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『思い出は満たされないまま』 [読書日記]

思い出は満たされないまま

思い出は満たされないまま

  • 作者: 乾 緑郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
心に迷いを抱えた人を誘い込む、古い神社の鎮守の森。手を繋いでその丘を下りて行く三人の親子。団地の植え込みの木の間を走って行く、親指ほどの大きさの、背中に蝶の翅が生えた小さな女の子。平凡に見える、全ての人が何か不思議な物語を心に秘めている。注目の新鋭が紡ぐ、団地を巡る少し不思議で懐かしい物語。
収録作品:「しらず森」「団地の孤児」「溜池のトゥイ・マリラ」「ノートリアス・オールドマン」「一人ぼっちの王国」「裏倉庫のヨセフ」「少年時代の終わり」

初めての作家である。表紙の装丁にはあまりひねりもないし、図書室で新着本のコーナーで見かけた時には、最初借りるかどうするか迷った。たまには小説も読みたいところだが、贔屓の作家の新作にはなかなかお目にかかれない。本書については知らない作家だったのでちょっと躊躇はしたものの、「団地」というところには少しだけ興味もあったので、期待せずに借りてみることにした。

結果としては、久しぶりに新鮮さを味わえる団地小説に出会ったという感じがした。収録されている短編は全て連作になっていて、ある作品の登場人物やそれに絡む事物が別の作品でも別の形で登場したりするので、興味も長続きした。

それと、元々劇作家でもあるというところから納得がいったが、作品のタイトルの付け方とか、風景描写、会話の描き方等を見ていると、映画にしやすい作品だなと思ったりした。特に、タイトルの付け方にはかなりのセンスを感じる。さらに、各々の作品の中にきらりとする知性も感じさせられる。会話の中に、「ヘンリー・ダーガー」「サンタフェの奇跡」「仁風閣」等が挿入されている。恥ずかしながら僕は全然知らなかった。こうやって、あまり期待せずに読み始めた作品で、新しいことを学べるというのはかなり得した気分になれる。

これからの活躍が期待できる作家に出会った気がする。

タグ:団地 乾緑郎
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『南朝全史』 [読書日記]

南朝全史-大覚寺統から後南朝まで (講談社選書メチエ(334))

南朝全史-大覚寺統から後南朝まで (講談社選書メチエ(334))

  • 作者: 森 茂暁
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/06/11
  • メディア: 単行本
内容紹介
謎多き南朝。その実像は、政治・文化的実体をともなった本格政権だった。劣勢を余儀なくされながら、吉野山中になぜ長きにわたり存続できたのか。あらゆる史料を博捜し、「もう1つの朝廷」200年の全過程を明らかにする。

今月はなぜか昔の趣味だった南北朝時代の歴史オタクのハートに火が付き、南朝ものについて2冊既に紹介してきたが、南朝研究の第一人者である森先生の著書をもう1つ紹介し、ひと区切りとしたいと思う。(ひょっとしたら別の切り口の南北朝ものを紹介する可能性はありますが…)

森先生の著書の中でも、後醍醐天皇以前の大覚寺統とか、後南朝とかをより詳述した本は既に読んで一部はこのブログでも紹介しているので、今回のような南朝の起源ともいえる大覚寺統と持明院統の分裂以前、鎌倉中期にまで遡り、下流は後南朝というところまでをカバーする、いわば南朝の通史ともいえる1冊は、復習のような位置づけでかなり飛ばし読みをした。1つ1つの事件はあまり深掘りされていないので、本書はあくまでも通史と割り切り、各々の出来事をもっと詳しく知りたかったら、その部分だけを切り取った別の森先生の著書を読んでみるといい。森先生の南朝研究のエントリーポイントと位置づけてもいい本だろう。

