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『Common Wealth』(その2) [持続可能な開発]

ブログ開設から10年半になりますが、この記事の掲載で、通算記事掲載数が3000件に達しました。よくやってると思います。その辺の感慨に浸る記事は取りあえず後回しにして、今回は淡々と読書日記をつけます。

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

  • 作者: ジェフリー・サックス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/24
  • メディア: 単行本
内容説明
 グローバル経済が着実に成長を続ける一方、自然環境の悪化や人口爆発によって、世界はますます過密になっている。このペースを放置すれば、開発途上諸国での水害や病気の蔓延、貧困の激化と政情不安を引き起こし、連鎖的に先進国の社会や経済も深刻なダメージを免れない。私たちにとって21世紀の課題は、それらの危険の有機的なつながりを正しく見定め、持続可能な開発をなしとげ、世界共通の富を保全することである。それは夢のような話ではない。これまでの古い対立構図を捨てて、国際協調のもと、先進国がわずかなコストを振り向けるだけで解決可能なのである。
 開発経済学の第一人者でありコロンビア大学地球研究所、国連ミレニアム・プロジェクトのリーダーを務めるサックスが、いま「なぜ世界全体のことを考えなくてはならないか」を明快な言葉と広範囲にわたる調査や分析に基づいて解説。また、達成すべきグローバル・ゴールとそこに至るステップを具体的に提示する。世界がもっとも注目する経済学者の話題作。
米国コロンビア大学地球研究所のジェフリー・サックス教授が2008年に書いた本の邦訳、長らく箪笥の肥しにしていたが、今月下旬に出かけた海外出張に携行し、なんとか読み切った。購入してから数年経過していて、まとまった休暇や出張があるたびにこれを機会に読もうと思うものの、他の本を先に読んでたら本書にたどり着けず、先送りにして今月に至っていた。それを今ようやく優先度マックスにしてとにかく読もうと考えたのは、7月末に横浜で開催された2日がかりの国際シンポジウムでサックス教授の基調講演を聴いたこともあるが、もっと大きいのは、教授が本書の中で示している「達成すべきグローバル・ゴール」が、9月下旬の国連サミットで、「持続可能な開発目標(SDGs)」として採択される見込みだからでもある。

勿論、SDGsと教授の提唱するゴールは形成過程は異なる。SDGsは政府間交渉を経て合意に至るものだが、その間にサックス教授と彼が議長を務める専門家ネットワークSDSN(Sustainable Development Solution Network)が発信してきたレポート類は数多く、SDSNはSDGsの枠組み形成に相当大きい影響を与えてきた。だから、「持続可能な開発」や「社会・経済・環境のトリプルボトムライン」等、これまでの教授の主張とSDGsは、横断的な原理原則の部分では大きくは違わない。教授がこれからの地球と人類が直面する課題をどのように捉えているのか、SDGsの検討開始以前から教授が述べていた論点に遡って見てみるのもまだまだ賞味期限切れとは思えない。だから今このテーマなのである。

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『宇喜多の捨て嫁』 [読書日記]

宇喜多の捨て嫁

宇喜多の捨て嫁

  • 作者: 木下 昌輝
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/27
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
娘の嫁ぎ先を攻め滅ぼすことも厭わず、下克上で成り上がる戦国大名・宇喜多直家。その真実の姿とは一体…。ピカレスク歴史小説の新旗手ここに誕生!! 第92回オール讀物新人賞受賞作。
木下昌輝作品は、今月中旬にご紹介した『決戦!大坂城』での真田幸村を描いた「日ノ本一の兵」に続いて二度目となる。今月は歴史小説も読んでみたわけだが、よくわかったのは、自分が土地勘のない地方や人物を舞台とする作品はちょっと読むのに苦労するということだった。戦国から安土桃山の時代の小説は今まで何冊も読んできたけれど、さすがに備前、美作の勢力配置図はよくわからない。しかも戦国時代にはありがちだが小さなエリアでもとにかく紛争が多く、しかも合従連衡、裏切り、寝返りの類が頻繁なので、何が何だかよくわからない。

