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技術の移転よりも熟練労働者の移動? [持続可能な開発]

コペンハーゲン・コンセンサス・センターというデンマークのシンクタンクは、持続可能な開発に向けて国際社会が取り組むべき開発課題とその達成目標の各々について、費用対効果の観点から目標設定の妥当性を評価するという、興味深い取組みをここ数年行っている。

持続可能な開発目標(SDGs)のゴールとターゲットのまとまり方は、政府間の妥協の産物で、それが結果的に17ゴール/169ターゲットという、ミレニアム開発目標(MDGs)と比べてはるかにエスカレートした数の目標に決まってしまった。こんなに多くては覚えられない、もっとシンプルにすべきだという指摘は随分前からあったものの、結局これを減らす努力は今年の年明けからの国連の場での政府間交渉では全くなされなかった。

こんなに多くちゃ覚えられないし、各国ともこの中から数少ないゴール&ターゲットだけを選んで選択と集中を図るだろう、だからSDGsは実行性が保たれなくて失敗に終わるに違いない―――そういうシニカルなご発言も度々耳にする。失敗したで済まされるのかどうかは疑問だ。失敗すなわち地球自体の持続可能性の喪失すら意味する。シニカルな意見を言う人に問いたい。それでいいのかと。

だけど、実際問題として数が多すぎるし、財政的な制約をどこの国も抱えているから、選択と集中は仕方がないことだ。だとすれば問題はどこに集中するかだろう。中には1つのゴール&ターゲットの達成に取り組むことが、他のゴール&ターゲットの達成にも同時につながる、正の相関関係があるケースだって結構あるかもしれない。また、SDGsは基本的に取組みの結果としての達成目標が書かれているもので、その達成に向けて何をどうやっていけばいいかという方法論まで縛った書き方にはなっていない(一部を除いて)。

だから、このシンクタンクの取組みはかなり興味深い。まだまだ消化しきれていないところはあるけれど、少しずつでもここの成果品は読み込んで、理解に努めていきたいと思う。

さて、本日のお題は、テクノロジーに関する面白い意見についてご紹介したい。

シンクタンクの代表のビヨルン・ロンボルグ氏が、自身のブログで掲載した記事で、技術移転の費用対効果について、同センターの分析結果を紹介したものだ。

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世界の貧困層を5000億ドルリッチにするには?
How to Make the World’s Poor $500 Billion Richer

2015年7月30日
https://www.linkedin.com/pulse/how-make-worlds-poor-500-billion-richer-bjorn-lomborg?trk=mp-reader-card

世界の貧しい人々を5,000億ドル裕福にする方法はある。しかし、それが話し合われることは滅多にない。これは由々しき問題だ。国際社会では、ミレニアム開発目標を継承・維持し、2015年から2030年までを規定する次の開発目標のセットをまさに作らんとギアを加速しているところだからである。2兆5000億ドルの開発援助に加えて、国の予算から何兆ドルもの資金が目標達成に取り組むのには必要だ。だから正しく優先順位をつけることが重要となってくる。選ばれ方が適切とは思われないターゲットの達成にお金をつぎ込むことは、他のもっと良いことを実現する機会を奪ってしまう浪費につながる。

望まれる成果の最大化を図るため、私のシンクタンク、コペンハーゲン・コンセンサスでは、世界をリードする経済学者から成る60のチームに依頼して、全てのターゲットの経済社会環境面の費用・効果分析を行った。健康や教育、食料、水、環境等に関する費用対効果は明らかだが、他のターゲットについては、開発コミュニティでは頻繁に論じられている割には費用対効果がはっきりしない。その一例は富裕国から貧困国や中所得国に向けて、持続可能な開発のための援助として行われる技術移転である。

テクノロジーが重要だと言われるのは、人々の生産性を高め、経済の全体的な成長を加速するからである。それだけでなく、知識はいったん修得されるとその社会に埋め込まれ、将来的な成長の踏み台として利用することができる。技術研究開発の十分な基盤を有する国は、新しいテクノロジーを吸収し、さらに活用していくのに有利な位置にある。

コロラド大学のキース・マスクス教授は、何が機能し、どれだけの効果をもたらすのかについて、広範な考察を行い、これを論文にまとめた。その中で教授がまさに指摘していたのは、国連のテクノロジー関連のターゲットがあまりに一般的で当たり障りのないものになっているという点だ。これに代わり、教授は経済学的言説を用い、2つの提案を行っている。

st_assessment_01_1.jpg1つは率直な提案である。もし我々のゴールが貧しい人々にとってより多くのテクノロジーを利用可能なものにすることであるならば、特に途上国において研究開発(R&D)への投資を増額すればよい。R&Dの恩恵はそれに取り組んだ企業だけに及ぶものではなく、その経済のどこかで生産性向上につながるため、社会的便益がより広くに及ぶ。その企業の従業員だけではなく、他の人々も操作する中で学び、さらなるイノベーションにつながる可能性が拡がる。アップルがiPhoneの1号機用にイノベーティブなタッチスクリーンを製作した結果、その知見は多くの異なる分野の多くの製品で利用されるようになった。