おそらくこの時代のことを少しでもかじったことがある人なら、北朝よりも南朝の方にシンパシーを抱いている人は多いのではと想像する。どんどん劣勢に追いやられる中、時折北朝方の武家がお家争いや武将同士の対立などに巻き込まれて南の朝廷はいいように利用され、目的達成したらポイ捨てされ、南朝の悲願ともいえる京都奪還を本気で考える武将などほとんどいなかったのではないかと思う。そういう都合のいい存在ではあるものの、最後は利用価値が乏しくなって忘れ去られていく姿はどこか悲しい、滅びの美学のようなものを感じてしまう。

でも、今回南朝の歴史を通して眺め直してみて思ったのは、南朝といっても僕が興味を持っていたのは朝廷そのものではなく、楠木党や伊勢の北畠一族の歴史であったということだ。大覚寺統と持明院統の対立関係とか、南北統一以降の後南朝のこととかにはあまり興味がなくて、正直言ってしまうとあまり面白くはなかった。南北統一以降、楠木党も北畠一族も室町幕府との関係をある程度修復し、とりわけ伊勢の北畠家は北畠満雅以降将軍家と非常に親しい関係を維持していったため、当然ながら後南朝の時代になると両家の話はこの本ではあまり出てこない。そういった点では物足りなさがある1冊だった。

ただ、吉野の朝廷の姿を知るという意味では、この本も結構面白いかもしれない。南朝の天皇が連発していた綸旨がどのような内容なのか、国内のどの地方に住むどのような武士に綸旨は発出されたのか、直筆なのか側近が天皇のお言葉を書き取っていたのか、必ずしも国内統治を考える上では地理上のアドバンテージがない吉野や賀名生でどうやって統治をしてきたのか、どういう行政機構を持っていたのか、等々の疑問が湧いてくるが、そうした南朝の日常に関する記述はそれなりに面白かった。

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『熱風の虎』 [読書日記]

熱風の虎1 グループ・ゼロ

熱風の虎1 グループ・ゼロ

  • 出版社/メーカー: グループ・ゼロ
  • メディア: Kindle版
内容紹介
マシンを造るプロとしての限界に挑戦したい」。松平オートバイ工業社長・松平春信は、世界のモーター界のトップに躍り出るべく、レーシングチームを立ち上げる。集められたのは新進気鋭の70名のライダー。しかしメンバーになれるのはたったの3名! そのための選抜テストは、まさに「人殺し」といえる程に怖ろしいものだった! そしてライダーの一人が即死する大事故が起きてしまうのだが……松平社長はテストの続行を命令する! ──スピードを追求する男たちの極限状態を描く衝撃的な作品。

村上もとかさんと言えば、僕らの世代にとっての最大のヒット作品は『六三四の剣』、最近ならテレビドラマ化された『JIN-仁』の作者であるが、『六三四の剣』を少年サンデーで連載開始されたのは僕が高校生の頃で、それ以前は1976年に初めてF1日本グランプリが開催されたのに便乗する形で、『赤いペガサス』に代表されるカーレースものを書いておられた。調べてみたら『赤いペガサス』が少年サンデーで連載開始されたのは1977年ということだから、まさに僕らがスーパーカーブームからカーレースにハマって、子どもなのにAUTOSPORTとかを読んでいた時代だ。当時から既にメカの描写が細かく精密で、それが次の剣道作品にも生きてきていたと思う。

その村上もとかさんがカーレースものの前に書いておられたのが、少年ジャンプで連載された『熱風の虎』だった。僕が少年ジャンプを読み始めたのは1975年、中1の夏頃だったが、そのきっかけは池沢さとしさんの『サーキットの狼』で、既に同級生の一部には公道グランプリ時代からの熱烈なファンがいたけれど、僕自身が読み始めたのは流石島レースの直前ぐらいからである。そして、その頃同じ少年ジャンプで連載していたのが四輪ならぬ二輪のレースを扱った『熱風の虎』だった。

タイミング的に『サーキットの狼』で当てた少年ジャンプ編集部がバイクもので二匹目のドジョウを狙ったような作品だ。タイトルからして「狼」に対する「虎」で、明らかに『サーキットの狼』を意識している(但し、この作品の序盤は『虎のレーサー』という別のタイトルで連載されていたらしい)。僕が少年ジャンプを購読し始めた頃は既にこのシリーズの第3巻、主人公の大番虎一がジョー鳥飼中佐からの指令でサイドカーレース挑戦に向けたトレーニングを積んでいた時期で、そもそも『人造人間キカイダー』でその存在自体は認知していたサイドカーが、レースで使用されること、コーナリングの際のマシン操作が極めて難しいことなどは全然知らず、漫画を見て度肝を抜かれた。

