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『海の帝国』再読 [読書日記]

海の帝国―アジアをどう考えるか (中公新書)

海の帝国―アジアをどう考えるか (中公新書)

  • 作者: 白石 隆
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 新書

本書を初めて読んでからまだ日も浅く、ブログでも一度ご紹介しているが、その後職場の読書会で本書を取り上げてもらうことになり、僕が報告を行なったので、その時に使ったレジメをご紹介しておきたい。本当は章建てにのっとって各章毎に要約をつけたかったのだが、そういう纏め方が難しい本だったので、特に第二次世界大戦以前の記述については、章建てをかなり無視して自分なりの解釈でレジメの項目を建てることにした。

著者の問題意識 
1)アジアを文明、風土といったなんらかの安定的な構造としてではなく、歴史的に生成、発展、成熟、崩壊するひとつの地域システムとして捉える。
2)地域システムとしてのアジアの成り立ち、そこにおける日本の位置を、普通われわれが行うよりももっと長い時間の幅で考えてみる。

1.ラッフルズの「新帝国」構想(1810年頃)
◆マラッカ海峡からモルッカ諸島にいたる東インドの海域における英国主導の地域秩序の構築(「非公式」の帝国)を構想。領土支配を目的としない「海の帝国」―自由貿易帝国。
◆いずれも小国でとても独立国家としてはやっていけない。「これら国々を構成する部族は、慣習、習俗、宗教、言語において大いに異なり、文明の水準においても大きく違っている…」
構想の2つの柱:①伝統的権威(大王)によって英国の宗主権を基礎づける、②東インドの島々に「一連の根拠地を設立し、これを結ぶ線から英国の力を投射。
◆「中国人」を警戒。18世紀から19世紀はじめに「東インド貿易」を支えていたのはブギス人ネットワーク。
◆「まんだら」システム―東南アジアは歴史的に港市や人口の集住地があちらこちらにあって中心となる「多中心」の地域。そうした港市、人口の集住地にカリスマ的な「力」をもつ人物が現れ、これが「王」になって「国」を建て、そうした「王」の中から並外れた「力」をもつ者が現れて「大王」として「王」たちに号令をかけるようになる。「国境」はなく「中心」によって定義。システムを支える大王と王、王と家臣の関係は、親族、婚姻関係などの社会組織に埋め込まれていた。その支配下の住民をトータルに体系的に掌握する思想も能力もなく、「支配の機構、装置」としての近代国家とはまったく別物。
◆ラッフルズの構想は、ブギス人に海のまんだらを作らせることで自由貿易帝国を建設すること。しかし、ジャワがオランダに返還され、マカッサル、リオウなどがオランダの支配下に置かれたことで、ブギス人は海のまんだらを作る力を失い、「海賊」と化していった。

2.英国の自由貿易帝国 (1820~60年頃) *英領マラヤ、シンガポール
◆英国の力は、カルカッタからペナン、シンガポールを経由して香港、上海に至るラインから投射。「新帝国」は東インドにではなく、東アジアに建設。
◆マラッカではなくシンガポールを中心に自由貿易帝国が構築された。1850~60年代に周辺地域で起きた王国秩序の崩壊と内戦で海峡植民地の治安が脅かされたのを期に、海峡植民地政府はマレー王国に介入し、「非公式」な自由貿易帝国は、やがて「公式」帝国に転換。
◆「支配の機構、装置」としての近代国家が外部から持ち込まれる。法律、地図、住民台帳、土地台帳、貿易統計などの新しい「技術」により支配下の領域と住民をトータルに捕捉。支配領域は国境により定義、域内では国家の力が均質に行使される。
◆財源は華僑ネットワーク依存←新帝国を賄ったのはアヘン請負収入。胡椒・ガンビル農園で働く中国人苦力にアヘンを販売。
◆海峡植民地は英国にとってはマージナルな意味しかなく、植民地政府は東インド会社に大きな財政負担をかけない限り、かなり好きにやれた。

3.オランダの東インド国家経営 (1810年代半ば~) *インドネシア 
◆オランダの繁栄と威信はジャワにかかっており、ジャワ植民地経営の問題はオランダ政治における一大争点。
◆ジャワを儲かる場所にする必要性から、ジャワを一大国営農場に転換し、農民を強制して熱帯農産物の生産を行わせる(砂糖、インディゴ、タバコ等の強制栽培制度と貿易独占の組合せ)方式を選択。オランダ人官僚が頂点を占める強力な国家機構を形成。

4.スペイン支配下のフィリピン (16世紀半ば~19世紀末)
◆英国によるマニラ占領(1762-64)、メキシコ独立(1821)を経て、フィリピンを儲かる場所にする必要性。
◆カトリック教会の抵抗や中国人のメスティーソ化が国家機構の整備拡充を妨げる。
◆マニラ開港(1834)-フィリピン経済を英国人地方承認、彼らと同盟した中国人商人に開放して、関税収入の形でフィリピン国家が恩恵にあずかる。中国人追放令により一時地方の経済活動から撤退していた中国人は再び地方商業に進出し、メスティーソは地方商業から高利貸し、地主、輸出向け商品作物生産に転じた。
◆中国人メスティーソの大土地所有者の中からフィリピン人エリートが登場し、19世紀末のスペイン支配挑戦へと繋がる。

