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『武曲』 [読書日記]

武曲 (文春文庫)

武曲 (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
羽田融はヒップホップに夢中な北鎌倉学院高校二年生。矢田部研吾はアルコール依存症で失職、今は警備員をしながら同校剣道部のコーチを務める。友人に道場に引っ張られ、渋々竹刀を握った融の姿に、研吾は「殺人刀」の遣い手と懼れられた父・将造と同じ天性の剣士を見た。剣豪小説の新時代を切り拓いた傑作。

先週の今頃、雑誌Numberのウェブ版で本書が紹介されているのを見て、週末読書で読んじまおうと思って電子書籍版を早速購入、読み始めた。文庫版でも490頁もある大作であること、加えて作品に硬派感を出すためかやたらと画数の多い漢字を多用していて、読んでてゴツゴツ躓くことも多く、意外と読み進めるのに時間がかかってしまった。一気読みというわけにはいかなかった。

あらすじはNumberのウェブ版の書評をご覧いただければなんとなくイメージできるのではないかと思う。また、この作品は今年6月に綾野剛、村上虹郎主演で映画化されるらしいので、その作品紹介動画でもイメージしやすいのではないかと思う。
http://number.bunshun.jp/articles/-/827176



さて、肝心の中身であるが、難解な漢字表記、剣道で使われている四字熟語を多用していて、かなり硬派な内容になっている。また、編集者もおそらくそれが作品世界を表現する最適な道だと認めて、難しい漢字も敢えてそのまま載せているのだろう。これだけ硬派な仕上がりにしても、コアな読者は必ずついてくるだろうという強い確信があってのことだろう。

こと剣道に関する描写はかなり細かく、かつ正確で、剣道五段の僕としても腑に落ちるところが多かった。剣道を題材にした小説は、最近で言えば海堂尊『ひかりの剣』や誉田哲也の「武士道」シリーズ等があるが、いずれもエンタテインメント性は強いがその分リアリティにはちょっと欠けていたと思う。それに比べると、『武曲』の剣道の描き方は、実際の剣道に最も近く、リアリティを感じさせるものである。文字を追いかけながら、その光景がイメージできる剣道題材の作品ということでは、高橋三千綱『九月の空』以来かもしれない。

一方で、同じ五段とはいえ、矢田部研吾は殺人剣の父親に反発しつつも剣の道を歩み続け、20代で既に五段合格していたわけで、ダラダラやって50代前半でようやくここまでたどり着いた僕からすると、研吾の境地にはわかりにくいところもあった。それでも研吾の歩みは理解しやすかった方だが、羽田融の方はというと、それだけラップのリリックとして使えそうなボキャブラリーの蒐集に余念がない割には、ゲーセン通いをしていたり、かと思うとやられそうになったら一変したりと、正直言うとちょっと掴みどころのないキャラだなと思ったりもした。

それでも、この2人が三度にわたって対峙したシーンを含め、登場人物同士が剣を交わすシーンはいずれも緊迫感があり、固唾を飲みながら展開を見守った。そして、剣道は2人が対峙して初めて成立する武道だなとつくづく思った。読了した時、猛烈に稽古がしたくなっている自分がそこにいた。

だからというわけじゃないが、僕は年明け以降、帰宅後必ず素振りを500本行うのをノルマにしてここまで過ごしている。朝やると心拍数が上がって1日中胸が苦しくなったりするが、夜やればあとは寝るだけ。徐々に500本も苦にならなくなってきたので、もう少し本数を増やしていこうかとも思っている。当然ながらブータンでは稽古の相手などいない。本作品を読んで、たとえ命を懸けた対峙であっても目の前に相手がいることのありがたさを感じたが、一方でそれがたとえ稽古相手不在で素振りしかできない状況であったとしても、目の前に相手がいることをイメージしつつ、1本1本を大事に打ち切ることが大切だと思った。

最後にもう1つ。最近、ブータンでもドラッグ中毒患者のリハビリに取り組んでいるNGOの方とお話する機会があったが、ドラッグに侵された人の更生は一筋縄ではいかず、リハビリ施設を出た後も常に見守る必要があるということをおっしゃっていた。ここでやられているのは職業訓練等で社会に出てからも食べて行けるようになるためのスキルの修得等が中心であるようだが、『武曲』を読んだ後であれば、武道やスポーツが更生への糸口にもなるのかもなと少し思ったりもしている。

タグ:剣道
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