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タグ:村上もとか
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『現代インド経済』 [インド]

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

  • 作者: 柳澤 悠
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2014/02/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
下からの経済発展の衝撃。インド経済の歴史的な成長を準備したものは、経済自由化でもIT産業でもない。植民地期の胎動から輸入代替工業化、「緑の革命」の再評価も視野に、今日の躍動の真の原動力を掴み出す。圧倒的な厚みをもつ下層・インフォーマル部門からの成長プロセスの全貌を捉え、インド経済の見方を一新する決定版。

最近、インドネタを取り上げることがめっきり少なくなった。最後に扱ったのはいつかと調べてみたら、なんと昨年10月だった。さらに振り返れば、インドの発展を扱った専門書・研究論文を紹介したのは2013年11月にまで遡らなければいけない。僕が人事異動で会社の中でも最も忙しいと言われる部署に異動になった直後のことだが、それ以降、インドとの関わりがほぼ完全に切れてしまった状態だ。その間に、インドでは政権交代も起こり、ここ2年ほどの間にインドをテーマにした書籍は相当出ているにも関わらず、この体たらくだ。

Facebookで友人になっているインド人からは、「次はいつ来るのだ」と事あるごとに訊かれる。ご丁寧に、「最近、こんなレポートを書いたよ」と向こうから情報提供してくれる友人もいる。でも、以前ネットワーク論の本の紹介の中でも述べた通り、この手のつながりは時間が経てば経つほど劣化するものである。Facebookで近況を相互に教え合える状況にあるならともかく、SNSをやっていない友人も多いので、どうやったらつながりを維持できるのか、本当に悩ましい。今の部署で仕事していて、インドに行く機会などほとんどあり得ない。だから、インドをテーマにした書籍は、読むのが空しくなる。そうして遠のくから、次に読もうと思った時にもなかなか頭に入って来ないという問題もある。

本書が出たのは2014年2月。僕が2013年11月に最後にインドをテーマにして読んだという学術論文は柳沢悠先生の著作群だったので、当然僕は柳沢先生の新著は早い段階から知っていて、いずれ読みたいと思っていた。しかも、この本は2014年度の国際開発研究大来賞を受賞している。いつか読まねばと思っていたけれど、近所の図書館にはなかなか入庫せず、なかなか読むチャンスが得られなかった。

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『東京劣化』 [読書日記]

東京劣化 (PHP新書)

東京劣化 (PHP新書)

  • 作者: 松谷 明彦
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
地方の集落の消滅を危惧する声が高まっているが、むしろ、地方よりも東京のほうがより急激な変化に見舞われると考えられる。東京の高齢化はすさまじい。2040年には、2010年に比べて高齢者が143.8万人増加する。その結果東京の貯蓄率は低下し、インフラが維持できず、都市がスラム化するおそれがある。多くの高齢者が家を失い、老人ホームも圧倒的に不足する…。ならばどうするか。欧州の事例も参考にしながら現実的な対応策を提案する。

少し前に別の記事でも述べたが、今月初旬、日本創成会議が東京の高齢者の地方移住促進を提言した。覚えておいでの方も多いと思うが、当時の記事を1つだけ紹介しておこう。
「老いる東京」集中是正探る 創成会議、地方移住を解決策に
2015年6月4日 日本経済新聞