羽柴秀吉・小寺官兵衛コンビによって平定される前の播磨も何が何だかよくわからない状況だったが、お隣の備前・美作もそんな感じだったようで、宇喜多直家が台頭して来る前はグチャグチャだった。宇喜多直家に関しては自分の娘の嫁ぎ先でも詭計をもって滅ぼしてしまうような人物で、秀吉・官兵衛ペアだけでなく西の毛利も手を焼いたと言われている。梟雄と一目置かれるようになるまでの直家を描いている本作品は、そうした意味では興味深いが、直家の調略のグロテスクさも際立っていて、難解だし途中で読むのを何度もやめたくなった。それでも最後まで読み切ったのはほとんど義務感だったが、これだけの梟雄の最後の安らかさを見ると、最後まで読んで良かったとも思える。

基本は短編集であり、その都度主人公は変わる。一貫して宇喜多直家は直接的間接的に登場するが、視点がその都度変わるし、かつ時間も前後するから、チャプターが変わるたびに話に入って行くには時間がかかる。それも読みにくさの一因にはなっていると思う。

今よりも日本の総人口が圧倒的に少なかったこの時代に、狭いエリアで領民を巻き込んでこんな勢力争いが繰り広げられていたというのは、今のように国民国家が形成された時代を生きている人間にはなかなか理解しづらい。それは戦国の世であれば播磨であろうと尾張であろうとどこであろうとさほど変わらない気がするが、なんでそうなっちゃったのかは一度何かで勉強してみないといつまでも理解できないでいることになってしまうかもしれない。勉強します。

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『民主化するイノベーションの時代』 [仕事の小ネタ]

民主化するイノベーションの時代

民主化するイノベーションの時代

  • 作者: エリック・フォン・ヒッペル
  • 出版社/メーカー: ファーストプレス
  • 発売日: 2005/12/09
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
イノベーションにはユーザーの知恵が組み込まれている! 3M、ネスレ、ゼロックスが採用する実践的技法「リード・ユーザー法」を紹介。ユーザー中心のイノベーションの重要性はますます高まっており、それはわれわれに重大な新しい機会と挑戦を突きつけている。多くの産業や企業は、それに適応していくための長期的ビジネスモデルへと根本的な変革を行わなければならない。
この本の読了はおよそ1カ月前の7月22日である。重要な会議に間に合わせるために飛ばし読みをしたので、ブログで紹介記事を書けるほど内容の吟味ができておらず、それが遅くなってしまった大きな原因である。今回紹介するにあたって、概論部分と各章の冒頭及び結論部分だけを改めて読み直してみた。二度読んだことで改めて理解が深まったところもあるし、感じ方が前回と同じだったところもある。

ここで言っている「重要な会議」では、オープン・イノベーションの議論を進めるに当たって、米国のシンクタンクから参加された方が案の定知的財産保護の問題を持ち出した。本書でいえばちょうど第6章「ユーザーは、なぜイノベーションを「無料公開」するのか」で論じられている箇所だが、このチャプターの標題が語る通り、各ユーザーが別々にイノベーションを起こしているような社会では、往々にしてユーザーは自らの成果を無料で公開している実態が指摘されている。その情報に関する知的財産権の一切がイノベータ―自身によって自発的に放棄され、関心のある者は誰でもそれにアクセスできるということだ。著者によれば、そうした情報は公共財になるのだという。

