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『中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道』 [読書日記]

中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道 (地球選書)

中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道 (地球選書)

  • 作者: 橋本 謙
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2013/02/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
中米や南米の人々を昔から苦しめてきた風土病「シャーガス病」は昆虫カメムシの類縁種サシガメを媒介する感染症だ。患者の多くは山間の貧しい農村に発生する。グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなどで日本の若者たちが各国の政府や農村の住民らと協力し感染を絶つためにサシガメの駆除に挑んだ奮闘の物語。
本を読んだ直後、本の中で描かれた光景が夢の中で再現されたという経験はありませんか?

僕はありました。この本の最初の2章ほどを読み、その後就寝したところ、サシガメに取り囲まれて身動きがとれなくなっている光景が夢の中に出てきた。他の動物の体液を吸うカメムシは日本にもいる。水生昆虫の王者タガメは、最近ではほとんど見かけなくなってしまったが、僕らが子供のころは田んぼにいるカエルの体液を吸って生きていた。しかしこのサシガメというのは人間の血を吸う。昔ネパールの山を歩いていて吸血ヒルに取り囲まれた経験、もともと体長1センチにも満たない小さなヒルが水牛に吸い付いて5センチにも巨大化している姿を目撃した経験がトラウマになって記憶の片隅に残っていたのか、僕は自分の血を吸われることに異常な恐怖を感じる。だから、吸血昆虫だというだけで、夢に出るほどの戦慄を覚えるのだろう。加えて、本書の著者の情景描写の力も大きいと思う。

日本の国際協力の歴史をプロジェクト単位で紹介しているこのシリーズは毎回楽しみに読ませてもらっているが、シリーズ6冊目となる最新刊は、既刊の5冊を上回る面白さだと思う。

でも、読んでいくと、サシガメが媒介する病原体は、サシガメが血を吸うことによって人の体内に侵入するというわけではないことがわかってくる。血を吸ってお腹が大きく膨れたサシガメは、人と同じように、満腹になるとウ〇コを人の皮膚の上に落とす。サシガメは血を吸うときに人が痒みを感じる物質を人の体内に注入するので、刺された人はそこを無意識に掻こうとする。そして、血を吸われた傷口に、病原体入りのウ〇コを刷り込んでしまう。シャーガス病の潜伏期間は非常に長い。忘れていた頃に突然発症し、ひどければ人を死に至らしめるのだ。

そういうカメムシが人の生活空間に隠れ家を確保し、夜になると蠢きはじめるのである。カメムシが棲息するのは土壁にできた亀裂の奥深くや、壁にかけられた額の裏側、部屋の中に置かれた家財道具の裏などである。今でも土壁の民家で狭いひと部屋の中で家族が暮らすために雑然とものが置かれているのは貧困層の家屋である。しかも電気が来ていなくて夜になると真っ暗になり、虫がカサカサと動き回っていても発見することは難しい。

シャーガス病という風土病は、貧困層の住生活と密接に結びついているのだという。

昔は、中米の山間地の集落では1家屋あたり1000匹(!!)という単位でサシガメが発見されたこともあるらしい。まさに、吸血昆虫に取り囲まれる恐怖だ。今は殺虫剤散布が進んで、棲息するサシガメの数は大幅に減った。減ったことで発症するリスクもかなり軽減されたという。野山には普通にいる虫だから、完全に駆逐することなど難しい。今は住民ひとりひとりがモニタリングをきっちりやって、それでも身近なところでサシガメが見つかったら、その周辺の家屋も含めて殺虫剤散布をしっかり行ない、罹患のリスクを抑え込む。そのためには、見つけたら届け出るという手続きを住民が励行し、それを殺虫剤散布に繋げるという、住民と行政との連携が必要だ。

CIMG2716.JPG
《見つけたら、ビニール袋に捕獲して、近くの保健施設に届ける》

日本の協力は、サシガメの生態を調査して棲息場所を特定するところからはじまり、殺虫剤散布によるサシガメの駆除、住民参加によるサシガメ監視体制の構築まで行なわれてきた。しかも、それが中米の複数の国で行なわれた。国境を接している国同士であれば、人も虫も国境をまたいで移動することが多い。