 日本創成会議の提言は、急速な高齢化で医療や介護の体制が追いつかない「老いる東京」の姿を浮き彫りにした。東京圏に住む75歳以上の人は、今後10年間で175万人増える。現状では有効な対策を打ち出せておらず、創成会議は地方移住を有力な解決策に据えた。移住先の自治体からは歓迎する声が出る一方、東京都や神奈川県は反発している。
 創成会議によると、2025年までの介護需要は東京が38%増、神奈川48%増、千葉50%増、埼玉52%増と全国平均の32%増を上回る。ただ、全国的に見ると減少に転じた地域もあるため、移住を促して需給のミスマッチ解消を提言した。
 移住先に例示された自治体は総じて歓迎ムードだ。大分県別府市は「評価されたことは正直にうれしい。交流人口を増やし、別府を気に入ってくれた人に定住してもらう」(企画部)と語る。
 人口が年約3千人のペースで減少し「消滅可能性都市」にも挙げられた北海道函館市も「医療施設が充実し、介護面でも有料老人ホームなどには空きがある」(企画部)と歓迎する。
 一方、神奈川県の黒岩祐治知事は4日、「移住策には違和感を覚えざるを得ない」と不快感を示した。東京都の舛添要一知事も住み慣れた場所で暮らす重要性をかねて指摘している。高齢者が地方に流出すれば、経済の活力がそがれ、税収も減るとの危機感もある。
 移住者の医療・介護費を自治体間でどう分担するかも今後の課題だ。
 東京都の杉並区は静岡県南伊豆町と特別養護老人ホームの整備で提携した。「特養を区内につくり続けるのは財政的に限界がある」(田中良区長)と判断したためだ。
 両自治体は費用を転居前の自治体が負担する「住所地特例」制度を活用する予定だ。「移住する高齢者が今後さらに増えれば、小さな自治体の介護費用が将来的に重くなる」(南伊豆町の梅本和熙町長)ためだ。
 関東周辺のある市長は「子育て世帯に来てほしいのが本音で、シニア層だけ誘致するところがあるのか疑問」と語る。

この報道を耳にしたとき、最初に考えたのは、そういえば松谷明彦先生が最近出された本が東京の高齢化を取り上げておられたと思い出した。近所の図書館では順番待ちでなかなか読むことができず、そうこうするうちにこんな報道が出てしまったので、これはすぐに読んでおいた方が賢明だと考え、急遽購入し、すぐに読むことにした。

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『闇の歴史、後南朝』 [読書日記]

闇の歴史、後南朝  後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫)

闇の歴史、後南朝 後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 森 茂暁
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
60年におよぶ南北朝動乱。両朝合体後、皇位迭立を阻まれ、歴史の表舞台から姿を消した旧南朝の皇胤たちは、いかなる運命をたどったのか。陰謀に巻き込まれる者、再興の志を持つ者、さらに、三種の神器のひとつ、神璽を奪い去る事件をひきおこす者まで現れたのである。室町幕府の抱える矛盾や天皇家の闇を、少ない史料を丹念に集め実証。近・現代史にも影を落とすその歴史に光をあてる。新知見を盛り込んだ後南朝史の決定版。

久し振りに南北朝時代を描いた歴史書にハマっている。きっかけは先日ご紹介した亀田俊和『南朝の真実』を読んだからであるが、その中で、著者の亀田氏は、福岡大学の森茂暁教授を「南北朝研究の第一人者」と評価し、文中何度か森教授の著作からの引用を掲載していた。

僕自身も森教授の著作は何冊か読んでいる。最も古いのは1988年に書かれた『皇子たちの南北朝』(中公新書)だと思う。元々小学生時代に太平記を読んで日本史にハマったクチなのだが、NHKが大河ドラマで太平記を取り上げたのをきっかけに、南北朝時代にまつわる当時の既刊本を読み漁っていた中の1冊が『皇子たちの南北朝』だったのである。新書サイズだったので古文書からの引用は抑え目にして、とかくこの時代の歴史書では大きくフィーチャーされすぎる後醍醐天皇の背後に隠れ、歴史に翻弄された皇子達の生涯にスポットを当てたもので、この時代をひと通り説明していく本とは一線を画し、ある考え方の下でこの時代の断片を切り取り、1冊の本にまとめたという本だった。