ここから連想されるのは、最近度々僕がブログでも言及しているファブラボ(デジタル市民工房)のユーザーが、ラボのマスターやデスクトップ工作機械の力を借りて製作したものは、そのデザインや仕様をウェブ上で公開するのが原則となっていることだ。市民ユーザーがラボで製作したものが抜本的な新たなテクノロジーを生み出しているわけではなく、言ってみれば低コストのイノベーションを起こしているに過ぎない。それを知財の観点から保護したところで、それによって得られるイノベーターの利得は大したものではない。むしろ、無料公開することで、先行したイノベーターとしての名声、評判を得ることができるかもしれない。また、仮にそうでなかったとしても、開発途上国の地方都市や農村の状況の中でラボが開設され、そこで草の根の発明家が社会問題を解決するために新たな製品を作り出したとしたら、そうした社会問題解決のためのイノベーションは、やはり公共財として広く共有されることが必要だともいえる。(勿論、それを完全コピーしてもそのイノベーションが育った特定地域の文脈というものがある筈なので、他地域で適用するには何らかのカスタマイズ措置が必要となるだろう。)

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『腐ったリンゴをどうするか?』 [仕事の小ネタ]

腐ったリンゴをどうするか?

腐ったリンゴをどうするか?

  • 作者: 釘原 直樹
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2015/06/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
会社は手抜きに満ちている。手抜きは伝染る。手抜き研究の第一人者による「サボッてばかりのあの人」の取扱説明書。
この本が発売された直後、新聞広告を見て衝動買いしてしまった。その頃僕はちょっとばかりくさっていて、こういうテーマにビビッと反応しやすい状況だったのだ。他の本を後回しにして、さっそく読み始めたものの、途中で読むのを止めてしまった。そのまま放ったらかしにしておくのも申し訳ないので、23日から出発した海外出張の往路に読み直すことにした。

タイトルや装丁だけからはもっと実用的なハウツー本だと想像されるかもしれないが、実はこの本はれっきとした研究書である。アカデミックに先行研究をレビューし、著者自身の研究成果も併せて紹介している。それも、どういう実験を行ったのかが意外と詳細に説明されていて、その結果がどうで、その結果から何が癒えそうかまで書かれている。この手の本は欧米の研究者の著書によく見られるものだが、日本人研究者の著書でこの手の本は珍しい。でも、ハードカバーで300頁ぐらいの専門書にすればよかったものを、ソフトカバーの200頁に抑えたことで、なんだか中途半端な内容になっている。実験結果が詳述されている割に、その実験は誰が実施し、どのような研究論文で書かれているのか言及されていない。巻末には参考文献リストがしっかりついているのに、そのうちどの文献が本文中のどの箇所で引用されているのかがわからないのである。

これではあまり丁寧な編集とはいえない。タイトルや装丁と中身とのギャップがかなり大きい本である。外見のとっつきやすさと比べると、内容がハードで、読みづらさが相当に大きい。

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『農山村は消滅しない』 [仕事の小ネタ]

農山村は消滅しない (岩波新書)

農山村は消滅しない (岩波新書)

  • 作者: 小田切 徳美
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 新書
内容紹介
増田レポートによるショックが地方を覆っている。地方はこのままいけば、消滅するのか? 否。どこよりも先に過疎化、超高齢化と切実に向き合ってきた農山村。311以降、社会のあり方を問い田園に向かう若者の動きとも合流し、この難問を突破しつつある。多くの事例を、現場をとことん歩いて回る研究者が丁寧に報告、レポートが意図した狙いを喝破する。
夏休み明けの最初の1冊は、これまた年明けに購入して以来放ったらかしにしていた1冊である。当時は新聞書評でも頻繁に取り上げられた1冊で、昨年夏に出た増田寛也著『地方消滅』(以後、「増田レポート」)への反論として注目された。増田レポートが今後急激な人口減で消滅の危機に瀕する「消滅可能性都市」が急増するという予測と、首都圏が強力な人口バキュームクリーナーになる事態を抑制する政策を提言し、地方都市の衰退制御を指向していたのに対し、農山村の切り捨て「農村たたみ」だと批判し、農山村の豊かな可能性を本書で論じている。

