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『ニュータウンは黄昏れて』 [読書日記]

ニュータウンは黄昏れて (新潮文庫)

ニュータウンは黄昏れて (新潮文庫)

  • 作者: 垣谷 美雨
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫
内容紹介
バブル崩壊前夜に買ってしまった分譲団地。20年近く経つ今もローンを抱え、織部頼子は節約に必死だ。その上、理事会では我儘なジジババに振り回される日々。一方、娘の琴里は27歳フリーター。ある日、幼馴染の三紀子にイケメン資産家の彼氏を紹介される。が、彼女は失踪、いつしか琴里が彼と婚約することに。織部家、まさかの人生大逆転?!一気読み必至の傑作「社会派エンタメ」誕生。

垣谷さんというのは多作ではないから、今まで僕が読んだ作品というのも1冊しかない。『七十歳死亡法案、可決』がその唯一の作品だが、印象を言うと、序盤の登場人物の置かれた境遇、その場その場の感情の描写に相当な字数を費やす作風で、話が急展開を迎えるまでの出口の見えない閉塞感で、序盤集中して読むのが難しい作家だという印象を受けた。

同じ印象は『ニュータウンは黄昏れて』でも抱いた。主題は分譲マンションの建替え問題であるが、それがどのようなファイナンスの仕方なら可能なのか、口八丁手八丁のデベロッパー側と、高齢者揃いのマンション住民側とで「あーでもない、こーでもない」のやり取りが繰り返される。特にマンション管理組合の毎回の話し合いのシーンがやたらと細かい。それが主にはお年寄りの住民の間で延々と繰り広げられるものだから、途中からイライラしてくる。

娘の方も、爪に火をともすような苦しい生活を強いられているが、その、1円でも節約しようとする涙ぐましい努力と常に頭の中で繰り広げられるそろばん勘定のシーンが多く。今どきの国内貧困層の置かれた状況の描写としては適切で、読者に考えさせるという意味での効果はあると思うが、やたら長いと飽きも来る。

作品序盤から中盤にかけての長い閉塞感をなんとかやり過ごせれば、中盤から読むペースも上がり、急展開を見せる中盤以降は一気に読み切れる。大どんでん返しを請うご期待。

単なるエンターテインメント小説というよりも、よく構想を練られた人物配置だと思うし、読めば不動産について学べることが多い作品である。言うまでもなく、著者は、入居開始から30年が経過したニュータウンの現状について問題提起や風刺をしようとする意図を持ってこの作品を描いたと思われるので、コミカルな要素があるとはいえ、かなり真面目な作品だ。

ただ、以前読んだ垣谷作品でも感じたことだが、話が急展開して閉塞感は打破され、わりとハッピーなエンディングを迎えるというのはいいにせよ、展開の仕方にリアリティがない。マンションの建替え問題とかストーカー被害とかは国内では相当な事案件数がある筈だが、毎回こんなに都合がいい展開になることなどあり得ないと思うし、幼馴染みの3人が、相互間で起きたストーカー男の押し付け合いの挙句に、ロンドンの高級住宅街で再会を果たすなんて、どうあったって考えにくい設定だ。

結局のところ、日頃閉塞感を味わっているような読者が、一時それを忘れて、少しだけハッピーな気分になりたいと思った場合にはこの本は面白いかもしれない。

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