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『シルクロードの滑走路』 [黒木亮]

シルクロードの滑走路

シルクロードの滑走路

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/06/10
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
中央アジア最深部、キルギスタンの首都ビシュケクは、氷河を頂く天山山脈の麓の知られざる国際都市。総合商社のモスクワ駐在員、小川智は旅客機2機を仲介するため交渉を開始する。テーブルの向こうでは、でっぷり太ったキルギスの運輸大臣が、黒縁眼鏡の奥に小狡そうな目を眠たげに開いていた。現地には、政治と戦争に翻弄された朝鮮人やドイツ人たちが暮らす。しかし、自分のすぐそばに、民族の運命を背負う別の男がいることを小川は知らなかった。ユーラシアの彩り豊かな四季の中、航空機ファイナンスは進行して行く。航空機ファイナンスで知る中央アジアの真実。
『アジアの隼』、『トップ・レフト』、『冬の喝采』に続いて4冊目の黒木亮作品挑戦である。ブログで紹介するのは『アジアの隼』を除く3作品目だが、本作品の内容的には『アジアの隼』との比較で述べてみたいと思う。『アジアの隼』の紹介も兼ねて…。

『アジアの隼』では、東南アジアで経済発展が著しいベトナムの発電IPP案件のプロジェクトファイナンスを巡る金融ブローカー、金融マン、商社マン、メーカー等が入り乱れての群像活劇が描かれていた。交渉などのシーンはとてもリアルで、その業界に身を置いたことがある人間にしか描くことができないものだった。また、ベトナムといえばアジアの貧困削減のショーケースとして日本政府や援助機関による力の入れ方が他国と比べて明らかに違う国であるが、『アジアの隼』では、そうした華々しい経済開発の裏の実態、即ち政府の汚職・頽廃にも切り込んでいる。

『シルクロードの滑走路』は、中央アジアのキルギス共和国を舞台とした航空機ファイナンスの話だ。旧ソ連圏で共産主義の影響が色濃く残っている国の1つで、市場経済化の中で資本主義的な取引(ディール)を初めて経験するような政府関係者を相手にした商社マンの葛藤の姿が描かれている。320頁ほどの大作であるが、一気に読める。

旧共産圏の国々における交渉がいかに困難を極めるか、口で「市場経済化」を唱えるのは簡単だが、人々の行動様式を180度変えるような改革は実際に進めるのは非常に難しい。日本にいると当たり前のことが、旧共産圏に行くと当たり前でない。本書の主人公であるモスクワ駐在の32歳の商社マンも、常識が通用しない契約交渉、自分の権限に忠実でリスクを犯した越権行為を極度に回避したがる性向、いったん合意していても土壇場でおねだりを繰り返す政府高官、「袖の下」を求めているのがミエミエの政治家等等、様々な困難を経験する。言わば、この交渉の記録自体が、旧共産圏を相手にしたビジネスの事例の宝庫としての本書の売りではないかと思う。

細かいところを言えば、契約書の条文改訂を運輸大臣と法務担当部長に承諾させる為に失脚を余儀なくされたキルギス運輸省顧問の消息とか、本場フランスにも匹敵するようなキルギス産ブランデーとか、物語の中盤から終盤にかけて散りばめられていた伏線が、殆ど意味をなさなかったストーリーの展開の仕方の粗さなど、ちょっと気になるところであった。

最大の驚きは、中央アジアの国々の中では比較的優等生と見られてきたキルギスでも、政府高官のマインドはこの程度なのかという点である。汚職が横行しているというのは正直かなりショックだった。でも、本書が発表される前にアカエフ大統領は失脚し、その後の大統領選挙でバキエフ元首相が大統領に当選した。しかし、本書にも書かれていた通り、元々は清廉潔白と見られていた前大統領も、いつの間にか個人資産を600億円も保有(キルギス国家予算は450億円程度!)していることから見ても、バキエフ大統領がいつ腐敗化するとも限らない。そういう難しさがある国なのだ。

途上国の開発問題に取り組んでいる者にとって、行ったことも聞いたこともない国についてイメージを固めるためには、そうした国々を舞台にしたビジネス小説を読むのは結構楽しめる方法ではないかと思う。『アジアの隼』も『シルクロードの滑走路』もそれぞれベトナムとキルギス、及び旧共産圏におけるビジネス環境をうまく描いており、お奨めの作品である。(個人的には『アジアの隼』の方が面白いと感じたが。)

外務省のキルギス共和国紹介ページへはこちらから。

ついでに『アジアの隼』も紹介しておきます。
アジアの隼

アジアの隼

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
新興国市場として急成長を続けるアジア市場。90年代半ば、邦銀でアジアを担当していた真理戸潤は、ドイモイ政策で外国投資ブームに沸くベトナムの事務所開設を託されハノイに赴任した。一方、アジア市場で急成長を遂げ、勇名を轟かせる香港の新興証券会社があった。その名は「ペレグリン(隼)」。同社の債券部長アンドレ・リーは、アジアの王座への野心を胸に、インドネシアのスハルト・ファミリーに近づいて行く。賄賂が横行する共産主義体制下で、事務所開設に四苦八苦を続ける真理戸は、邂逅した日系商社マンから、ベトナムの巨大発電所建設のファイナンスを持ちかけられた。約6億ドルのビッグ・ディール落札を目指し、熾烈な闘いを繰り広げる各国の企業連合。真理戸と日系商社の前に、アジア・ビジネスの暗部を渡り歩く大手米銀のシンが立ちはだかった…。やがて迫り来るタイ・バーツ暴落と通貨危機。その時市場では何が起こったのか?そして三人の東洋人のディールの行方は。

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yukikaze

「シルクロードの滑走路」は面白そうですね。一度、図書館で探してみようと思います。
by yukikaze (2009-03-20 15:43) 

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