南北朝時代を描いた歴史解説書といったら、このようにパターンがたいてい決まっているので、1冊あればあとは同じ時代をどのような視点で見ることができるかの勝負になってくる。その点で言うと、森教授の元々のご専門は南朝研究らしいが、南朝はそもそもが北朝あっての南朝なわけで、南朝史だけを描いても片手落ちとなることは否めない。また、南朝は吉野や賀名生を拠点としていろいろ物資が乏しい中で自らの存続自体が大きな課題でもあったので、日本国内への影響力も乏しく、外部向けに発出された文書が元々少ない。加えて幕府方から度々攻撃を受ける中で内部の文書もかなり消失しているようで、現存する文書が北朝方に比べて圧倒的に少ないのだという。それが、南北合一以降、元南朝の後亀山天皇系の皇胤が再び京を離脱して畿内南部に逼塞し、そこで室町幕府と朝廷に反旗を翻したのは、元々政務よりも北の朝廷の打倒が目的だったのだから、内部者の記した記録自体がほとんどない。そこで、教授が採用したのは、当時京で暮らしていた公家が私的に綴ってきた日記の読み込みである。

このため、本書は、後南朝の歴史といいつつも、これを読むと後南朝とは室町幕府と南北合一後の皇室・皇胤の混乱ぶりを投射する鏡のようなものであったのかなという印象を受ける。京都だけでなく、鎌倉府や播磨で幕府に反旗を翻す動きが描かれたり、南伊勢の北畠氏の動きが描かれたりして、いわば南北合一から応仁の乱あたりまでの室町時代中期の政治史全般が描かれているといってもいい。この時代だけで、室町幕府の将軍が数年間にわたって空位だった時期が2回もあったということは驚きだ。

僕自身は後南朝の予備知識としては伊勢の北畠一族の歴史を多少知っているが、北畠氏が南朝を助けたのは親房の孫の北畠満雅の代までで、その後は幕府との関係が180度変わったので、後南朝の時代は北畠氏との関係は弱まっていた。逆に言えば後南朝自体が僕自身にとってはフレッシュなテーマだったとも言え、へぇ~というエピソードも盛り込まれた興味深い1冊だった。

タイトルはちょっとセンセーショナルな感じで、いかにも月刊誌『ムー』の読者が好きそうなものだが、中身はいたって真面目で、古文書からの引用と訳文がふんだんに盛り込まれた専門的な本である。後南朝の動向を示す史料は少ないと著者は嘆くが、当時の公家がつけていた日記が今もこれだけ残っているのは驚きだし、著者の読み込み方もすごいと思った。

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『実用寸前のすごい技術』 [読書日記]

実用寸前のすごい技術 (青春文庫)

実用寸前のすごい技術 (青春文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 青春出版社
  • 発売日: 2015/05/09
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
念じただけで家電が動きだし、食べものは3Dプリンターでさっさと作れ、車は自動運転で安全に進む。宇宙飛行士でなくても気軽に宇宙を楽しめ、小さな「ロボット」が体内に入ってがん細胞を退治してくれる。―これら「すごい技術」の数々は、じつはすでに実用化目前なのだ。技術の進歩は想像をはるかに超えるところまで来ている。私たちの暮らしは、「すごい技術」によってどう変わるのか?

先週末、僕は文庫と新書のまとめ買いをした。分厚い専門書の紹介が多いこのブログではあるが、たまにはページ数も少なく、サクサク読める軽めの本も欲しいなと思い、最近新聞や書評ブログ等で紹介されて気になっていた本に、書店店頭で見た第一印象で気になった文庫本も加え、合計3000円分ぐらいをまとめて購入したのだ。本日ご紹介する本は、その第一弾。こういう本は自宅に蔵書として残しておいてもうちの子ども達が読んでくれそうだ。親の勝手な期待だが。

