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『平場の月』 [読書日記]

平場の月

平場の月

  • 作者: 朝倉かすみ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/12/13
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
朝霞、新座、志木―。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる―。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。

この本、近所のコミセン図書室で偶然借りられた直後、なんと直木賞候補作品にノミネートされた。過去に直木賞を受賞した作品との比較において、またこれまで少ないながらも読んだ朝倉作品との比較において、これで選ばれないのもどうかという気は確かにする。

50代、年老いた親の介護、子の成長と独立、癌と死―――扱っているキーワードは一時期の重松清作品と近いが、彼の受賞作『ビタミンF』よりは高く評価する。重松作品はちょっと泣かせるための押しが相当入るが、『平場の月』の場合は冒頭ですでに須藤が大腸がんで亡くなることを明示し、それに向かって静かに流れていく時間が描かれている。一気に泣かせる描き方ではなく、静寂の中でじわじわ効いてくる泣かせ方である。僕はあまり読書してて泣くタイプの読者ではないけれど、同じ時代を生きている同年代の読者として、抱く共感は大きい。50代のオジサンにはやられた感が大きい作品だった。

朝倉作品にはありがちかなと思うのは、冒頭で出てくる人物と人間関係のごちゃつきであった。そこを我慢してやり過ごせば、あとの展開は時系列に沿っているので比較的読み進めやすい。適宜冒頭部分に戻って読み直し、「そういうことか」と理解して行くのである。また、時折中学時代の回想シーンが出てくるが、青砥が「付き合って下さい」と須藤に告げた時の須藤の不可解な言動が、どのような背景で生まれてきたのかもその中で語られていく。うまく効いていると思う。

僕は離婚もしてないし、高齢ながらも現時点で両親は健在で施設にも入っていない。転職もせず、子どもたちはまだ独立もしていない。管理職は卒業して、「いたいならいろ」的な働かせられ方をしているけれども、仕事は続けている。作品の主人公とは生きてきた時代はほぼ同じだが、置かれた境遇はちょっと違う。

それでも思うのである。僕は中学時代に本当に気になっていた子にはコクっておらず、ちょっとした人間関係のこじれで口をきかない状態になってそのまま卒業してしまったが、もし僕自身が青砥のような立場になり、たまたま何かの機会にその中学時代に気になっていた女性と再会してしまい、そしてその彼女が須藤と同じような状況にあったとしたら、僕はどう行動するのだろうか…?多分、青砥と同じような行動を取るのだろう。そう強く感じるのである。

そして、もし相手の女性が須藤と同様に不治の病に侵される身であったとしたら、やっぱり須藤と同じような行動を取ってしまうのではないか、とも感じる。

僕らの世代で互いに寄せる感情の静けさって、こういうことなのだろう。同じ状況に置かれたら、僕らでもそうしてしまうだろうというあるある感。それがこの作品へのひとかたならぬ共感につながっている。僕と同世代の50代の読者には薦める。直木賞、是非受賞して欲しい。

タグ:朝倉かすみ
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