増田レポートという社会的にも非常にインパクトの大きかった人口動態予測と政策提言を批判的に論じることで、著者の長年の調査経験を披露し、読んでもらおうとする試みである。僕は増田レポートのベースとなっている人口動態予測が間違いだとは思ってない。でも、結論としての政策提言がやや地方都市にフォーカスし過ぎていて、その後背地である農山村に住んでいる住民の心境への配慮があまりないなという印象は確かにあった。だからといって、ここまで増田レポートを批判する必要があったのかどうかは疑問で、こうして社会的影響力のあった文献に対して執拗に反論を展開するような小判鮫的な論法ってどうなのかなという気はした。なんだかピケティの『21世紀の資本』が売れまくった今年前半に立て続けに出版されたピケティ関連本を見ているようだ。そういう手法で、本は売れるかもしれないが。

農山村の豊かな可能性をポジティブに捉えていて、未来に希望を抱かせる点では好感が持てる本である。特に、著者のフィールドである中国山地の農山村における先進的な取組みの分析をもとに、村おこしの取組みを、➀暮らしのものさしづくり、②暮らしの仕組みづくり、③カネとその循環づくり、という3つの要素の組み合わせだと整理し、全国各書の村おこし、まちおこしの取組みを見るための枠組みとして一般化している点は評価できる。ちょっと前に木下斉著『稼ぐまちが地方を変える』を紹介したが、この本は主には③の要素の重要性を指摘していたものだが、よくよく振り返ってみたら➀、②の要素も含まれていたようには思う。

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『2040年の新世界』 [仕事の小ネタ]



2040年の新世界: 3Dプリンタの衝撃

2040年の新世界: 3Dプリンタの衝撃

  • 作者: ホッド・リプソン、メルバ・カーマン
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
プラットフォームとしての3Dプリンタの衝撃。この機械、人類の敵か、味方か?フリー革命、メイカームーブメントの先に何がある?ビジネスと雇用はどう変わる?ものづくりの常識は一変。限界を超えて広がる可能性を描く。

購入してから半年、積読状態にしてあった未来予想の本。7月に仕事の関係のある会議で、本書の著者である慶應義塾大学の田中浩也先生にお目にかかる機会があり、その会議自体もものづくりの未来がテーマだったので、その予習にと思って読みはじめた。他に「オープン・イノベーション」に関する専門書を読んだりもしていたので、結局読了までに時間がかかり、半ば息切れ状態になりながら、この夏休み中に読了した。

時間がかかってしまった理由自体が僕自身の多忙になったのだが、その理由は33000字強の日本語論文の英訳。おそらく誰がやってもこの手の膨大な量の日本語の英訳には時間がかかったに違いない。この論文のテーマ自体がまさにこのものづくりの話で、誰が翻訳するにしてもあまり扱ったことのないテーマだから、英文だったらどういう表現にしたらいいのか参考にしたいと思い、原書であるHod Lipson and Melba Kurman, Fabricated: The New World of 3D Printingも電子書籍版で入手し、本書を読み進めながら気になった表現を英語ではどう表わしているのか、原書でチェックするという作業も時折入れていた。そんなことまでやってたから、時間がかかってしまったのだともいえる。肝心の英訳は夏休み前の11日に納品した。分量的に8万円ぐらいが相場だと思われる英訳を、ボランティアでやってしまったことになる。見返りは論文の冒頭脚注で、ちゃんと僕の名前をacknolwedgeしてもらうことである。

さて、原題にはなかった「2040年」を邦題でなぜ入れたのかは必ずしも定かではないが、確かに2040年頃までを見越した場合、今だったら荒唐無稽だと思うようなことも現実のものになっている可能性は確かにある。例えば、月や火星に基地を建設しようと思ったら、地球から大量の資材を運ぶのではなく、現地に存在する素材を焼結させるような3Dプリンターで現地調達に置き換えることだってできるようになるかもしれないし、建設現場であっても、そこで使われるような建設資材は輸送するのではなく、3Dプリンティングで現地作成するということだって行なわれているかもしれない。あるいは、「一家に1台、3Dプリンター」が当たり前になり、注文すれば料理ができてしまうというところまで到達しているかもしれないし、家で出るプラゴミ、ペットボトル等を自宅内で再加工して、古新聞・古雑誌を縛るようなビニールひもぐらいなら自宅で作れるとか、別の生活用品を作るとか、そんなことが当たり前にできるようになっているかもしれない。

