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ブータン初の人工衛星 [ブータン]

初の人工衛星、2018年打ち上げへ
Bhutan to launch its first satellite in 2018
Kuensel、2016年10月21日、Younten Tshedup 記者
http://www.kuenselonline.com/bhutan-to-launch-its-first-satellite-in-2018/

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《3人の留学候補生と首相のフォーショット。BBSホームページから》

【ポイント】
2018年半ばには、ブータン初の人工衛星ーナノサテライト「キューブサット」が打ち上げられる。キューブサットは一辺10cm、重さ1kgの超小型箱型衛星。この開発のため、3人の若手エンジニアが選抜され、日本の九州工業大学で宇宙工学の修士課程に進む。3人は今月末までに出発予定。

3人は九州工大で、ナノサテライトの設計・製作から打ち上げ、運用までを学ぶ。2年後には帰国し、情報通信省傘下に設立予定の宇宙開発センターに籍を置き、ナノサテライトの制御に当たる。トブゲイ首相によれば、宇宙開発プログラムは政府にとっても極めて重要で、このために総額28万ドルの予算を確保しているという。3人の留学費用に加え、ナノサテライトの打ち上げ、地上ステーションの設置までが含まれる。

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このクエンセルの記事は結構詰め込まれているので、ポイントは簡略にして、もう少し以下で詳しく解説してみる。

先ず、このプロジェクトでなぜ九州工業大学なのかという点だが、ここの大学にはいくつかの衛星開発プロジェクトがあり、学生メンバーを中心に衛星の設計、開発、組立、運用を行っている。その1つがBIRDSプロジェクトと呼ばれ、モンゴル、タイ、バングラデシュ、台湾、ガーナ、ナイジェリア、日本の7カ国が参加する国際プロジェクトとなっている。これに参加した各国の留学生は、ここで研究開発したナノサテライトを、各国の求める目的のために将来は打上げ、運用していくことが期待されている。このプロジェクトに、ブータンも新たに参加しようとしているのである。

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《キューブ衛星はこんなに小型。BIRDSプロジェクトHPから》

キューブサットは、打ち上げられると地上500~1500kmという比較的低い高度で対象地域をカバーする。キューブサットには高性能のカメラが2台搭載され、高品質の画像を地上に送ることができる。この画像により、氷河湖や森林被覆の状況の把握、基礎的通信サービスの自前での提供が可能になるという。

このあたりのメリットをさらに具体的に挙げてみよう。

第一に、2台の高性能カメラを搭載しているということは、2点画像を地上に送信できるということで、これは地形図データの作成に役立てることができる。現状この国の地形図は1960年代の地図データをいまだに使っている状況で、現在地形図の3Dデータの製作がJICAの協力で行われている。2点画像の衛星データを外部から購入し、これをコンピュータ操作で等高線プロットし、それを現地踏査で実際に確認してみるなどして、地形図データに仕上げてく。これで取りあえずのアップデートは可能だが、毎年雨期を経るたびに地形が変わって行ってしまう状況の中で、どのようにデータ更新を図るのかは依然課題である。だから、自前の衛星データを常時確保できるというのは大きなメリットだと言える。地形図データは、そのままでも利用できるが、他の情報を地図情報と組み合わせることで、持続可能な開発目標(SDGs)の達成状況のモニタリングのための指標も開発することができる、相当なポテンシャルを持っている。

第二に、森林被覆状況の把握だが、その森林の性格がより正確に把握できるようになると、森林のCO2吸収能力の算出もより確度の高いものになることが期待される。針葉樹林か広葉樹林か、古い森林か新しい森林かにより、CO2吸収能力は変わってくる。以前トブゲイ首相はTEDトークに出演し、ブータンが世界の温室効果ガスを吸収している国(カーボン・ネガティブ)であることを高らかに宣言、こうした国際貢献を開発協力資金の確保につなげたいとする発言をされていた。そうするためにはより正確なCO2吸収量を算出できないといけない。単に森林被覆面積に吸収能力の係数を掛けるようなやり方ではなく、その森林がどんな森林なのかを空から把握しておかねばならない。自前の静止衛星を持つことは、こうした把握が可能になるということである。

第三には、天候予測の確度の向上が挙げられる。ブータンは現在日本の気象衛星ひまわりの画像の無償提供を受けて気象観測を行っているが、ひまわりはブータンだけを見ているのではなく、より地上から高い位置で撮影しているので、南アジア全域からするとブータンは米粒みたいな扱いになり、正確な天気予報が出せないというのが現状である。自前の静止衛星を持てば、ブータン全土を大写しで見られるわけで、例えばティンプーとプナカとで異なる天気予報が出しやすくなるのである。

クエンセルの記事によれば、ブータン国営テレビ放送BBSは全国に番組を届けるために、INSATの通信施設に年間950万ニュルタムの使用料を支払っているという。ブータンテレコムは通信サービスを全国カバーするために年間300万ニュルタム、水文気象サービス局(DHMS)は氷河湖の決壊洪水を含む洪水予警報システムを維持するのに年間120万ニュルタムがかかっている。トブゲイ首相がナノサテライトが経済的にも意味のある投資だと強調するのは、こうした外部の衛星サービスを利用するのにかかっている費用を、自前の衛星を持つことによりかなり節約できると踏んでいるからだと思われる。

制度的には、ブータンはトランスポンダー(地上からの電波を受信し,増幅して異なった周波数で再び送信する中継器)を操作できる人材を有していないために、折角ブータン用にと割り振られたトランスポンダーを利用できないという状況なのだという。今年年末までに南アジア地域協力機構(SAARC)の人工衛星「SAARCサテライト」が打ち上げられ、これにブータン向けのトランスポンダーも搭載されることになっている。これはナノサテライトとは別に、高度35800kmから南アジア全域を捉える衛星だが、このトランスポンダーを使いこなせる人材がブータンにはいないため、宝の持ち腐れになっている。

これは一例にすぎず、記事では、ブータンが1988年に国際電気通信連合(ITU)に加盟した際に得た静止衛星軌道位置(Orbital Slot)も、2000年に追加配分された軌道位置も、ブータン自身が占有できることになっているにも関わらず、まったく利用できていない。首相が、「我々自身の目的のために配分された軌道位置をちゃんと利用できるだけの能力を身につけることが必要」だと述べるのはわからないでもない。

問題は、若手エンジニアを3人留学させたからといってすぐにそういう能力が身につくのかという点にあると思う。2年間でここまでのことを学んで帰ってくるのは大変だなと思う。勿論期待はしているけど。

また、先述の地形図データ作成の話にしても、洪水予警報システムの話にしても、天気予報の話にしても、ブータンテレコムの話にしても、既存のJICAの協力の長期的な持続可能性と何らか関わってくる話だと思える。ナノサテライトの勉強をする若手エンジニアが日本に留学するというのはJICAとかODAとかとはまったく別の次元の話のようだが、留学生が日本にいるというのは日本にとっては大きなアドバンテージだと思う。早い段階から連携を取って、長期的にはナノサテライトとつなげられるシステムを構築していくよう、考えていく必要があるのではないだろうか。

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