飲めるという。それが世界的には奇跡だと表現されている。本書で描かれている1993年和平合意直後のプノンペン市の水道事業の状況を読むにつけ、そこから現在の状況に持っていくまでの関係者の尽力といったら大変なものだっただろうと想像する。しかも、和平合意後の復興初期の段階で、JICAはプノンペン市の水道整備のマスタープランの策定では協力したものの、実際に専門家を派遣して技術協力を行ってはいなかった。本書の紹介文でも言及されているエク・ソンチャンという水道局長、後の水道公社の総裁のリーダーシップによるところが大きかったらしい。これに、テレメーター設置による水道使用量の正確な把握と料金徴収、水質改善といった後々水道公社が直面する課題とその解決に向けた人在育成のニーズに、JICAは技術協力で応えていくのである。しかも、技術協力実施にあたっては、北九州市や横浜市が人材派遣で協力している。

20年にも及ぶプノンペンでの協力も、本書を読むと結局のところは水道公社側のリーダーシップ、自助努力によるところが大きいというのがよくわかる。JICAや日本の自治体がやってきたことは、そうした現地側の自助努力だけではどうにもならないところに、その都度その都度迅速にニーズに応える協力を実施したということだろう。また、北九州市の職員の方が本書の中でいみじくも語っているのは、市内では水道インフラ整備がひと段落していて、若手職員に経験を積ませてレベルアップを図る場が市内だけでは足りないため、プノンペン向けの技術協力が、市の若手職員の人材育成にも貢献するものと期待して協力していたとのことである。言われてみれば確かにその通りだが、なかなか気付かない点にもちゃんと本書は言及している。

このシリーズは何冊も読んできたけれど、これだけ現地の関係者に膨大なインタビューを行ったものは少ない。いや、インタビューのボリュームからすると、『いのちの水をバングラデシュに』の方が多かったかもしれないが、現地水道公社の総裁や副総裁といった、ハイランクの人を相手に膨大なインタビューを行っているという点で、本書はシリーズ既刊本にない特長を持っている。ある意味「プロジェクト・ヒストリー」シリーズの頂点に近い1冊だろう。誰が最初に言ったともわからぬ「奇跡」の連呼は多少くどいし、共著者の好みの問題もあるのだろうが文章も堅いと思うところはあった。それでも、それ以上にこのわかりやすい構成と現地側の登場人物の多さ、そしてエピソードの豊富さは、シリーズ最高のヒューマンストーリーと言える。

しかも、エク・ソンチャン総裁目線で書かれているから、おそらくこのまま英訳しても外国人読者向けの本として十分読んでもらえる内容だろう。

最近、某国際金融機関が他の援助機関を巻き込んで、協力の有効性を高めて末端のサービスを住民に確実に届くようにするために、サービスの提供がうまくいったケース、いかなかったケースで、沢山事例を積み上げて、有効性を持たせるには何が必要なのかを分析しようという動きを見せている。成功事例だけを取り出してそれをコピペすれば問題解決できるというのはコンサルタントの発想だが、失敗事例も集めて、ケースストーリーをなるべく沢山拾ってみようというところは評価してよいし、プノンペン上水道なんかは折角の優良事例なんだから、JICAも胸を張り、堂々とケースの発信をしていって欲しいと思う。その時々に誰がどう考え、どう行動したのかをストーリーで描くという発想自体はJICA研究所が既に行っている「プロジェクト・ヒストリー」に近いので、胸を張ってケースの提供を図るべきだ。

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