最近読んだ英国のシンクタンクの未来予想レポートでは、3Dプリンティング技術は、大量生産による製造業を崩壊させかねない力を秘めていると書かれている。企業が最終製品を大量生産してそれを輸送するのに代わり、データのやり取りだけで生産自体は消費地に近いところに分散化されるようになると、従来の貿易構造は大きく変わり、貿易収支にも大きな影響が出るだろう。本書の著者によれば、第1に3Dプリンターは、用途や環境に対して最適化された形状の製品を作ることができる。第2に、いつでもプリントできるデザインファイルをデジタルな在庫として保管するのは、環境面でコストの高い倉庫いっぱいの実物の在庫を維持するよりも環境に優しい。第3に、いずれ3Dプリントによる分散型のものづくりで、企業は製品を顧客のそばでローカルに作れるようになると述べている(p.328)

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『武士道ジェネレーション』 [誉田哲也]

武士道ジェネレーション

武士道ジェネレーション

  • 作者: 誉田 哲也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/07/30
  • メディア: 単行本
内容紹介
剣道少女たちの「武士道」シリーズ、6年ぶりの最新刊。高校生活インターハイを描く『武士道エイティーン』のラストから2年。
 大学生になった二人だが、香織は剣道推薦で大学に進学。数々のタイトルを獲得し、ゆくゆくは警察官になろうと考えていたが、女性で助教になるのは難しい。教員になる道を考えるがいかんせん、頭がよくない。一方の早苗は、すっぱり剣道からは足を洗ったものの、日舞から剣道に転向しただけに、日本文化が大好きで、長谷田大学の文学部史学科で日本史を専攻する。だが、留学生との文化や歴史認識の違いから、早苗の中に、次第に外国人に対する苦手意識が芽生える。
 そんななか、桐谷道場の師範・桐谷玄明が倒れ、にわかに後継者問題が。本来次ぐべき、早苗の夫・充也。その「資格」があるのは彼ひとりだが、警官を辞めるなと玄明にきつく止められてしまう。道場が誰よりも好きな香織は、後継者としての資格を得るべく、充也から特訓を受けることになる。
 そこに、日本文化に興味津々のアメリカ人、ジェフが桐谷道場に入門してくる。母校で職員をしながら、道場で充也の手伝う早苗は、苦手な外国人との生活に戸惑いを隠せない。そして、早苗は道場の中学生、大野悠太のことでも気を揉んでいた。悠太は帰国子女の同級生・宮永創に地区大会でボロ負け、香織の教えである「武士道」についてもケチをつけられ、すっかり稽古をする気を失くしていた。
 話を聞いた香織は、悠太に特訓をつけるが、連日の稽古で疲労困憊の香織に、早苗は、堪らず香織を止めに入る。「……だったら、お前が悠太に稽古をつけてやれ」と言われ、渋々道着に袖を通す早苗。悠太は早苗との稽古、そして同時用を守ろうと必死に戦う香織の背中を見て次第に自信を取り戻していく。はたして、香織は道場を継ぐことができるか。そして、悠太は、宮永に勝つことができるのか。この勝負、如何に――。
譽田哲也の『武士道』シリーズは3部で完結だと思っていたので、6年ぶりに新作が出るというのには正直驚いた。譽田哲也がこの3部作を出していた当時は、小説で剣道が扱われるケースが相次いだ頃だったが、前回ご紹介の朝井リョウ『武道館』でもちょっと剣道が出てくるし、5月の世界剣道選手権東京大会をきっかけに、また波が来ているのかなという気もする。ましてや、譽田哲也は剣道をわかってて小説書いているので、シリーズ新刊というのに、矢も楯もたまらずKindle版を購入して、帰省先からの帰りの道中で一気に読んでしまった。

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タグ:剣道
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『武道館』 [朝井リョウ]

