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『幸福の経済学』 [持続可能な開発]

幸福の経済学―人々を豊かにするものは何か

幸福の経済学―人々を豊かにするものは何か

  • 作者: キャロル・グラハム
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2013/02/26
  • メディア: 単行本
内容紹介
「幸せ」とは何か?人々の幸福度はどのようにして測ることができるのか? 所得が多いとどれだけ幸せになれるのか? 世界各国での実証研究を踏まえ、真の豊かさを捉える新しい経済学をわかりやすく解説。

10月から11月にかけて、5000ワード以上の英語の論文を2本書いた。それが結構しんどくて、11月末に2本目のペーパーをなんとか提出した後は、ちょっとした放心状態に陥った。年が明ければ次は2月末目標でもう1本を書き上げねばならないが、取りあえず年内いっぱいは充電期間だと開き直り、あまり頭を使う作業はやっていない。この2ヵ月は論文と関係ありそうな文献ばかりを読んでいたので、ちょっとぐらいはそこから外れたテーマの本でも読もうかと考え、2冊ばかり「幸福」に関する本を読んでみた。その第一弾が本書である。

これは僕はブータンに住んでいる日本人の方にはよく言うセリフなのだが、ブータン帰りというだけで、「GNHや幸福について一家言あるだろう」という色眼鏡で見られるのではないかと思っている。GNHに対してそんなに造詣があるわけではないが、帰国すれば絶対訊かれるだろう。「ブータン人って、幸せなんですか?」「ブータンで暮らしてみて、幸せを感じられましたか?」「ブータンの人が幸せなのはなぜなんです?」等等。

でも、パッと答えられない。そりゃ僕も幸せですよ。必死の思いで書いて期限までに投稿した論文がジャーナル掲載されたら嬉しいし、それ以前に、とにもかくにも脱稿して提出したらホッとする。自分が構想から1年がかりで仕込んだイベントがきちんと形になり、多くの方からご評価いただければ当然嬉しい。でも、僕が思う幸せと、ブータンの人々の幸せはかなり違う。同じ論文の話をすると、必死で書いて期限に間に合わせるというがむしゃらなところはブータン人にはなく、多忙を理由に簡単に諦める。しかも、「多忙」と言いつつもあがりはいつも定時で、どこが忙しいのかよくわからない。

1年がかりで地道な準備を重ねるというのもごく一部の限られた人にしかできない。ターゲットを1年後に決めて、そこからの逆算で今何をしなければいけないのかを考えるというのは一般的には不得手で、たいていの場合は、今日はここまでやって、明日はあそこまで、といった感じの足し算で考え、何か突発的に起きれば、取りあえずそれをやり過ごすのに全力を尽くす。でも結果うまくいかなくて、目標通りに1年後に目標達成できないという事態も多い。たいていの場合、期限などあってないようなもので、遅れるのが一般的だと思える。

話が脱線した。要するに、ブータン帰りなら「幸福」について語れという注文が結構付きそうな気がするので、ちょっとぐらい「お、こいつ知ってるぞ」と思わせられるようにしておこうと思い、その手始めに本書を読んでみたというわけである。

実は、この点はブータンに来ることが決まった時点で結構強く意識していて、赴任前に中古で3冊ほど文献を購入していた。いずれも、幸福度研究が盛り上がりを見せた2010年頃から2013年頃に立て続けに出た日本語の書籍である。日本でも、2012年のワンチュク国王御夫妻の東北被災地ご訪問をきっかけににわかに「ブータン」が盛り上がりを見せ、便乗するかのように「ブータン」と「幸福」をキーワードにした本が立て続けに出た時期でもある。でも、そちらの方はいずれ読む機会もあるだろうと後回しにして、むしろブータンへの言及は最低限にとどめ、グローバルに幸福度研究をリードしてきた研究者の先行研究を手っ取り早く理解したいと思い、3冊選んだ。

サイズもページ数も違う中、人間の悲しい性で、安直に最初に読み始めたのは、A5版で最もページ数が薄そうな本署であった。原著は2011年6月発刊で、著者は米国ブルッキングス研究所の方である。

著者ご自身が関わった世界各国での幸福度調査の結果も含め、この時点までに出てきていた先行研究を手っ取り早くレビューするには良い本だと思う。時折疑問に思っていた「幸福(Happiness)」と「福祉(Well-being)」「生活満足度(Life Satisfaction)」の定義を明確に分けて整理されている点も、僕にとってはありがたい話。それに、先行研究レビューといっても、話は有名な「イースタリンのパラドックス」にも及び、詳述されているからありがたい。読み込むにはかなり難解だが、こういう本は捨てがたく、今後も必要あれば何度か部分的に読み返したりする使い方をするのだろう。親切に索引も付いている。

既にこの時点で相当書き込んじゃっているので、内容紹介に詳しく踏み込むことはあまりしないが、「幸せな農民と不満な成功者」「アリストテレス vs ベンサム」という言葉が各章で頻出するので、このあたりが著者の主張だといえるだろう。あまりに頻出するのが、本書を読みにくくしている一因でもあると思えるのだが(苦笑)。

最後に、ブータンの文脈で1カ所だけすごく僕自身に響いたところを挙げておく。
 ジョージ・アカロフとレイチェル・クラントンが、アイデンティティと経済学について行った研究例は示唆に富むものです。アカロフとクラントンは、ロバート・フット・ワイトがニューヨーク市のギャング団の子どもたちについて行った、寄宿制学校への奨学金の研究を引用しています。奨学金を受けた子どもは、より良い教育を受けますが、新しい環境には完全になじめず、昔の環境に戻った時には、もはやそれにもなじめなかったといいます。結局、子どもたちから、彼らが関連づけられるアイデンティティを奪ってしまったことでプログラムが裏目に出てしまったのです。政策的な結論は、恵まれない境遇の子どもへのこうしたプログラムがもともと悪いものだったということではなく、子どもたちがアイデンティティを見つけられる環境から完全に隔離してしまう、そして、日々を生きるだけの惨めな状態にしてしまうような政策は、成功する可能性は小さいだろうということです。(p.190)
―――当然、この記述から僕が思い浮かべたのは、「セントラルスクール」という制度である。

この制度がすべからくダメだというつもりはないが、クラスPPからせめてクラス4ぐらいまでの子どもを親元から離して寄宿舎に入れるのはどうかという気がする。生まれ育った地域とのつながりを意識し、アイデンティティが形成できてないうちにそこから引き離してしまうと、その後その地域にはなかなか戻れない、農村から都市への人口移動につながりやすい環境を、この制度が生み出しているのではないかと懸念する。こうした懸念は、ブータン人自身も含めてよく耳にする。

効率性を考えてやむを得ない部分もあるのだろうが、であれば、別の形での地域とのつながりを意識させる機会を考えていく必要があるのではないか。

ちなみに、原書はコチラになります。

The Pursuit of Happiness: An Economy of Well-Being (Brookings Focus)

The Pursuit of Happiness: An Economy of Well-Being (Brookings Focus)

  • 作者: Carol Graham
  • 出版社/メーカー: Brookings Inst Pr
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: ハードカバー


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omachi

WEB小説「北円堂の秘密」を知ってますか。
グーグルやスマホでヒットし、小一時間で読めます。
その1からラストまで無料です。
少し難解ですが歴史ミステリーとして面白いです。
北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。
読めば歴史探偵の気分を味わえます。
気が向いたらご一読下さいませ。
by omachi (2017-12-21 11:20) 

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