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『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』 [読書日記]

伝説の編集者 坂本一亀とその時代 (河出文庫)

伝説の編集者 坂本一亀とその時代 (河出文庫)

  • 作者: 田邊園子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/23
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
文芸誌「文藝」の復刊と新人発掘のための「文藝賞」創設に尽力し、気鋭の戦後派作家たちを次々と世に送り出した編集者・坂本一亀。青春時代に体験した戦争を激しく憎悪し、妥協なき精神で作家と文学に対峙した坂本が、戦後の日本に問うたものとは何だったのか?新しい文学の胎動に寄り添い、“戦後”という時代を作った編集者の類まれなる軌跡に迫る、評伝の決定版。

日本は7月16日は海の日で祭日だったらしいが、ブータンも同じくブッダ命日という祭日だった。何をやろうかと考え、結局、以前河出書房新社に勤めていた親友から薦めてもらった本をキンドルでダウンロードして読むことにした。

今から9年前、僕は坂本龍一『音楽は自由にする』の読書レビューをブログに書いた。余計な日記も書かれていたのだが、その本について、僕は「音楽の造詣もさることながら、坂本氏は大変な読書家でもあるということを知った。音楽の世界を深めるという意味でも、社会を広く知るという意味でも、小学生時代から読書家だったというのはプラスに貢献していると思う」という感想を述べている。

坂本龍一が小学生時代から読書家だったのは、家に多くの本があったからだ。誰が持ち込んだのかといえば、お父さんが河出書房の名物編集者だったからである。そう、本日ご紹介の1冊の主人公、坂本一亀のことである。

本書は、息子・坂本龍一からの依頼を受けて、父・坂本一亀の元部下である編集者が、各所に保管されてきた膨大な資料を紐解き、新鋭作家を発掘し、書き下ろしの孤独な作業に編集者として寄り添って作品を世に出し、戦後派作家を次々と世に送り出していった河出の名物編集者の評伝としてまとめたものである。この元部下も相当こき使われたようで、坂本一亀を全面肯定しているわけではなく、事実を淡々と述べ、坂本に言われたこと、言われて実際にとった行動などを並べている。評伝というのはこうやって書くのだというのを改めて確認できる1冊だ。

また、親友から聞いたところでは、河出書房新社にはこれらの作家の残したメモだの書簡だのゲラだのといった膨大な史料が保管されているようで、著者はそういうのも紐解いて、丁寧に資料を取り上げて評伝にまとめていっている。坂本一亀の評伝としてまとめられているが、坂本と交流があり、本書で搭乗する多くの戦後派作家がブレークするきっかけとなる作品が、どのように生まれてきたのか、その誕生秘話を知ることができる本でもある。

作家の裏には編集者あり―――。僕も昔単著で1冊本を書かせてもらった際、お世話になった編集者の方から、随分と原稿を直されたのを思い出す。反論したいところもあったけれど、実際に言われた通りの構成にして刊行にこぎつけたところ、その構成だったのが良かったというポジティブなコメントを読者の方からいただいた。僕がお世話になったのはフリーランスの編集者の方だったが、坂本一亀は河出書房の名物編集者である。

小説の書き下ろしというのは結構大変な作業で、作品が世に出るまでは収入がないし、作品が売れなければ実入りも少なくなる。生活の不安が付きまとう中で、作家はペンを進めなければならない。時には1日でも原稿用紙1枚分しか書けない、あるいはまったく書けないようなスランプも経験する。不安を伴う孤独な作業となる。編集者がそれに寄り添い、時として作家のブレーンとして適切な助言をその都度していくような役割を果たせないと、ゴールまでたどり着くことは難しい(野間宏の大作『青年の環』が完結に至るまでの本書の著者・田邊園子の野間との伴走についての記述も示唆に富んでいる)。その作家の長所はどこなのかを把握し、そこを伸ばすような助言を行うことで、エッジの効いた読ませる作品が生まれる。

そして、作品が売れない困窮状態から取りあえず抜け出して、他の出版社からも仕事が舞い込むようになっても、坂本はその作家の作品には常に目を通し、作家に声をかけるようなところがあったらしい。そのために、坂本家には息子・龍一が幼少の頃から本が沢山あったのである。

そうやって生まれてきた戦後派の作品だが、残念なことに、僕はほとんど読んでいない。そういう読書をして来なかったからなのだが、なんか、そういう昔の作品、言ってみれば、僕の父の世代あたりがマスな読者になっていたであろう作品を、今無性に読んでみたくなっている自分がいる。そういえば、僕らが高校の時の現代国語のG先生が、高橋和巳をすごく薦めておられたのも思い出した。そういう助言をまったく取りあわずに55歳の誕生日を迎えてしまったが、そろそろ昔の先生からいただいた助言に応えていく時期なのかもと思った。

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