5.「民族」の形成
◆近代国家が自らの支配下にある全ての住民を数え上げ、分類する「人口調査」を行う中で、民族的カテゴリーを土台に社会地図が形成されるようになり、元々空っぽだった民族的カテゴリーが次第に切実な意味を帯びてくる。
◆民族的カテゴリーが意味を持ち始めたことで、新しい政治が生まれた。①「数の政治」《多数派-少数派》、華僑問題の発生、②「アイデンティティの政治」、カテゴリーとしての「メスティーソ」の消滅。

6.植民地支配の成立(1870~1890年代)と「文明化」のプロジェクト(20世紀初頭)
国境線による支配地域の明確な分割-仕切られたそれぞれの領域内で、国家は中央から地方へ、その力を浸透。インフラ整備。一次産品輸出経済の形成。
◆複合社会の形成とそこでの白人社会の成長-言語、文化、宗教、思想、習慣などにおいて各々異なるコミュニティが、並存すれども交わらず、市場で出会うほか、いかなる共通の社会医師も持たない社会(複合社会)。東南アジアでは、複合社会が人種原理によりヒエラルキー的に編成され、白人が頂点、原住民が底辺を占め、その間に中国人、アラブ人、インド人など「東洋外国人」が位置する構造となった。
◆リヴァイアサン自体の成長-何か「前近代的」で「不透明」で「腐敗」したものがあれば、「改革」されなければならない。原住民エリートの教育促進や行政改革、秘密結社の取締り強化等。新しい世界における秩序の創出の必要性が、「文明化」の取組みへ。
◆ナショナリズムの誕生-文明化プロジェクトの結果、「近代的な政治」(集会、新聞、政党、ストライキ等)が1910年頃から生まれ、外から異物として移植されたリヴァイアサンを、「われわれの」国家なのだから「われわれ」国民に「回復」しようとする独立運動に発展した。
◆論理的帰結としての警察国家

7.戦後の新しい地域秩序 (1940年代~)
◆米国から見た戦後の地域の課題
  ①国際共産主義の脅威への対処、
  ②日本を経済的に復興させて米国の同盟国として独立させる。
◆日本がアジアにおける米国に非公式帝国建設の戦略拠点に(日本の中心性)→「アジアの工場」、「アジアの兵站基地」、中国に代わって東南アジアが日本に原料輸出、日本から製品輸入を引き受け、日本の経済復興と東南アジアの経済開発を同時達成。
◆領域支配を必要としない秩序、形式的な主権国家システムと矛盾しない非公式帝国秩序。
◆日本の「総合的経済協力」-1950~70年代の輸出振興・資源調達目的から、1980年代末までには、東南アジアの経済発展それ自体が目的に。雁行形態の地域的な経済発展により、東アジア、東南アジアを合わせた広い意味での「東アジア」が初めて意味のある地域概念になる。アジアの政治的安定と経済的発展はそれ自体、日本の利益。
◆アジアのレスポンス-多くの国々が独立。国民国家としての正当性を示す必要性。→①社会主義的国家建設・経済建設、②「上からの国民国家建設」(米国主導のアジア地域システムに先ず統合された国々で、権威主義的な国家建設・経済建設を目指す。)
◆米国の開発主義プロジェクト
  ①「開発イデオロギー」-低開発国が国際共産主義運動と対決し、国内の暴力革命を回避するには、
   経済開発を軸とする内部からの社会変革が不可欠。低開発国の指導者が自ら開発計画の遂行に
   イニシアチブを取ることを重視。開発に向けてあらゆる階層を糾合する国民的な努力と、経済政策に
   おける政府の主導性、上からの開発を強調。
  ②「アメリカ化」プロジェクト-教育によって自分たちと言語を共有し、自分たちと同じようにものを考える
   人を養成し、国家機構の中に埋め込む。