本書がシリーズの既刊本と大きく異なるのは、開始時期は異なるものの、複数の国で協力が行なわれたことだ。そして、専門家や青年海外協力隊員など、多くの日本人が登場する。こんなに多くの登場人物を取り上げた本は、シリーズでは類を見ない。このシリーズは、協力の発端を時に1960年代、70年代にまで遡って描くという長い時間軸に特徴がある。シャーガス病対策の場合も、媒介する昆虫の生態を解明するという、1970年代にグアテマラで日本の研究者が協力してはじまったブユが媒介するオンコセルカ症での経験にまで光を当てて、その方法論が形成されてきたプロセスをしっかり描いている。それが複数の国にまたがり、複数の県に複数の協力隊員まで派遣していたのだから、登場する日本人の数は馬鹿にならない。

そして、時間軸が長いということは、この協力を通じて育っていった日本の人材も多いということだ。2000年代の初めに派遣された若い協力隊員の中には、これをきっかけとしてその後も国際協力の世界での経験を積み重ね、中にはシャーガス病対策の専門家として、後輩の協力隊員にアドバイスを送る立場の人も出てきている。著者自身がそうして経歴の人らしい。

こうして見ていくと、著者の取材活動もそれだけ大変だったことは間違いない。長い時間軸と広い空間軸を持つこの協力を、200頁という限られた本の中で過不足なく描ききるのは大変な作業だったことだろう。

それでも登場している人々の生き生きとした姿を見ていると、人生の折り返し点をとっくに過ぎた僕などよりも、この本は中学生や高校生にも読んでみて欲しいと思ってしまう。今どきの若者は内向き志向が強まっていると嘆く中高年の人は多いが、その真偽のほどはともかくとして、国際協力が日本の若い人々の経験値を確実に引き上げる、能力形成の場であるということがよくわかる。この点も、既刊本にはない新鮮な視点だった。

こんな動画もあったので、あわせて紹介しておきます。本書では主にグアテマラとホンジュラスでのJICAの協力が紹介されているが、現在はニカラグアでシャーガス病対策のプロジェクトが進行中だとか。


最後に余談だが、僕は個人的に著者・橋本氏のことを存じ上げている。その橋本氏から、次のようなメッセージを最近受け取ったので、転載しておきたい。
2013年3月1日 11:12
皆様、

ご協力のお願いです。

今年も日本国内で、ラテンアメリカ人を対象に、シャーガス病の集団検査がおこなわれます。
在日ラテンアメリカ人コミュニティーと三浦左千夫先生(日赤技術顧問)らによる活動です。

具体的には、集団T.cruzi抗体検査と成人病検査が、以下の日程で予定されています。

3月3日  群馬県邑楽郡邑楽町中野
3月30日 埼玉県本庄市にて本庄市民会館(10:00-17:00)
4月7日  浜松
4月20日 神奈川県厚木市(Escola Aqualero)
5月25日 飯田(長野)
6月22日 長岡(新潟)
7月20日 伊勢崎(群馬)
8月24日 中央市(山梨)
9月21日 上田市(長野)
10月26日 大泉(群馬)

スペイン語やポルトガル語を話せる方々、シャーガス病対策に関与された方々を求めています。
今までも元シャーガス病協力隊員が参加され、活躍されました。

在日ブラジル人を対象とした血清調査では、1.9%が陽性とでた経緯もあります。
シャーガス病の集団検査は、患者の治療と母子感染の防止につながります。

また、三重県を中心に「シャーガス病患者を守る会」仮称のNPOが、発足準備されています。
ボリビア中央協会と三重多文化共生課職員(個人参加)による動きです。

これら集団検査またはNPOにご協力いただける方は、
三浦先生(miuraska@hotmail.com)までご連絡ください。

ぜひ、よろしくお願いいたします。

エルサルバドルより
橋本謙
潜伏期間が長いということは、中米諸国に滞在していてサシガメに刺され、そのまま帰国してしまったという日本人の旅行者もけっこういる可能性が高いということである。お心当たりがある方は、是非いちど検査を受けることをお勧めしたい。
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三浦左千夫

昨年12月26日奇跡体験アンビリーバボー にChagas病について紹介しました、影響は何と1月1日にいきなり飛び込んできた「サシガメが居る!シャーガス病の媒介昆虫かどうか見てほしい」でした、偶々医療関係に居た方でしたので、すぐに私に繋がったのだと思いますが、現在の私へのChagas病に関する問い合わせは全て miurask@gmail.com でお願いします。 以前使用していたmiuraska@hotmail.comは使えませんンので、ご迷惑をかけているかもしれませんが、新たな連絡先にお願いいたします。 今年は9日からブラジル領事館で検査が再開されますので、希望者は東京ブラジル領事館
3Fにお越しください10:00~13:00までです。


by 三浦左千夫 (2014-01-03 22:18) 

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