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『出世する武士、しない武士』 [読書日記]

出世する武士、しない武士 (日経プレミアシリーズ)

出世する武士、しない武士 (日経プレミアシリーズ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
足軽の家から老中へ?―江戸時代は「能力主義の下剋上社会」だった!「引き上げてくれる人」の心をキャッチした柳沢吉保、上司に嫌われ閑職にやられた遠山金四郎景元、忠義を貫いて世論代表になった大石内蔵助など、武士たちの出世構造と処世術を読み解く。

新書サイズのこの本は、近所の図書室で別の新着書籍を借りる際に、新書だから気楽に読めそうだという理由から付け足しで借りたものである。今週はいろいろ思惑があって読む順番を入れ替えたりしたため、本書についても順番を繰り上げ、やはり息抜き的な位置づけで読んむことにした。

今年1年を振り返ってみると、意外と幕末から明治維新の頃について学ぶ機会が多かった。最大の理由はNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』を意外とよく見たというところにあるが、これに最近では同じNHKの朝ドラ『あさが来た』やテレ朝で放送中の『サムライ先生』も加わり、まあそれはそれは興味深くドラマを見させてもらうことができた。例えば本書の最終章で伊藤博文の生涯がかなりの紙面を割いて紹介されているが、松下村塾の塾生だった時代から明治にかけての彼の動きをこうして読んでみると、大河ドラマでの伊藤の描かれ方というのは意外と史実に忠実であったというのがよくわかった。

そうは言いつつも、この本は古くは徳川家康の旧武田軍掃討作戦に参加していた大久保彦左衛門から、伊藤博文に至るまで、実に30人もの人物を登場させている。その各々の生涯を6ページほどの紙面にコンパクトにまとめられているので、各々がどういう人だったのかをかいつまんで理解しておくにはちょうどいい本だと思う。とかく江戸時代というのは、戦国から安土桃山の時代までと比べると内戦や外国との戦争が少なく、鎖国政策の下で社会が安定化して面白味があまりなくて、僕自身にとってはあまり興味のない時代だった。従って、歴史上の登場人物といっても、高校の日本史の教科書に出てくるぐらいの人物の名前と業績ぐらいはなんとなくは知っているけれど、それ以上のことはあまり積極的に学ぼうという試みをしてこなかった。

例えば、田沼意次といったら「わいろ」を横行させた腹黒高官というイメージしか持っていなかったが、この人にはまったく別の評価もあり、それまでのコメ生産高に基づく各藩の歳入構造を、民間商業活動振興による税収増や官営事業の実施による事業収入の増加に切り替えていくきっかけを作った人だというポジティブな受け止め方もされている。(そこを透明にやらずに恣意的な課税を行っていたから、わいろがどうこうという話が出て来るのだ。)

また、柳生十兵衛とか遠山金四郎とか、実在の人物であることはあるけれども、僕らがテレビドラマで見て抱いているイメージと、実際の彼らの生涯とでは、大きな乖離があるらしいというのもこの本を読むとよくわかった。また、遠山の金さんっていつの時代の人なんだろうかと、ドラマをそうそう頻繁に見てなくて誰が登場してたのかもよく覚えていない僕らのいい加減な知識ではよくわからなかったが、なんとなんと、結構江戸時代末期に近い、天保の改革の頃の名奉行だったのだと初めて知った。

何よりも強調しておきたいのは、この本、江戸時代の経済や社会の歴史を俯瞰できてけっこう有用かもしれないという点である。また、官僚制度の変遷を理解できる1冊でもあると思う。元禄期をバブル経済絶頂期と捉え、その後幕府、各藩ともに財政が悪化し、そこで様々な取組みが行われるものの、改革はなかなかうまくいかず、しまいには既存の社会制度を完全に破壊して新しい社会制度を構築しようとする明治維新につながっていくという流れになっている。著者本人は明示的には述べていないけれど、こうして振り返ると、既成勢力の抵抗をなかなか打破できず、既存の政治や社会の枠組みを根本的に変えるような動きにつながっていない今の政府の改革姿勢や、それを許してしまっている日本の社会の受け止め方そのものが、著者から見ればまだまだ生ぬるく、小手先の改革では日本経済、日本社会を再浮揚させることなど難しいと考えておられるのではないかという気がする。

意外と面白い着想の1冊である。息抜きとして読むには最適だろう。

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