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『海に生きる人々』 [宮本常一]

海に生きる人びと (河出文庫)

海に生きる人びと (河出文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/07/04
  • メディア: 文庫
内容紹介
宮本常一の傑作『山に生きる人びと』と対をなす、日本人の祖先・海人たちの移動と定着の歴史と民俗。海の民の漁撈、航海、村作り、信仰の記録。

小さな山岳国に住んでいると、海岸沿いに暮らしてきた人々の暮らしに惹かれることが時々ある。今年に入って宮本常一の著作を読むのはこれが2冊目だけど、いずれも海にまつわるお話だった。お目当ての島は登場しなかったけど、本書の記述からの類推で、その島も元々は漁業で食べていて海人の往来が相当頻繁に行われていたのだろうなと想像はできた。

宮本の著作を読むたびに、地名というものの重要性を痛感させられる。今回も「あま」と付く地名は、それがたとえ海から離れた内陸にあっても、元々は海で漁労や航海業を生業にしていた人々が、豊臣秀吉以降の定住促進策の影響もあって定着した地だった可能性があるらしい。そういう歴史の暗号のようなものを、平成の市町村合併がぶち壊してしまった側面もある。宮本は単に村々を歩いてそこに暮らす人々と語り合い、古文書を読み込み、その時まで連綿と続く地域の歴史を掘り起こし、記録にとどめて行った。それらを「山」や「海」といった括りで整理し、アカデミックな成果も発表してきている。

歴史の勉強にもなる。学校の授業で習った通り一遍の日本史に、民衆の視点が加わり、授業で習うことが民衆の生活にどのように影響を与えたか(あるいは受けたか)に思いを至らせることができる。松浦党がなぜ特定の氏ではなく党なのかとか、南北朝の頃によく見かけた少弐氏はどこに行ってしまったのかとか、本書を読まなければ気付かなかったことは多い。

こういう、全国津々浦々を歩き尽くした民俗学者がまだ昭和の時代にはいたというのが、日本人にとっては幸せだった。今の我が子たちが学校での正規の教科書を覚えるのに必死になり、地域の歴史や家族の歴史というものを自ら調べる機会すらないように感じる。学校教育で教えられる歴史や地理をちゃんと覚えているかで評価されはするけれど、地域や人、家族というものへ思いや深い洞察というものは評価されない。うちの子どもたちは親の親戚がどこで何をしているのかには殆ど関心がない。ややもすれば、親のやっていることにも関心がない。

僕自身もいろいろな出会いがあり、自分で関心を持って文献読んだり実際にその地を歩いたりしてきたから、歴史や地域に対する造詣を多少なりとも深めて来れたのだと思う。そんな自分にできることは何だろうか―――本書を読み終えた今、改めて自分自身に問いかけているところである。

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