武道館

武道館

  • 作者: 朝井 リョウ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/04/24
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
本当に、私たちが幸せになることを望んでる?恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業…発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取りまく言葉たち。それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは―。「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編。
4月に発表になっていた朝井リョウ君の新作、人には「おススメ」だと散々吹聴しておきながら、実は未読でここまできていた。頻繁にコミセン図書室を利用していたら6月初旬には借りることができたかもしれないが、なにせ土日にコミセンを訪れること自体があまりできていなかったので、新着コーナーのチェックがずっとできないでいた。人気のありそうな本は、よほどタイミングが合わないと図書室で出会うことが難しい。たまに訪れても、返却されて新着コーナーの棚に陳列されていること自体が激レアなのである。加えて、その手の本を読んでいる余裕もなかったのも事実だ。

それが、たまたま夏休み前の週末、コミセン図書室を訪れたらたまたまそこにあった。これぞ神の思し召しとばかり、夏休み用の図書として真っ先に借りることにした。

『スペードの3』あたりから感じていたのだが、朝井君の扱うテーマにちょっとついていけないものを感じていた。芸能界を扱い始めたことに伴う違和感だったが、『スペードの3』がミュージカル女優とそのファンクラブの人々の話だったのに対し、今回の『武道館』は女性アイドルグループ。まあ自分が多少なりともこの類の女の子達に関して免疫ができたからだろうと思うけれど、前作に比べたら入っていきやすくなった気がする。『あまちゃん』のおかげかもしれないし、ももクロのおかげかもしれない。さらに言えば、ちょうど主人公と同年代で、5人組で、さらにボーカルにダンスを合わせるよりも曲にダンスを合わせているという意味では、『東京女子流』を連想させる。オジサンが言うセリフじゃないかもしれないが、『東京女子流』はなかなかいい!メンバーの年齢にバラつきがあるという点では東京女子流とはちょっと違うかもしれないが、今の女子アイドルユニットの中でのポジションや楽曲の特徴などを考えると、意外と東京女子流をモデルにしていたのかもしれないという気がする。

それともう1つ、『武道館』というタイトルから想起させるのは、僕にとっては剣道だったわけだけど、朝井君、その予想通りで、作品の中でうまく剣道を使っている。剣道が出てくるのは朝井作品では初めてのことで、さすがにあまり突っ込んだ描写はないけれど、同じ『武道館』でも、九段の日本武道館じゃなくて綾瀬の東京武道館の取材もちゃんと行ない、綾瀬駅から東京武道館までの歩道の描写もしっかり入れている。

以上の2点だけで、僕にとっては許容範囲の作品といえる。芸能界のドロドロとしたところまで描いたら読む気をなくしていたと思うけれど、アイドルを目指す女の子って結構普通っぽいんだなとむしろ感じ、読みやすい作品だった。確かに、普通の女の子にしてみれば当たり前のことが、アイドルであるが故に「普通」と見なされないという意味での苦悩はあると思う。それが本書の主題でしょう。

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『コ・イノベーション経営』 [仕事の小ネタ]

コ・イノベーション経営: 価値共創の未来に向けて

コ・イノベーション経営: 価値共創の未来に向けて

  • 作者: C・K・プラハラード、ベンカト・ラマスワミ
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2013/07/19
  • メディア: 単行本

この本を読んだのはもう2週間以上前のことで、これまでブログ更新している時間が十分取れなくて紹介していなかった。夏休み中でもあるため、今は新しい本を読みつつ、ブログで紹介していなかった本の紹介もできるだけまとめてやっていきたいと思っている。

故プラハラード教授の著書としては、『ネクスト・マーケット(Fortune at the Bottom of Pyramid)』が有名だが、『ネクスト・マーケット』が日本で売れたお陰で、それ以前に書かれていた教授の著書についても日本で紹介されるようになった。本日紹介する『コ・イノベーション経営』もそんな1冊。元々原書"The Future of Competition"では2004年、『ネクスト・マーケット』よりも先に発表されていたものである。

