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『都市輸出』 [持続可能な開発]

都市輸出―都市ソリューションが拓く未来

都市輸出―都市ソリューションが拓く未来

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2015/11/27
  • メディア: 単行本

内容紹介
日本の「都市」を輸出するノウハウを書籍化する初の企画。日本人が実は知らない、都市を通じた課題解決力を分析し、効率的に世界に売り込むノウハウを紹介する。高齢化社会に対応したコンパクトシティの確立に成功した富山市の事例、世界一安全で高い人口密度を実現した東京都の事例、防災都市としての実力を見せつけた仙台市の事例など、多数の事例を掲載。

先週、10月17日から20日までの日程で、エクアドルの首都キトで、第3回国連人間居住会議―通称ハビタット3(Habitat 3)という国際会議が開催された。会議の成果文書として採択されたのは、その名も「新しい都市の課題(New Urban Agenda)」。都市と農村の人口比率が2008年に逆転し、不可逆的に都市の人口比率が高まっている現状、開発課題のフォーカスが都市に向かうのは致し方ないところだ。

ここではハビタット3の成果文書について詳述するつもりはないが、都市が開発課題の焦点だというのなら、その都市での開発課題への取組みで結果を残してきた日本の都市の経験は、これから都市化がさらに進んでいく多くの途上国にとっても有用であるに違いない。本日ご紹介する本のタイトルはその名もズバリ「都市輸出」。日本が「都市ソリューションの宝庫」だという立場に立ち、この都市ソリューションのポートフォリオこそが、都市化というメガトレンドのなかで、日本が世界に貢献できる大きな潜在価値だと主張する。

本書は「都市ソリューション研究会」という、産学官の合同研究会での議論を1冊にまとめたものだ。都市課題解決の優れたモデルを有する地方自治体6団体と、日本をリードする都市・インフラ関連の企業13社、それと都市・インフラ分野をつかさどる政府機関6機関が参加している。そして、日本の経験を「ソリューション化」するためには、国と自治体と企業が三位一体となることが不可欠だと論じている。

都市かと現場で対峙し、課題を一歩ずつ解決してきた自治体と、具体的な技術やノウハウを有する企業と、都市・インフラ政策をリードした国と、さらには資金面を支える公的金融機関が、それぞれの知見を最適に組み合わせることで初めて、「ソリューション」として相手都市に価値が提供できる。

取り上げられた都市の課題は、都市開発、交通(TOD)、水、廃棄物、災害の5分野で、事例として取り上げられた自治体は東京都、横浜市、大阪市、京都市、仙台市、富山市である。第2章「都市課題解決策の宝庫ニッポン」では、まさにこれらの自治体の経験が紹介されている。

 東京都―公共交通主体の大都市圏

 横浜市―自立したスマートな複合産業都市

 大阪市―サステナブルな水循環

 京都市―伝統とイノベーションの融合

 仙台市―コミュニティ起点のレジリエンス

 富山市―人口減少・高齢化対応のまちづくり

確かにそうなんですが、なんとなく有名どころを集めちゃった感が否めないなという気もする。富山市は例外だと言われるかもしれないが、元々これらの都市は既に世界的にもある程度は名の通ったところばかりで、これまでにも話は聞いたことがあるというところが多い。でも、これくらいの規模の都市じゃないと課題解決のグッドプラクティスを持っていないのかといったらそんなことはない筈で、中小規模でもいい取組みをしている都市は地方にはいくつかあるのではないかと思う。

日本企業のインフラ技術そのものを語るのではなく、その技術がいかに日本の都市課題を解決して来たかという「ソリューション」としての側面を、当事者である日本の自治体と一緒に訴求する視点が必要である。

日本の都市の現在を語るのではなく現在の姿に至るまでの過去について語ると、日本の都市の過去は、実は途上国都市の現在そのものであることを理解することができる。

自治体は都市課題克服のストーリーを通じて、自らの経験・ノウハウを伝えるとともに、背景となっている政府の政策・制度について言及する。途上国都市は日本の自治体の都市課題克服の実績に共感し、都市間協定を締結する。その後、自治体は政府・政府系金融機関んによる財政的支援制度を活用して、市内企業を中心とした日本企業が海外展開し、ひいては自都市の経済が発展するためのきっかけづくりを行う。

―――その通りなんでしょうけどね。でも、「自治体は企業・政府とともに達成してきたその成果を魅力的なストーリーとしてまとめ、ショーケースとしてアピールすることで、途上国都市関係者の関心を生み出す」といったことを、自治体にどこまで期待できるんだろうか。そういうことのできる知力・体力を持っている自治体って、そんなに数は多くないんじゃないかと気になる。自分たちの取組みが世界的に見ても秀逸なものであるとはわかっていても、その経験をストーリーとしてまとめる作業を自ら行い、英文コンテンツにして発信していく作業まで自前でできる自治体は多くないんじゃないだろうか。

だから本書の提言は絵に描いた餅だというつもりはない。これを自治体自身に求めるのは酷であり、誰かしら第三者がその作業を担うことも時には必要なのではないかという気がした。

それと、本書は日本の都市ソリューションの輸出を、途上国の都市の現時点の発展段階に合わせて適用しようと考えられているようだが、それだとその水準に至るまでは日本の都市輸出の対象とはならないことになる。実際は今後2050年にかけての都市化の進展はさらに急速になっていくだろうから、現状ではなく、将来を見据えた都市ソリューションのマーケティングが必要なのではないかと思う。例えば、これからのティンプーを見据えて適用可能な日本の都市ソリューションというものも、きっとどこかにあると思うのだが…。

それと、なんだかんだ言っても、「仙台市=防災」とか「富山市=コンパクトシティ」といったまとめ方でソリューションの事例が描かれているけれども、では仙台市や富山市は上下水道や廃棄物処理では優れた経験はないのかといったら、ひょっとしたらあるかもしれない。途上国の都市はそんな課題別で別々の日本の都市の経験を知りたいからそれらの都市と各々提携していこうかとはなかなかならず、できれば日本の特定の都市との提携であらゆる開発課題への取組み経験を知りたいとなるかもしれない。本書は各都市の「売り」の部分だけを強調して描いているが、途上国の都市が求めているソリューションって、そういう個別具体的なものなのかなというのがよくわからない。

ただ、今住んでいるブータンの都市を見る限りにおいて、程度に差はあるにせよどこでも問題だなと思えるのは廃棄物処理であるようには思える。トブゲイ首相は最近、ご自身の通勤途上で歩きながら路上のポイ捨てゴミを拾ったりされていると聞くし、何かのイベントの会場に姿を見せれば、会場で出るゴミの処分についての徹底を主催者に念押しするシーンも見られる。ゴミの削減に向けては再利用の方策を考えつつ、分別回収の徹底や排出量の圧縮などを進めるために、環境教育と組み合わせるアプローチも重要で、その意味では本書にある京都市の環境教育の事例は参考になると思う。

持続可能性を考えれば環境への負荷の小さいまちづくりの経験というところでの日本の都市の経験が本書の記述の中心になるのは仕方ないことだが、一方で都市にはクリエイティブな若者が集まり、持続的な経済成長を牽引していきそうなイノベーションを起こす核ともなり得ると思う。それを大都市でやり遂げるというのはありきたりだが、地方の都市でそれを実現させ、若者が惹きつけられてどんどん集まっていっている自治体があれば、ブータンにとっては非常に参考になる都市ソリューションの提供につながるような気がするのだが…。

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