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『赤い三日月』(上・下) [黒木亮]

赤い三日月 小説ソブリン債務(上)

赤い三日月 小説ソブリン債務(上)

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2011/09/23
  • メディア: 単行本
赤い三日月 小説ソブリン債務(下)

赤い三日月 小説ソブリン債務(下)

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2011/09/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
巨額の対外債務、高インフレの激震―巨大銀行と国家の暗闘がはじまった!国家の命運を賭け、市場を切り拓く新興国財務官僚たちロンドン、ワシントン、東京、トルコを呑み込むマネーの濁流。
久々に黒木亮の長編ビジネス小説を読んでみることにした。

舞台は主にロンドンとトルコ。邦銀ロンドン支店でトルコ向け融資のシンジケーションに携わる主人公・但馬と、トルコ財務省(省庁名は正しくないが、要するに「トレジャリー)の高級官僚エンヴェルを軸に、国際金融業界に見える社内での葛藤、他金融機関や融資先との駆け引き、また新興国に垣間見える政官の癒着、それでも国を良い方向に導こうと努力を傾ける財務官僚たちの姿を絡めて話が展開する。

シンジケート・ローンは1件扱ったら終わりというものではない。幾つもの案件が同時並行的に進むので、長編小説の割にはきっちりここまで描いて終わりという感じではない。本書は主に1990年代前半のトルコ向け融資案件の話だが、東西銀行・但馬はこの後香港に転勤となる。黒木亮の処女作『アジアの隼』で描かれた世界へと繋がっていく。
僕は、1990年4月から93年1月まで某地方銀行の国際金融部門に在籍していた。なにせ地銀なので、本書で描かれているような華々しい国際金融の現場ではない。大手の邦銀はロンドンを拠点に融資案件を発掘し、既に主幹事のマンデートを取り、他の副幹事と各行いくら引き受けるか合意形成を図り、その上で自行引受け分を他の金融機関に売って、その利ザヤと幹事手数料とで儲けている。中堅クラスの地銀に声がかかるのは、シンジケート団の本当に末端の部分、例えば融資総額が5億ドルという規模だとすると、地銀に「乗らないか」と声がかかるのは、せいぜい100万ドル程度の規模で、大手都銀と比べて地銀の旨みはそれほど大きくはない。

当時はイタリアやトルコの案件がとても多かった。それも、1年物から長くても5年物。そんなものに地銀の立場でいちいち都銀から声がかかるわけがないが、それでも結構お誘いは受けた。それらを見て、どれが良い案件でどれが筋ワル案件か、だんだんわかってきた頃、S銀行からあるトルコ案件が持ち込まれた。政府保証付きでスプレッドも結構良い。しかも1年物。僕はこれは結構良い案件だと思い、情報を自分なりに収集して稟議書を書いて上にあげた。しかし、この稟議書は国際部を出て審査部に送られることはなかった。審査部出身の課長代理に握り潰された。僕は、「何でですか」と喰ってかかったが、却下の理由がふるっていた。「IBJ(日本興業銀行)がシ団参加してないから」だとか。この課長代理はIBJ信仰者だった。

ただ、本書を読んで思ったのは、本当にオイシイ案件は大手で押さえてしまい、国別与信枠の関係でどうしても自行だけでは全額引き受けられない時とか、あるいは条件が悪くて大手があまり参加して来ない時とかでないと、地銀あたりには声がかからなかったのだということだ。この商売で本当にオイシイのは、主幹事になってがっつり引受手数料をもらえるところで、さらに小口にして他行に売れば、その際にも多少のサヤを抜ける。最後の最後になって声がかかる地銀あたりでは、本当に意味のあるディールなどあり得ないというのもよくわかった。

社内でそんな経験を僕がしていた頃、ファックス機を挟んだ向こう側の都銀では、シンジケート団組成に向けて、こんな努力が日夜繰り広げられていたのだ。そしてさらにその先では、少しでも有利な条件を引き出そうと取り組むトルコの借入人たちもいたのだ。彼らが当時何をしていたのか、本書を読んでよくわかった。黒木作品の良さは、ストーリー展開の面白さというだけではなく、実務に相当役立つという点にあると思う。

10年近く前に『アジアの隼』を読むよう人から薦められた際、「これは元業界にいてそういう取引に現場で携わった人でないと書けないリアリティがある」と言われた。実際に読んでみてそう思ったし、その後も黒木作品は何編か読んだが、どれも読んで良かったと思える作品ばかりだった。今1990年代前半のソブリン債務を扱った作品がタイムリーなのかどうかはちょっと疑問だが、当時国際金融の末端部分で仕事していた僕にとっては、こういう時代だったんだなと振り返ることができる有用な作品だった。

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