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この母子を救いたい(2) [インド]

このブログでインド・西ベンガル州に住むアフルーザ・ビビさんのことを紹介してから1週間が経過した。その間、僕はジャダブプール大学のディパンカール・チャクラボルティ教授にメールを送り、取りあえずアフルーザ母子の生活保護のための補助は個人的にはする意思があるので、月々の手渡しをやってくれる信頼できる現地のNGOでもあったら紹介してほしいと伝えた。
*関連記事はこちらから。⇒http://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2011-01-05

1月12日にチャクラボルティ教授から届いたメールには次のように書かれていた。
Sanchai君(仮名)

 バングラデシュにいたので返事ができず申し訳ない。
 君が砒素問題についてそのように感じてくれていることを感謝し、そして理解もしている。
 私の方でもこの件には手を打ち、村の深井戸設置作業が進んだ。アフルーザ・ビビにも連絡し、息子さんが18歳になるまで、私が子供の養育にかかる費用を全額負担すると伝えた。Sanchai君、今、何千人もの人が同じ問題で苦しんでいる。外国からの金銭的援助では問題解決することはできないと思う。世界中の国がインドに対し、砒素やフッ素、その他地下水汚染物質の問題を無視し続けていることについて圧力をかけていくべきなのだ。現時点で、我々は地下水中にさらに多くの種類の有害物質が含まれていることを発見している。私は、ガンジス・メグナ・ブラマプトラ流域の水不足が問題なのではなく、そうした水をいかに管理していくのかが問題なのだと理解している。加えて、教育と啓発活動を村々で行なうことが、砒素やその他同様の汚染問題と取り組むには必要だ。
 最後になるが、現在インドの最大の資源はその人口だと私は信じている。もしこの人口が適切な教育を受け、砒素のような問題の解決に向けて努力し一緒に取り組んでいけば、援助機関からの助けを求めるような必要はないと思う。

ディパンカール
なんだか肩透かしを喰らった気分。問題だった深井戸の設置も、西ベンガル州砒素問題タスクの委員長に訴えて解決してしまったようだし、アフルーザ母子に対する支援も、教授のポケットマネーで決まってしまっている。ただ、何か割り切れないものが残る。教授は「今、何千人もの人が同じ問題で苦しんでいる」と言う。アフルーザ母子を助けるだけでは、他の何千もの人々は救えないと彼は言いたかったのだろう。だからこそ思う。アフルーザ母子を助けるのが教授自身のやるべきことだったのかと…。

ただ、元々シニカルな言い方の中で本当に意図するところがわかりにくい表現をよく用いる教授からのメールの中から、そこに込められた僕達外国人に対する彼の真のメッセージが何かを考えてみると、「世界中の国がインドに対し、砒素やフッ素、その他地下水汚染物質の問題を無視し続けていることについて圧力をかけていくべき」というところなのかなとも思う。確かに、インド政府が汚染地下水問題について積極的に取り組んでいるという話など聞いたことはない。砒素やフッ素に汚染された地下水を飲んで健康被害に遭ったという住民の話について情報発信しているのはいつもマスコミやNGOの側であった。インド政府も州政府も情報を隠蔽しているとまでは言わないが、問題を問題として認識するに至っていないのではないかという気はする。

汚染地下水による健康被害は貧困とも密接に関連している。井戸水が危ないと思ったら、高所得者だったら濾過水(フィルター・ウォーター)を買えばいいし、性能のいい浄水器を買うこともできる。政治家や地方の役人と近ければ、最優先で深井戸を掘ってもらうよう働き掛けることだってできるし、浄水場を近くに誘致することだってできるかもしれない。そうやって高所得者は自宅に近い場所で安全な水にアクセスできるかもしれないが、低所得者は社会階層が低かったりもして、高所得者と同じ深井戸に平等にはアクセスしづらい。

もっと言えば、普段から栄養摂取をきちんと行なっていれば、汚染地下水への耐性も高いと言われている。肉を食べて蛋白質を摂取している人は、肉が食べられない人に比べて砒素への耐性が高いのではないかという研究結果もある(バングラデシュでの調査なので、高カーストにベジタリアンが多い北インドにそれが該当するのかという問題はあるが)。万が一中毒症状が出て来ても、高所得者ならちゃんとした病院で治療も受ける費用も負担できるだろう。

汚染地下水を飲み続けなければいけないリスクも、飲み続けて健康を害するリスクも、貧しければ貧しいほど高くなるのである。

そうした実態を、政府はどこまで認識しているのだろうか。政治家や役人が村に行くパフォーマンスはよく見られる話だが、村を訪れて最初に会う人は誰かというと、その村の権力者・有力者である。村でも比較的生活が豊かな家庭を訪れて村の問題点を聞き出そうにも、そういう世帯の人々が村全体の生活実態を踏まえて発言できるとは限らない。そういう有力者が呼びかけて集会を開いても、いちばん生活が厳しい人々の声は小さく、なかなか外部者の耳に届かない。

だからこそ、外部者ながら村々を回り、地下水の汚染状態と住民の健康被害の実態をつかんでいる「現場主義」の研究者の声には耳を傾けるべきなのだ。チャクラボルティ教授はそういう人なのだが、反政府的な物言いが忌避されていて、伝えたいことに耳を傾けてもらえていないというのが現状だ。だから彼は、政府もしっかり問題に対して目を向けさせるためには、外国からの圧力も必要だと言っているのだろう。

僕ごときが個人のキャパシティでできることなど限られているかもしれないが、彼が時々発信してくる情報を、ブログのようなメディアに乗せて、日本語に置き換えて発信し、多くの読者に知ってもらうことは、僕にもできることなのではないかと今は考えている。今後も汚染地下水問題での情報を僕にも伝え続けて下さい―――そうチャクラボルティ教授にはお願いすることにしたい。
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