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『鉄のあけぼの』(上・下) [黒木亮]

鉄のあけぼの 上

鉄のあけぼの 上

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 単行本

鉄のあけぼの 下

鉄のあけぼの 下

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
灼熱の鉄づくりに命をかけ、経済大国・日本を創り出した男のドラマ。日本は貿易立国しかない。だから鉄をつくるのだ。それがわたしの信念だ―。川崎製鉄(現JFEスチール)創設者、西山弥太郎は、銑鋼一貫工場を千葉に建設し、戦後日本企業が世界市場を席巻する礎を築いた。「鉄のパイオニア」の生涯を描く大河小説。
初の世銀融資。夢の水島製鉄所―「世界をつくる火」が燃え上がる。「暴挙」「二重投資」「製鉄所にぺんぺん草が生える」…批判の嵐の中、信念を貫き、高炉メーカーへの脱皮を果たした川崎製鉄社長・西山弥太郎は、世界の鉄鋼需要拡大を見通し、さらなる巨額投資に踏み切る。西山弥太郎が示した、真のリーダーシップとは―。
先月下旬、母校の大学院の創設10周年記念イベントに出席した際、お目にかかったある先生から、途上国の輸入代替工業化は往々にして悪い政策と見られがちで最初から輸出志向工業化を目指せとよく言われるが、必ずしも輸入代替が悪いというわけではないというお話があったのが印象に残っている。

先生の論点は、輸出志向工業化では軽工業製品の輸出を目指すために、素材を供給する重化学工業がなかなか育たない、育った国は数えるほどしかない、ということだった。現在、国内に鉄鋼業が存在している国といったら、韓国は輸出志向に政策転換する前に輸入代替をやっていたし、インドはさらに広大な国土を抱えていて輸出を指向するインセンティブが働かない。

そんなお話を聞いた後だったから、日本の鉄鋼業の発展の歴史について、川鉄の西山弥太郎のライフヒストリーを中心に描かれたノンフィクションを読むことは即決だった。西山の伝記であるが、周囲の情勢についてもこまめに言及されており、日本の近現代史のどの時期に西山と川崎重工・川崎製鉄が何に取り組んできたのかがよくわかる。

僕が生まれたのは西山が死去する1年前なので、西山がどういう人なのか、この本を読むまでまったく知らなかった。

今から48年も前に亡くなられた企業経営者のライフヒストリーを描くというのは大変な作業だった筈だ。本人へのインタビューなど当然不可能だし、西山の下で育った人材も、普通に考えても70代や80代である。社史とか川鉄元幹部の回顧録のようなものが利用可能だったとしても、半世紀以上前に展開されたストーリーをこれだけリアルに描くのは想像を絶する作業だ。どうやって調べたんだろう。

それに、黒木亮さんは元々金融マンで、それほど鉄鋼業に造詣があったわけではないと思う。製鉄の生産工程やプラントについては、読んでもなかなか理解しづらかった。それだけに、よく調べられたものだとかえって感心した。下巻の最後に、生産工程のイラスト解説が見開きで掲載されており、もし読むなら最初から下巻を手元に置いて、時々確認しながら読むのがいいだろう。

個人的に読んでいて面白かった箇所は、千葉製鉄所建設にあたって必要な資金調達のため、初の世銀融資を受けるまでの経過だ。ちゃんと確認したわけではないが、融資を申し込んでから世銀理事会での融資決定までに2年ぐらいの歳月がかかっている。その間に次々と出される世銀担当者からの資料提出や業務改善の注文に川鉄側が答えていく過程は、臨場感たっぷりで本書の中でも最も克明に描かれている箇所だと思う。世銀の公開資料が利用できたこともあるだろうが、黒木亮さんの元々のバックグランドが状況描写に生きていると思う。

最後に、西山のリーダーシップについてひと言。西山という稀有のリーダーの姿に感銘を受ける読者はきっと多いと思うし、それを否定するわけではないが、時代背景を考えればこれが当たり前の姿だったんじゃないだろうか。夫は常に現場に張り付き、仕事を最優先に考えるもの、妻はいつ帰るともしれぬ夫を家で待ちつつ、子供たちを育て、夫の留守を守るもの、という役割分担は、当時なら普通だったと思うが、今それをやったら妻や家族に顰蹙を買いそうだ。

生活に多少の不便はあったとしても、経済も社会も右肩上がりだった半世紀前は、たいへんだったけどやりがいもあったのだろうな。日本の元気だった頃の物語だ。

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