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『アパレル・サバイバル』 [シルク・コットン]

アパレル・サバイバル

アパレル・サバイバル

  • 作者: 齊藤 孝浩
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2019/02/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
消費者の「クローゼット」を支配せよ!アマゾン「プライム・ワードローブ」、ZOZO「おまかせ定期便」、メルカリが変えた中古の意味…10年後の勝者が見通す壮大な戦略!

刊行されて2ヵ月少々、日経新聞の書評で取り上げられたのもつい最近という1冊を、市立図書館で順番待ちわずか1回のみで借りることができたのはラッキーだった。この手のアパレル業界情報を扱った本は2017年に出ている『誰がアパレルを殺すのか』以来だが、時々読んでキャッチアップしておかないといけないとつくづく感じる。それくらいはやりすたりが激しい。

本書において、著者は、アパレル業界のトレンドは10年ごとに新しいイノベーションが起こり、欧米のおよそ10年後を日本は追いかけてきているとの仮説を提示、2008年のファストファッションブームの日本上陸から10年が経過した2018年は、日本のファッション流通の新たなパラダイムシフトの年になると予測している。この仮説によると、これまでの10年間に欧米で起きてきたことを見れば日本で次に起きることがおよそ予測可能だとする。

1つは、ベーシックカジュアルアパレルSPA(アパレル製造小売り)やファストファッションSPAを下回る「さらなる低価格化」、2つめはチェーンストアによる電子商取引化の流れ、3つめは、(本書ではあまり深掘りされてないが)アパレル事業からランジェリーとヘルス&ビューティ事業にドメイン変更する流れ、4つめは店舗で無料体験を提供する業態の躍進なのだという。

この中でも本書で中心的な扱いを受けているのは上記2で、欧米の小売業店舗で見られるデジタル化や機械化の流れが、最先端テクノロジーをアピールするものではなく、顧客の体験やストレス解決を最優先にした課題対応型の適応策だと強調する。店舗スタッフの作業軽減に関しては日本の小売店でもセルフレジの取組み等が見られるが、欧米では、来店客の無駄足の軽減、接客待ち、試着待ち、レジ待ちの時間の軽減といった、ユーザーの利便性の向上を主眼として導入されているのが特徴で、著者は、この動きが今後日本でも強まっていくだろうと予想する。

この業界に務める僕の知人が、よく「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の話をしていたのを思い出す。その話を聞いた時には売れるものづくりのキモぐらいの印象で聞いた話だったが、帰国してから読む様々な文献や新聞雑誌の情報からは、生産者に較べて消費者がパワーを有する大きな時代のシフトなのだと感じるようになった。その上で本書に戻って来てみると、ユーザーにかけていた負担を軽減する方策の検討が欧米ではここまで進んでいるんだというのを実感させられる。

本書は、アパレル業界のトレンドを把握するには非常に良い本で、その分析枠組みも明確で、構成も非常に理解がしやすい。今回は図書館で借りて読んでみたが、この手の本は座右に置いておいて時々参照するのにはもってこいだと思う。

その反面、ちょっと物足りなさも感じるところがある。

1つは、この著者がアパレル業界を業界内から見えてきた人だからなのかもしれないが、ファッション流通のパラダイムシフトの10年周期説も、結局のところ欧米の同じ業界の中で過去10年間に起きてきたことを振り返ることで可能な予測に終わっているように思う。それでは、今までアパレルとはほとんど接点のなかった別の領域で起きていることは、今後のアパレル業界のパラダイムに影響を及ぼさないのだろうか。本書の分析枠組みではこの部分はよく見えなかった。

例えば、僕がもう1つ関心を抱いているのがデジタル・ファブリケーションの領域だが、ここで20年近くもメイカー・ムーブメントを主導してきた人々の間から、「ファブ・テキスタイル」という言葉がちらほら聴かれるようになってきた。僕自身、このファブ・テキスタイルが何を指すのかはよくわかっていないが、1つのあり方はユーザー個々人の体形にフィットしたカスタマイズ衣服のラピッドプロトタイピングのことかなと思っている。(ここでもユーザー本位の考え方が取られている。)本書を読んでいてその萌芽かなと一瞬感じたのはZOZOの「ゾゾスーツ」の部分だが、それは業界内での動きであり、業界の外で何が起きているのかまでリサーチした上での紹介では必ずしもなかった。

2つめは、これからの時代のキーワードが「サステイナブル」だと言っているわりに、サステナビリティ(持続可能性)を思わせる記述といったら、「ファッション業界はファッションライフスタイルを提案すると言いながら、(中略)顧客が今シーズンに新しい商品を買い足すという一部の局面にしか関わっていない」「これからは売りっぱなしではなく、その先にある消費者の悩みにどう関わっていくかが問われる」という部分にしか感じられなかったことには、若干の肩すかし感があった。

確かに、買った商品をどう管理するのか、あるいは処分するのかは、日本の狭い家屋を考えた場合には非常に悩ましい問題なので、この局面への目配りはあって然るべきだとは思うが、それだけを以って「サステイナブル」のトレンドだというのはなんだか違う気がする。生産工程での児童労働とか、遺伝子組み換え種子や化学肥料、農薬使用の有無とか、そういうのも含めての「サステイナブル」ではないのか。その部分をあえて捨象したのは編集上の都合だったりもするのかもしれない。日本が「エシカル元年」と言われたのも2000年代の半ばだったと聞くから、既にパラダイムとしては一巡してしまっているとも言えないことはないが、以前読んだ『誰がアパレルを殺すのか』でも、エシカルファッションの部分は実は落っこちてしまっていて、何かこのテーマを扱うのには不都合でもあるのかなと勘繰りたくもなる。

世界的にも、SAC(サステナブル・アパレル同盟)のような企業の連合組織があって、そこでは主には生産工程でのサステナビリティ配慮の普及についての取組みが慫慂されていると聞く。

3つめは、欧米初のトレンドを元に日本のファッション流通のトレンドを読むというのはいいとして、そのトレンドが、アジア諸国のファッション流通にはどのように波及していくのかについての洞察がないという点にも物足りなさがある。まあこの部分はないものねだりなところもあるのだが、欧米のトレンドは日本を経ずに直接アジアにも波及しているのか、それとも日本初のアジアへの発信もあるのか、その辺は正直言うとちょっと知りたかったところでもある。

くしくも5月10日は「コットンの日」、5月11日は「世界フェアトレード・デー」と、まさに「サステイナブル」を具現化したイベントが国内各地でも開催が予定されていると聞く。これに対して、著者はどういったポジショニングで臨むのだろうか。あるいは、本書で紹介された各企業と企業家は、これにどのように臨むのだろうか。他に仕事がある身でなかなかフォローできないが、ちょっと興味がある。
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