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『善意で貧困はなくせるのか?』 [持続可能な開発]

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

  • 作者: ディーン・カーラン、ジェイコブ・アペル
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2013/02/09
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
“社会実験”+“行動経済学”が世界を救う。イェール大学教授と現場のリサーチャーが最前線のフィールド研究から教えてくれる貧困削減のためのアイデアが満載。

日本での充電生活も残り1週間となり、読書三昧もゴールが見えてきた気がする。以前も書いたが、僕は某大学院の非常勤講師も務めている。後期履修の1講座だけで、昨年9月以降の4ヵ月だけの講座なのだが、その間ネット上の履修室で行われた履修生とのやり取りの中で、もうちょっと最近の開発経済学系の文献を読んでおく必要性を感じていた。確かあの本のあの辺に該当の記述があったなぁとうろ覚えしていたものも、ブータンに住んでいて手元にその文献がないと確認ができない。なので、この一時帰国の機会に、文献を集中的に読み込む時間に充て、今後の院生指導に役立てていきたいと思った次第である。

直近の講座における履修生とのやり取りの中で話題となったのが、開発援助の有効性を巡る、コロンビア大学ジェフリー・サックス教授と元世界銀行エコノミストであるウィリアム・イースタリー教授の論争である。2008年に両者が出した著書の中で双方を批判し合っていたもので、貧困を撲滅するために先進国はもっと援助の増額をと訴える前者に対して、援助で貧困は撲滅できないと反論したのが後者だ。

10年も前の話になるので、その後世に出された文献の多くは、この論争に関して自身がどのようなポジショニングを取るかという点について何らか言及しているものが多い。有名なところではバナジー&デュフロ著『貧乏人の経済学(Poor Economics)』がある。援助が有効なのか有効でないのか、著書を通じて「空中戦」しているぐらいなら、現場に行って実験してみようというので、ランダム化比較試験(RCT)を用いて、数々のアプローチの有効性を検証している。

今回ご紹介する1冊は、『貧乏人の経済学』の共著者の1人であるエステル・デュフロ教授の弟子にあたるディーン・カーラン教授が執筆しており、トーンとして『貧乏人の経済学』とも近いと感じた。巻末の解説で、アジア開発銀行のチーフエコノミストになられた澤田康之教授が語っておられるが、開発経済学の一般的入門書として、昔ならサックス『貧困の終焉』、イースタリー『エコノミスト南の貧困と闘う』、ポール・コリア―『最底辺の10億人』を薦めたが、今ならバナジー&デュフロ『貧乏人の経済学』、ジョナサン・モーダック、スチュアート・ラザフォード、ダリル・コリンズ、オーランダ・ラトフェン『最底辺のポートフォリオ』、それにカーラン&アペル『善意で貧困はなくなるのか?』が挙げられるという。実はこの新三部作のうち、最初の2冊は既に読んでいたけれども、最後の1冊だけは未読で残っていた。今回の読書はそれを埋めるものであったというわけだ。

従って、原書は2012年に出ている本書の中でも、当然、「サックス対イースタリー」論争に関する著者のポジショニングに関する記述があり、どっちが正しいかは一概には言えないが、マラリア対策に効く蚊帳の配布については、RCTの結果として、1人の命を救う費用は、平均すると蚊帳を売るより無償で配った方が安く済みそうだという(pp.268-272)。この部分に関しては、サックス教授の主張の方に分がありそうだ。

「サックス対イースタリー」に紙面を割きすぎた。もう1つの視点は、本書の記述の中に、僕がブータンを見る上で役に立ちそうなものがあるかという点だが、あった。その最たるものが、特に本書で紙面を多く割いて論じられているマイクロファイナンスである。「本当にマイクロクレジットが貧しい人たちの役に立つようにしたいのなら、すべてのマイクロローンが事業に投資されるなどと勘違いしてはいけない」(p.119)とあるが、そういう前提で起業家の金融アクセスを改善するための制度構築をシャカリキに進めているように映ってしまうのが今のブータン政府なのだ。

鳴り物入りで今年から導入されるPSL(Priority Sector Lending)も、下手をすると、借り手は地方の農業従事者かもしれないが、借りたお金を実際何に使ったかを数年後に追跡調査してみると、案外、ティンプーに住む息子の不動産投資だったりするんじゃないかと、単なる想像だけれども感じる。借りた人が貸した人の期待に100%応える形で資金を使うわけじゃないということは、常に頭に置いておく必要があるのでは?

「貧しい人たちもすべてが生まれながらの一流の起業家ではない」(p.114)は、少なくとも僕が記憶している限り2000年代前半には既に言われていたことなのだが、本書は改めてそれをRCTを使って実証している研究事例を幾つか提示してくれている。

 途上国だけでなく他のどこでもそうだけど、誰もが事業を経営する――または、起業のための借金をしょい込む――のに向いているわけではない。専門知識がないからとか、適性がないからという人もいるけど、たいていはもっと簡単な理由からだろう。彼らが偉大な起業家じゃないのは、偉大な起業家になるというのが彼らの人生のいちばんの目標じゃないからだ。人が幸福を追求する仕方は他にもある。もっと楽しめる仕事をするとか、家族と時間を過ごすとか、昼下がりにガールフレンドといっしょに映画を見るとか。
 能力と優先事項は人によって違うものだという常識的な事実が、起業のためのマイクロクレジットへの世界的な熱狂と真正面からぶつかると、何が起きるだろう。成功しそうにない人にお金を貸すという、丸い穴に四角の杭を打ち込むようなことになる。融資をして、たくさんの新しい草の葉が萌え出るようにビジネスがにょきにょきと育ってくるのを心待ちにして見守る。でも生えてくるのはきれいに揃った一面の緑ではなく、所どころがはげている。(pp.114-115)

本書の最終章では、そこまでで書かれた各章の中から、貧困の削減に「効果がある7つのアイデア」というのを整理して提示されている。でも、この探求の旅はまだ途中だというのも著者は認めている。RCTを使った実験は世界各地で行われており、僕達が「多分有効だろう」と思いこんでいたアプローチが実はあまり効果がなかった、あるいはこうすればもっと効果が上がったといった示唆がどんどん得られていくのだろう。本書で著者は「プルーブン・インパクト・イニシアティブ」というのを立ち上げたとあったので、そういう社会実験の結果がまとまっているサイトでもあるのかと思って検索してみたところ、著者が主宰するIPA(Innovations for Poverty Action)のケーススタディのサイトのことだった。残念ながらブータンを直接対象としたケーススタディは行なわれていないようだが、これはこれで、本書の論点を補強、発展させてくれるサイトということで、時々チェックしてみたいと思う。

原書はこちらになります。

More Than Good Intentions: Improving the Ways the World's Poor Borrow, Save, Farm, Learn, and Stay Healthy

More Than Good Intentions: Improving the Ways the World's Poor Borrow, Save, Farm, Learn, and Stay Healthy

  • 作者: Dean Karlan and Jacob Appel
  • 出版社/メーカー: Plume
  • 発売日: 2012/03/27
  • メディア: ペーパーバック

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