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『たんぽぽ団地』 [重松清]

たんぽぽ団地

たんぽぽ団地

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
昭和の子どもたちの人生は、やり直せる。新たなるメッセージが溢れる最新長編。元子役の映画監督・小松亘氏は週刊誌のインタビューで、かつて主人公として出演したドラマのロケ地だった団地の取り壊しと、団地に最後の一花を咲かせるため「たんぽぽプロジェクト」が立ち上がったことを知る。その代表者は初恋の相手、成瀬由美子だった……。少年ドラマ、ガリ版、片思い―― あの頃を信じる思いが、奇跡を起こす。

海外赴任まで残り2カ月となり、赴任前に読んでおきたい本をできるだけ読み漁りたいと思っている中、意外にも早くチャンスが巡ってきたのが、未だ昨年末に出たばかりの重松清の新刊。購入しようかどうしようかと考えていたところ、偶然にもコミセン図書室の新着本コーナーで発見。直前に返却してくれた借出し第1号の方に感謝したい。

こうして幸運に恵まれて早めに読むことになった重松作品、団地が舞台ということで、どうしても『ゼツメツ少年』や『一人っ子同盟』との比較で書いてみたくなる。どちらも団地やニュータウンを舞台にした、最近の重松作品だ。

『たんぽぽ団地』は時空を飛び越えて過去と現在がつながるファンタジーだが、『ゼツメツ少年』は小説家の先生の物語の中に、現在を生きている子ども達を紛れ込ませるというものだ。現実の描写という手法はとらず、現在と過去、現実世界とフィクションの世界を行ったり来たりする話の展開になっている。正直言うと『ゼツメツ少年』は、各節の間で現実と虚構とのぶつ切りになっていたので話の展開がわかりにくかったが、『たんぽぽ団地』の方は、少なくとも展開自体は時系列順でつながっており、読みやすかった。

『ゼツメツ少年』はいじめや自殺という今の社会問題を正面から取り上げている。これに対して、『一人っ子同盟』と『たんぽぽ団地』は、そもそもが団地生活を取りあげている。『一人っ子同盟』は1970年代の話で、基本的にはその70年代の世界だけで話が展開する。成長した主人公が現在から70年代を振り返るシーンはないこともないけれど、現在と過去をつなげることはあまり意識されておらず、もっぱら70年代の団地のお話だ。

一方、『たんぽぽ団地』も舞台は同じ70年代半ば。そこに当時暮らしていた人々と、40年後の今そこに集う人々とをつなぐお話になっている。70年代半ばならできて年数も経っていないニュータウンは入居世帯も平均年齢が若くて、子どもも大勢いて活気もあったと思われるが、今じゃ築50年が経過し、入居者も高齢化が進み、お年寄りの孤独死も問題化している。入居世帯の数はどんどん減り、取り壊し決定が退去を加速化させ、どんどんゴーストタウン化が進む。子どものいる世帯などほとんどない。

『たんぽぽ団地』の舞台は今だ。団地で生まれ育った世代が大学生、社会人となって団地の外に出て行き、外で結婚して家庭を持つ。そこで生まれた小学六年生の子ども達が、古い団地を訪ねて行って、そこで時空の嵐に巻き込まれて、40年前の小学六年生、彼らを取り巻く団地の人々と交流を持つというお話である。

この作品の意図は、団地の最も勢いのあった時代の記憶を、これからの社会を担っていく今の子ども達にも知ってもらおうというところにあるのは明白だ。団地に限らず、どのような建物であっても、家屋であっても、いったん取り壊されて更地になってしまったら、往年のそこでの人々の暮らしを物語るような記憶が次の世代になかなか語り継いでいってもらえない。それを時空の嵐という要素を用いて、今の小学六年生に直接体験させてしまったという話になっている。

同時に、1970年代に小学生だった僕たちの世代は今や50代を迎えているが、時空の嵐は、小学生時代に置いて来てしまった心残りを今改めて解消するのにも役立っている。

巧い構成だと思う。『一人っ子同盟』は主人公がたとえ小学六年生だからといっても、舞台が70年代だったがためにうちの小6の愚息に読ませることができなかった。でも『たんぽぽ団地』の主人公は今を生きている小学六先生だから、愚息に「読んでみては?」と勧めることも可能だ。実際そうしてみたところ、押しつけがましかったからか拒否されちゃったけど(苦笑)。

比較に使った最近の2作品と比べて、『たんぽぽ団地』はそれでもお薦めする。重松作品にはカタルシスがないという評価が一般的だが、本作品は読んでいて最後のクライマックスシーンは久々に泣けた。重松作品は泣かせるとも評されることがあるが、僕自身が泣くこと自体はかなり珍しい。主人公が小学六年生だというのに五十のオジサンが何言うかと思われるかもしれないが、それでも最近の重松作品の中ではかなりの佳作だと思う。

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