今なら「オープン・イノベーション」とか「ユーザー・イノベーション」といった言葉で当たり前のようになっている複数アクターによる協働と共創だが、発刊年が2004年だったことを考えると、トレンドを先取りしていた1冊だったといえる。それが、今になって日本で「オープン・イノベーション」「ユーザー・イノベーション」が脚光を浴びたこともあり、日本語版の発刊に至ったということなのだろう。

著者の論点を自分なりにまとめてみると、消費者と企業がいわば二人三脚で、消費者ごとに異なり、しかも企業にとっては持続性のある価値を共創しようという趨勢が強まってきていることに著者は注目している。言い換えればそれは「組織による価値創造に個人が積極的に関わる機会」であり、この組織は企業に限らず、政府、自治体、議会、病院、大学等も含めて、どのような組織であってもほぼ例外なく、組織と個人の影響力のバランスに変化が生じており、個人の影響力が強まっているという。企業の場合であれば、消費者が企業とその仕入れ先、事業パートナー、消費者コミュニティなどとともに価値を共創する傾向が強まり、その過程で消費者ごとに独自のパーソナル経験が培われていくのだという。これまでだったら、企業が価値を創造して、それを消費者に売るという発想が常識だったが、今はそうではないということだ。

考えてみよう。これまで僕ら消費者はあまり情報を持っていなかったが、インターネットの普及により情報を容易に得ることができるようになり、行動選択に際して自分で情報収集し、複数のオプションを比較考量して、最終的にそれを消費するかどうかを決めるようになった。受身の立場を捨てて積極的に情報を集めに行くようになってきており、しかもネットの口コミ情報のように、お互いに結びつくことで影響力を強めている。

このため著者は、発想の中心に一人ひとりの消費者を据えてはどうかと提唱する。あるいは、企業と経営者、マネージャーにとって最も重要なのは、全ての中心には個人がいるという事実を認識することだろうという。その個人が消費者、従業員、株主、仕入先等、どのような立場であってもかまわないが、いずれにしても個人を中心に据えて発想し、行動すべきだとする。

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『決戦!大坂城』 [読書日記]

決戦!大坂城

決戦!大坂城

  • 作者: 葉室麟、木下昌輝、富樫倫太郎、乾緑郎、天野純希、冲方丁、伊東潤
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/05/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
慶長20年5月(1615年6月)。秀吉が築きし天下の名城・大坂城―。いまここに、戦国最後の大合戦が始まろうとしていた。乱世に終止符を打つのか、敗北すなわち滅亡か…。いざ、戦国最終決戦へ! 7人の作家が参陣、競作シリーズ第2弾。

ほんと、この手の作品は休暇の時しか読めない。久方ぶりの歴史ものを、夏休み中はガンガン読んでいる。その第二弾は『決戦!関ヶ原』に続く競作シリーズの第二弾でもある。

僕は地元が関ヶ原に近いこともあって、関ヶ原の合戦の推移、両軍の戦力配置図等、だいたい頭に入っていて、その上で小説も読んでいるのでイメージがしやすい。それが土地勘の乏しい大坂城周辺で繰り広げられた「冬の陣」「夏の陣」になると、てんでストーリーの展開についていけてないのが悲しい。それでも挑戦しようと思ったのは、逆に小説を読む中で大坂城攻防戦についてある程度学ぶこともできるのではないかという期待があったからだ。その点ではこの作品に挑戦したのはよかったと思う。

競作において、各作家が取り上げた登場人物は以下の通りだ。
 
 「鳳凰記」(葉室麟)-淀殿
 「日ノ本一の兵」(木下昌輝)-真田信繁(幸村)
 「十万両を食う」(富樫倫太郎)-近江屋伊三郎
 「五霊戦鬼」(乾緑郎)-水野勝成
 「忠直の檻」(天野純希)-松平忠直
 「黄金児」(冲方丁)-豊臣秀頼
 「男が立たぬ」(伊東潤)-福島正守

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