その中でも最も軽そうな1冊から紹介しよう―――。

3Dプリンターの可能性について論じられた本を以前読んだ時、最も印象に残ったのは、『スタートレック』でよく見かける、注文したら食べ物が出来上がって出て来るというシーンも、遠い未来のことかと思っていたら、それに近いことが近い将来にはできるようになっているんだという話だった。文系人間の僕にはあまり興味のなかったこととはいえ、今や研究も相当進んでいるらしく、どんな技術が実用化寸前まで来ているのか、僕があと30年ぐらい生きて生涯を終えるまでには実現しそうなのか、そんなのを一度棚卸してみたいなという気持ちにはなったりするが、どうやら、同じようなことを考えていた輩がけっこういたようだ。

中身を詳らかにするつもりはないが、せめて表紙につけられた帯に何が書かれているかぐらいは参考にご紹介してもいいかもしれない。

 ◆人間の臓器を再生する「医療用3Dプリンター」
 ◆オランダ政府やグーグルが支援する「人造肉ステーキ」
 ◆アマゾンが仕掛ける宅配革命、無人飛行機「ドローン」
 ◆山の中でもマグロやフグを養殖できる「不思議な水」
 ◆高度3万6000kmまで一気に昇る「宇宙エレベーター」

単に技術の項目だけ列挙しても、「透明マント」「電子タトゥー」「指輪デバイス」「野菜工場」「針なし注射器」「分子ロボット」「フードプリンター」「人造肉」「人工血液」「空中映像」「宇宙ホテル」「歯の再生」「ハイパーループ」「海水燃料」「ドローン」「好適環境水」「自動運転車」「宇宙エレベーター」「砂糖電池」「海流発電」「宇宙太陽光電池」「ミドリムシ」…等々。「燃料電池車」とか「ドローン」とか「介護ロボット」とかは、まあ比較的耳にしたことがある技術だが、それ以外は既にそこまで来ていたのかと驚かされる項目が多い。

面白そうですよね。一つ一つの技術に関する記述はせいぜい3~4ページだが、その中で誰が研究開発に取り組んでいるのか、メリットは何で、技術のデメリットは何か、あとどれくらいかかりそうなのかがひと通り述べられている。しかもイラスト挿入もかなりあるので、息抜きがてら軽く理解しておくには最適の文庫本といえる。面白いので軽めの1冊ということでおススメする。

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『都市は人類最高の発明である』 [仕事の小ネタ]

都市は人類最高の発明である

都市は人類最高の発明である

  • 作者: エドワード・グレイザー
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2012/09/24
  • メディア: 単行本
内容紹介
無秩序に広がる都市こそが、人類にとって最も必要なものなのだ!
都市が人類の進歩に果たしてきた役割を分析し、その重要性を明快に指摘する新しい都市論。
著者は、「健康面でも文化面でもインフラの効率面でも環境面でもきわめて優れていて、都市こそは人類最高の発明である」、「都市を高層化・高密化させて発展させることが人類の進歩につながるのであり、その足を引っ張るような現在の各種政策はやめるべきである」と主張する。

凄いタイトルの本である。原題は『Triumph of the City(都市の勝利)』となっているが、邦題はそれよりも凄い。

今から2年近く前にでたこの本のことを知ったのは、今年初めの『週刊東洋経済』の特集記事である。元々は今年前半のビジネス書ベストセラーと言ってもいいトマ・ピケティ著『21世紀の資本』を、現物を読まずに読んだ気になりたいと思って『週刊東洋経済』2015年1月31日号のピケティ特集を読もうと1冊購入したのだが、この号は第2特集として「ピケティで始める経済学」というのをやっていて、その中で「都市集中が本当に悪いか?」という問いに対する最新の経済学の言説を紹介していた。その論拠となっていたのがハーバード大学エドワード・グレイザー教授だった。

昨年の今頃は2040年までに896の地方市町村が消滅する可能性があると指摘したレポートを出していた日本創成会議が、最近また「東京圏高齢化危機回避戦略」なるものを発表し、東京圏では高齢者介護の能力が高齢者人口を吸収できなくなるから、地方で比較的余力のある市町村へ移住するべきだとする新たな提言を出し、メディアで大きく取り上げられていた。聞いていて高齢者をお荷物と見なすその発想にはなんだか釈然としないものを感じたのだが、グレイザー教授の著書は、それに対する貴重な反論の材料を提供してくれているように思う。