こうした広範囲にまたがる恩恵は、政府が課税控除や公的研究機関の研究開発への直接支出のような形で研究を支援する正当な理由となる。今現在、開発途上国ではGDPのわずか0.2%しかR&Dに投入しておらず、2030年時点でも0.3%程度にしかならない見込みだ。仮にこれを2030年までにGDPの0.5%程度にまで拡充するよう目指すならば、当然のこととして政府の直接的費用が増えるが、長期的なイノベーションの可能性も高まるだろう。

教授のモデルでは、1ドルの投入につき、3ドル相当の便益が得られると予想されている。これは悪くない数字だ。

しかし、低所得国での技術的能力を高めるのにはるかに効果的な方法が他にもう1つある。人々の生産性を引き上げるためのテクノロジーの革新に注目する代わりに、より多くの人々を彼らが生産性を発揮できる場所に移動させることである。

モノの自由な移動(自由貿易)を保証することは世界のGDPを数パーセント引き上げることができるが、一方で人々の自由な移動も世界のGDPを67~147%引き上げることができると長く知られてきた。自由な移動を認めることで、世界の所得は倍増するのだ。

これは、貧しい地域の人々が生まれつき非生産的だったというわけではなく、彼らを取り巻く環境が彼らを非生産的にしているからだという考えに基づく。従って、例えば人がグアテマラから米国に移動できれば、人々ははるかに生産性が高くなる。

勿論、完全に自由な人の移動は貧困国から富裕国への大規模な人口移動につながり、大きな政治問題になる可能性もある。しかし、マスクス教授は、10年間有効な就労ビザを持つ熟練労働者の出稼ぎを、現在の水準から5~20%増加させるという、控えめな目標から始めてもよいのではないかと提案している。私達は米州諸国については最もすぐれたモデルを持っており、教授の予測はこの地域内での結果を予測するものだが、それは他の地域へもスケールアップが可能である。

熟練労働者の出稼ぎが5%増えるということは、13万6000人の労働者増となり、うち9万7000人は米国に行く。出稼ぎ労働者は米国人の比べてその生産性が半分ないしそれ以下でしかないという研究もあるが、そうであったとしても出稼ぎ労働者をより豊かにする。私達のモデルでは出稼ぎ労働者が今後25年間で150億ドル多く稼げると予測されている。さらに、彼らが新しいアイデアや概念を持ち込むことで、米国やその他受入れ地域の生産性を150億ドル分引き上げると見られている。

勿論、これは貧しい国々から熟練労働者が流出することを意味する。例えば、この10年間で、メキシコからは3万人が流出するとみられる。しかし、彼らは稼いだお金を持ち帰る。その規模は30億ドルとみられる。多くの論者が頭脳流出を懸念するが、むしろ頭脳修得(brain gain)を示す証拠の方が多い。もし医師やエンジニアとして外国に行き、より多くの収入を得る機会に恵まれたとすると、より若い世代の人々は、専門教育に投資するようになり、長期的にはより多くの医師や技術者が育成されるようになる。そしてこうした高い技能を持った専門家が10年後に帰ってくると、彼らは新しいアイデアやより高い生産性を母国に持ち帰るだろう。

トータルで見ると、税収機会の喪失による費用は、人々の移動にともなう便益に比べてはるかに少ない。1ドルの投入に対し、このターゲットなら10~20ドルの便益をもたらす。米州諸国は世界経済の1/3を構成しており、そn潜在的便益は5000億ドルにも達する。このことは、より大きな規模での人々の移動というターゲットが次の開発目標のセットの中でも強力な目標候補となり得ることを示している。

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テクノロジーの南北間移転はSDGsの大きな課題の1つで、政府間交渉の過程でも、途上国側からは先進国の技術の開示とアクセスの保証が強く求められ、それに対して先進国側からは、知財保護の観点から相当な反対意見が出されていたようである。このブログの記事や引用されている論文がこの争点に直接的な解決策を示唆してくれているものでは必ずしもないけれど、テクノロジーの費用対効果を数値で理解するには興味ある文献であることは間違いないだろう。僕自身も人口移動については少しばかりかじったことがあるけれど、恥ずかしながら援助による技術移転の代替策として人口移動の保証を挙げている論説には初めて出会った気がする。

なお、上記の記事の中でロンボルグ氏が引用しているマスクス教授の論文というのは、科学技術関連の目標に関する評価レポートとして、コペンハーゲン・コンセンサス・センターのHPからダウンロード可能である。僕のブログの読者の多くの方は読まないだろうと思うけれど、僕自身がすぐにアクセスできるよう、リンクを以下の張り付けておく。
http://www.copenhagenconsensus.com/publication/post-2015-consensus-science-and-technology-assessment-maskus
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