8.上からの国民国家建設(戦後の東南アジア諸国) 
◆国民国家建設の実績には国によって大きな違いがある。
◆分析視点
  ①「権力集中」の問題-権力の集中によって公的利益を体現する強力で有能な国家を建設しなければ
   ならない。
  ②「権力拡大」の問題-政府が上からの国家建設に成功し、経済が発展し、所得水準が上がり、教育が
   拡大すれば、いずれ国民は政治参加を求めるようになる。(都市中産階級の台頭による開発独裁の「溶
   解」、権威主義的体制から民主主義体制への移行)この過程で、国家は社会にさらに埋め込まれ、国民
   の国家としてその権威を確立することができるか?
◆タイ-開発体制の時代の権力集中から権力共有、政党政治の時代の権力拡大へと進展。
  官僚国家-国家を国民国家たらしめる国民が不在→「王、宗教、民族」の国体イデオロギーにその存在
   根拠を求めた→王と王制が国家の正当性シンボルに。その下での国政は国家機構自体を権力基盤と
   する軍人、官僚により壟断。
  国民国家への変貌-経済発展の過程で新しい都市中産階級が成長、教育の拡大により1970年代に
   入って国政へ参加「民主化」を求める人々が現れるようになる。
◆インドネシア-官僚国家がスハルト独裁に変質し、経済危機のさなかに崩壊して国家それ自体が深刻な危機に。
  オランダ植民地支配からの独立運動の中で国民が誕生。政党に社会的支持基盤を提供。官僚国家再建
   には政党勢力を上から動員解除する必要→ショック療法実施。
  スハルトの安定と開発の政治-政治の安定→経済の開発→国民生活の向上→さらなる政治の安定。
   国軍を屋台骨に強力な国家機構を編成する。
  スハルト変質(1980年代末頃~)、「制度壊し」→権力の分散への揺り戻し。
◆フィリピン-権力集中の試みは破綻し、権力の分散の制度化進む。
  官僚国家とならなかった経緯←宗主国スペインの弱体、米国の議会統治の伝統。
  地方に親分子分関係のネットワーク形成。権力が地方に分散し、地方の利害を代表する議員が議会に
   依って中央の財政を食い物にするシステム。
  マルコス政権-マルコスを頂点とする親分子分関係の全国一大ネットワークが形式的な国家機構の
   強化、中央集権化の下でつくられたに過ぎない。

9.アジアの地域秩序の今後
◆米国がアジアにおけるヘゲモニーを放棄、あるいはヘゲモニー維持能力を喪失する可能性-近い将来には小さい。中国要注意。
◆アジア地域秩序の統合能力の問題。地域秩序に参加することで「豊かな社会」は実現し、政治的安定と社会的平和はもたらされるか?-インドネシア、フィリピンでは、フォーマルな国家の枠内で、首都から相当に自立したセンターが登場し、それらが国境を越えて様々なネットワークで結ばれ、そうした領域のあちこちで秩序が崩壊する事態に陥る可能性。
◆中国は海のアジアにおける華僑・華人経済の繁栄を取り込んで国力に転換できるような開かれた政治経済システムを創出できるか?-相当に難しい。
◆日本の取るべき進路-国際主義とアジア主義の調和。アジア地域秩序の安定。そのために経済協力、文化協力、知的協力、技術協力などの交流の拡大と深化を進め、日本・東アジア関係の経済的、社会的、文化的パラメーターを長期的に変えていく。日本の行動の自由を拡大するような地域化の推進とこれによる「アジアの中の日本」の実現を目指すべき。

所感
1)初版発刊から11年経過。当時予想されていたアジアの地域秩序の今後は当たっているようには思われるが、フィリピン、インドネシアで顕著な「権力の分散」からは、あまり明るい地域秩序の姿がイメージできなかった。
2)よくわからなかった点。思いつくままに4点挙げる。

 ①華僑・華人ネットワークと各国の独立運動との関係
  本書では20世紀初頭の各国でのナショナリズムの台頭と戦後に展開された米国のヘゲモニー下における
  上からの国民国家建設については詳述されているが、その間の独立運動についてあまり言及がない。
  従って、国民国家建設に大きな役割を果たした華人ネットワークが独立運動とどのような関係を築いていた
  のかがよく理解できなかった。

 ②戦後のアジア地域秩序の中でのシンガポール、マレーシア
  戦前までの記述の中心は英領マラヤとシンガポールだったが、第二次世界大戦で英国のヘゲモニーが
  失われたのと歩を合わせるように、独立したマレーシア、シンガポールについての記述が全く失われて
  しまった。上からの国民国家建設はこれらの国にとっても課題で、そのプロセスは本書で扱われた他の
  3国とも違ったものだったに違いないが…。

 ③先住のイスラム教徒と白人社会との関係
  英国が自由貿易帝国を構築し始めた頃に既に地域に住んでいたイスラム教徒と入植した白人社会との
  関係がわかりにくかった。植民地経営の基礎情報とすべく行なわれた人口調査では、民族カテゴリーは
  扱われていたようだが、宗教はどうだったのだろうか。人口調査が宗教による国民間のアイデンティティの
  分離を招くといった事態はなかったのだろうか。

 ④海賊から見た海のアジアの歴史
  本書を読むと海賊が東南アジアの海域で跳梁跋扈していたのはブギス人の力が衰えて海賊化が進んだ
  18世紀後半以降のこととなっているが、その海賊に関する記述が19、20世紀にはあまり見られない。現在
  問題になっている東南アジアの海賊は、今発生した新しい現象なのか、それとも古くから連綿と続いてきた
  この海域の歴史の産物なのか、どちらなのかが想像できなかった。
  
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