大都市に人口を寄せ集めた方が国の経済は活性化する。都市集中はむしろ、積極的に推進すべき「成長戦略」だとするのが、教授の論拠だ。集積のメリットは19世紀から既に言われてきたものだが、教授はそうした都市への集積の肯定論者である。

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『ささらさや』 [読書日記]

ささらさや (幻冬舎文庫)

ささらさや (幻冬舎文庫)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
事故で夫を失ったサヤは赤ん坊のユウ坊と佐佐良の街へ移住する。そこでは不思議な事件が次々に起こる。けれど、その度に亡き夫が他人の姿を借りて助けに来るのだ。そんなサヤに、義姉がユウ坊を養子にしたいと圧力をかけてくる。そしてユウ坊が誘拐された!ゴーストの夫とサヤが永遠の別れを迎えるまでの愛しく切ない日々。連作ミステリ小説。

4月に海外出張した際、機内で映画版を見て以来、気になっていた作品。ストーリーも良かったし、映像も良かった。周囲のお節介なおばさん連中とか、郵便局員とか駅員とか、突然の死で夫に先立たれて取り残されたさやとユウスケを取り巻く人々の温かさも心地よくて、いい街を描いていると思ったものだった。挿入曲となったコブクロの『トワイライト』も、そういう雰囲気にすごく合っていたと思う。

こと映画版に関しては、行きと帰りのフライトで合計二度見てしまった。

機会があれば原作も読んでみようとは思っていたが、優先的に読むべき書籍が幾つか残っていたこともあって、すぐにはそのチャンスに恵まれなかった。出張から戻って2ヶ月が過ぎ、ようやく今回読むことができたわけだが、映画と原作が共通しているのは大雑把なストーリーの部分だけで、死別した主人公は原作では落語家ではなかったし、原作では登場していた一軒奥の住人は映画では出てきた記憶がない。

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『プノンペンの奇跡』 [読書日記]

プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道革命

プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道革命

  • 作者: 鈴木康次郎・桑島京子
  • 出版社/メーカー: 佐伯印刷
  • 発売日: 2015/03/31
  • メディア: 単行本
内容紹介
1993年、カンボジアの首都プノンペン。内戦とその後の政情不安により国土も人心も荒廃し、水道事業においても施設は老朽化し、漏水、盗水、組織的不正が常態化していた。それからわずか15年、上水道は見事に整備され、100万都市に発展したプノンペン市民は、安全・安価な水の安定供給を等しく享受している。世界の水道関係者に『プノンペンの奇跡』と言わしめた改革はどのように進んでいったのか。エク・ソンチャン総裁をはじめとする水道公社職員と、JICA専門家らによる熱き闘いと交流の日々の記録。

JICA研究所が出している「プロジェクト・ヒストリー」というシリーズは、僕自身も知らない長年にわたるJICAの取組みがわかって毎回楽しく読ませていただいている。一方で、僕自身も仕事の関係上先に読んでおきたい参考文献もかなりあったため、3月末に出たシリーズ最新刊を読むのも、ちょっと後回しになってしまっていた。それに、3月末に同時に2冊が刊行されており、自分も土地勘があるバングラデシュの方を優先させてしまったので、カンボジアの首都プノンペンの水道公社を取り上げたこちらの方は、さらに時間がかかってしまった。

2冊同時だった上に、くしくも2冊とも「水」をテーマに取り上げている。しかし、バングラデシュの方は村落給水、しかもこれに、農村にまつわる様々な問題もついてまわる。方やカンボジアの方は都市給水で、和平合意後の復興プロセスの中で、1日わずかな時間しか供給されず、しかも汚水も交じって水質が極めて悪い水道事業の経営改善と施設整備、施設維持管理のための人材育成等が問題となっている。安全な水がいつでも負担可能な料金で入手できれば、乳幼児の下痢症疾患は減るだろうし、長年の摂取による砒素中毒のような症状も回避できるだろう。その意味で、水は健康問題とも密接につながっている。

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