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『直島誕生』 [仕事の小ネタ]

直島誕生――過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録

直島誕生――過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録

  • 作者: 秋元 雄史
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
“現代アートの聖地"はなぜ、どのようにして生まれたのか?仕掛け人が明かす圧巻のドキュメンタリー
「一生に一度は訪れたい場所」として、国内のみならず世界中から観光客がこぞって押し寄せる、瀬戸内海に浮かぶ島・直島。そこは、人口3000人ほどの小さな島ながら、草間彌生や宮島達男、安藤忠雄ら錚々たるアーティストたちの作品がひしめきあう「現代アートの聖地」となっている。
世界に類を見ないこの場所は、いったいなぜ、どのようにして生まれたのか?
今まで、その知名度とは裏腹にほとんど語られてこなかった誕生の経緯を、1991年から15年間、ベネッセで直島プロジェクトを担当し、「家プロジェクト」や地中美術館などの画期的な作品群・美術館を生み出した仕掛け人が、2006年に島を離れて以降初めて、自らの経験をもとに語り尽くす。
そこには、暗闇のなかでも諦めずがむしゃらに挑戦し続けるひとりの人間の姿があり、その苦闘の末に生み出されるのは、あらゆる理不尽を飲み込み時代を超えて受け継がれる奇跡のようなアートの数々である。

以前、野中郁次郎・廣瀬文乃・平田透『実践ソーシャル・イノベーション』という本をブログで紹介した。まちづくりや村づくり、地域の問題解決の活動等で起こるイノベーションのことを「ソーシャル・イノベーション(社会変革)」と呼び、知識視点からこのイノベーションを起こせるコミュニティをどう創っていくのかが論じられているこの本、今は手元にはないが、ブータンとの絡みで言えば島根県隠岐郡海士町や徳島県上勝町・神山町の事例が紹介されていて、ブータン好きの人にはお薦めの意外な1冊といえる。ついでに言えば、僕の自宅は東京都三鷹市であり、三鷹のソーシャル・イノベーション事例を扱っているという点で、さらに僕自身にとってはコスパが良い1冊だった。

その本の中に、株式会社ベネッセホールディングス・福武財団の「アートサイト直島」の事例も出てくる。2010年から始まって3年おきに開催されている「瀬戸内国際芸術祭」が実現に至るまでの地域おこしのイノベーションの経緯が詳述されていたとうっすらと記憶はしているのだが、この時点では仕事上の接点などなく、現代アートへの造詣もなかったから、「ふ~ん」という程度で終わってしまっていた。瀬戸内国際芸術祭について知ったのは、『実践ソーシャル・イノベーション』を読んだのがきっかけであった。

それがこの期に及んで盛り上がったのは、地域おこしに現代アートという手法も、この国で地方開発を考えていく上では選択肢としてあってもいいのではないかとふと思ったからであった。先月、東西ハイウェイのチュゾムサ橋開通についてブログで書いた時、切通しの壁面に巨大な壁画でも描いたら面白いのではないかと述べたことがあるが、どうやら宗教画を屋外で描くのはブータンではNGらしく、選択肢が現代アートの範疇になってくるらしい。こういう、ハードのインフラの整備にアート的要素を加える場合は、そこまではODAではカバーできないと思うので、クラウドファンディング等の手段で広く支援を募ることが求められる。そういうケースとして、チュゾムサの切通しは活用できるんじゃないか、ブータンで現在アートといったらVASTブータンだろう、そんなことを漠然と考えていた。

それにしても、僕自身は現代アートには疎く、また現代アートを使った地域おこしという知見もほとんどない。せめて、今すぐ読めるものでアートサイト直島の取組みの歴史が詳述されているものあったら参考に読んでおこう―――そう思って電子書籍版をダウンロードした。

著者は元々ベネッセに中途採用で入り、直島の変遷をつぶさに見てきた人である。2006年にベネッセが直島一島での取組みから周辺の島々へとアートの波を波及させようと舵を切った際に、福武会長と袂を分かち、その後金沢21世紀美術館の館長を10年務められた。2006年にベネッセを去って以降の直島での経験の周辺へのロールアウトについてはカバーされていないが、直島の経験を他島に横展開した話になってくるので、肝心の直島での経験の部分は、本書ほど詳しく述べられている本はないと思う。

ただ、年表もないし、口絵もない。単に文章だけで400頁もある大作で、アートを文章だけで表現することの難しさ、理解することの難しさも感じた。アートサイト直島のウェブサイトを時々眺めながら読むと、直島国際キャンプ場からベネッセハウスのオープン、そして「OUT OF BOUNDS」展、「家プロジェクト」、「直島スタンダード」展、「地中美術館開館あたりまで、本書の記述はもっと理解しやすくなっていただろう。

1996年には既に、「単に作品を購入して展示するのではなく、アーティストを招いて「直島にしかない作品」を制作してもらい、完成した作品はベネッセハウス内外に永久展示するコミッションワーク形式によるサイトスペシフィック・ワークへと方針を転換」したとある。現代アートのアーティストといったら、ブータンにはVASTのアーティストぐらいしかいないので、地方農村に増えつつある「空き家」のリフォームに現代アートの要素を活かすなんて話は、まだまだ時間もかかりそうな気がする。せめて、建築を勉強しているような学生向けに、こういう、地元の環境を生かした作品制作の道もあるのだよというのを今からでも紹介できたら、面白いかもしれないが。

ただ、実は本書を読んで直島の経験を学ぶ中で、今でもこんなことはできるんじゃないかというアイデアを思い付いた。それは直島国際キャンプ場についての記述で、1989年にオープンしたこのキャンプ場は、進研ゼミの小学講座で学ぶ子どもたちが夏の期間に島に集まって、野外生活をする場として開発されたらしい。それも単なるキャンプ場としてではなく、子どもたちに向けた教育プログラムを提供していたという。「通信教育をメイン事業とするベネッセにとっては、リアルに子どもたちと対面できる貴重な場でもあった」という。

ブータンには通信講座というのはないけれど、いずれ高地の子ども向けの遠隔学習教材の整備は進められていくことだろう。一方で、高地の子どもたちは冬休みが長い。この冬休みのうちに1週間でもいいので、暖かい土地に招聘して、体育とか美術とか、果ては手工芸とか算数100マス計算とか健康教育・栄養教育とか、青年海外協力隊の方々が持っておられる職種を組み合わせて、ウィンターキャンプを主宰されたらどうだろうか、などと考えたのである。壁画制作にクラウドファンディングと先ほど書いたが、高地の子どもたち向けのウィンターキャンプ開催のためにクラウドファンディング、なんてのもありではないでしょうか。僕は協力隊員ではないので、これ以上の行動はできないけど、書いておけば誰か考えてくれる方いらっしゃらないでしょうか。そんな夢のある話を、本書を読みながら考えたのである。

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